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エクセレント経営者に迫る|増田石油株式会社

九州で有数の石油販売事業者として93 年の歴史を誇る増田石油株式会社。石油産業が大きな転換期を迎えるなか、2010 年に38 歳で社長に就任された増田成泰社長はTSUTAYAやコメダ珈琲店のFC 運営などエネルギー以外の分野にも積極的に進出し、事業の多角化を推進してこられました。「いつも今より新しい」をキャッチフレーズにチャレンジを続ける増田石油の経営戦略を、増田社長にうかがいました。

風土改革を推進し、
「いつも今より新しい」
企業として成長し続ける。


エクセレント経営者に迫る|増田石油株式会社
増田石油株式会社
代表取締役社長 
増田 成泰 氏


所在地 福岡県福岡市中央区大手門3-4-5
      TEL 092-761-2211
設立 1958年12月(創業1926年)
従業員数 130名
資本金 1億円
年商 241億円(’18/12期)
事業内容 石油製品販売、LPG販売、保険代理業 電力事業&太陽光発電、TSUTAYA事業 コメダ珈琲、フィットネス事業
U R L  http://www.masudag.co.jp

変化をいとわず
新しいものにチャレンジしていく
DNAを受け継いできた


—— 御社は法人向けの産業燃料部と個人客を主とするSS 部(ガソリンスタンド)、家庭や飲食店にLPガスを販売するガス部の3 本柱よる安定的なエネルギー事業に、TSUTAYAやコメダ珈琲店のFC運営によるチャレンジ事業を展開され、電力販売事業にも進出されています。多岐にわたる事業を展開される企業としての特色は何でしょうか。

増田 創業者・増田茂吉が長崎で魚函(トロ箱)の製造や製氷など、漁業周辺事業を始めたのが当社の創業です。後に漁船向けの燃料の販売へと転身し、石油事業の礎を築きました。以後、石油販売業を軸にして漁業や建築などさまざまな事業にチャレンジしてきました。既に撤退した事業もありますが、失敗を恐れず時代のニーズに真剣に向き合ってきました。会社として新しいものにチャレンジしていくことへの違和感や抵抗が少なく、変化をいとわない気質が育まれ、そのDNAを受け継いできたことが、当社の特長だと思います。

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コンビニ併設のセブン‐イレブン202西の丘SS


—— 90 年以上の長い歴史のなかで、それぞれの地域でお客様の信頼を培ってきたことも強みですね。

増田 もちろんそうです。当社の営業エリアは部門によって多少異なりますが、福岡県、鹿児島県、長崎県を中心に佐賀県、熊本県にも一部展開しています。特に創業の地である長崎県や、早くから事業を展開してきた鹿児島県、福岡県では、何十年とお取引きをいただいているお客様がたくさんおられます。先人たちがお客様との関係を大切にしてきたことが、当社の大きな財産となっています。しかし、石油をはじめとしたエネルギーの国内需要は人口減や省エネ等の要因もあり、縮小を免れません。先人から受け継いだ財産を守るだけでは成長を続けていくのは難しく、多角化を志していかなければなりません。もちろん、既存の石油事業でもチャンスがあればどんどんチャレンジしていきますが、新しい事業に挑戦することを常に考えていく必要があります。

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安定した供給で企業ニーズに応える産業燃料卸

効率的な仕事のスタイルや
合理的な運営を学ぶ


—— 増田社長は2010 年に38 歳で第4代社長に就任されました。後継者としての自覚はいつ頃から芽生えましたか。

増田 長男なので子どもの頃から継がないといけないと漠然と思っていましたが、自由にしたいと反発する時期もありました。大学で東京に行ったのも、就職したのも将来を考えてというよりは、一人暮らしで自由にしたい、自分を試してみたいという気持ちが強かったと思います。

—— 2002 年に増田石油に入社されるまで、アメリカ留学や石油会社の勤務もされました。そこでの経験はどのように役に立っていますか。

増田 就職して4年経った時、まだ戻ってこなくていいと言われたので、海外も経験してみたいと思いアメリカの大学院でMBA(経営学修士)取得のための留学を2年間しました。英語でのプレゼンテーションには苦労しましたが、人にものを伝えるテクニックやアピールすることの重要性、多様な考え方があることを身をもって学ぶことができました。
 また、3か月ほどですがインターンシップでアメリカの石油会社に勤務できたのも、良い経験になりました。仕事のやり方が非常に効率的で、朝は早く会社に来て定時になればさっと帰る。今、日本では働き方改革が推進されていますが、アメリカでは2000年当時からそうした仕事のスタイルでした。日本で上司が帰らないと部下は帰りにくいという雰囲気も経験していましたから、アメリカ流の仕事のスタイルはとても新鮮でした。 帰国してからのエクソンモービル有限会社(現在のJXTGエネルギー株式会社)での勤務は、「ディーラージュニア」の制度を利用したものです。これは取引先の後継者を預かってトレーニングしディーラーにお返しすることでロイヤリティを強めて、取引関係を強固にすることを目的とした制度です。新卒から3年間の勤務が基本ですが、私の場合は中途採用で1年半の勤務にカスタマイズしていただきました。この時には会社を継ぐことが前提ですから、実践的なマネージメントの手法などのノウハウを学びました。そこではスタンドの運営の仕方一つとっても合理性を重視して、いかに無駄をなくすかが徹底されていました。運営成績が上位25%の「ベストプラクティス」のSSをベンチマークにして、それにいかに近づけて行くかを目標とした運営方法です。すべて法とルールに基づいた運営スタイルで、日本的な付き合いはほとんどありません。例えば、日本の会社なら取引先の担当者が転勤するとなった場合、お世話になったからとプレゼントを贈ることもありますが、そうした付き合いも一切排除しています。良いか悪いかは別にして、ビジネスをやるうえでは非常に論理的で、合理的でしたから個人的にはたいへん勉強になりました。

新規事業に取り組むことで
多様性や活気が生まれた


—— 入社されたとき、会社の状況をどのように感じておられましたか。

増田 会社の業績は悪くはなかったのですが、業界全体としては非常に厳しい環境になっていましたので、当社もコスト削減に力を入れていて、閉塞感というか、社員のみんながあまり生き生きとしていない雰囲気を感じていました。 成長や縮小を繰り返すなかで、時代や環境に応じ社内の状況が変わることは、ある面では仕方がない部分もあるかと思います。
 祖父に当たる2代目社長の時代は、経済成長期でモータリゼーションの波に乗り事業を大きく拡大し、どんどん新しいことにチャレンジできました。福利厚生など組織としての充実を図り、レクレーションも重視して、運動会など家族を巻き込んで会社としての一体感を醸成してきました。
 3代目の父は、バブル崩壊後のデフレ経済の中で、拡大した事業を整理し筋肉質の企業へ改革していくことに追われた時代でした。改革によって財務体質は強化されました。一方で活気というか、モチベーションはどうしても下がってしまいます。また、レクレーション的なことも廃止したので部門間、地域間の交流の機会が少なくなり、会社としての一体感が薄れてきている感じもしました。

—— FC 事業に取り組まれたのは、そうした状況を変えたいという思いからでしょうか。

増田 2006年の上半期の業績が悪化し、通期で赤字になりかねないという危機感が大きなきっかけでした。悪化の要因は原油市況によるもので、石油業は自分たちがコントロールできない外部要因によって業績が大きく変わっていく。それだけに企業の命運を委ねるのはリスクが大きいことを痛感し、多角化を志しました。新規事業の創出のためのプロジェクトを立ち上げ、2009年にFC運営事業としてTSUTAYAを開業しました。FCを選んだのは、ゼロから時間を掛けてつくるより、言い方は悪いですが手っ取り早い。新規事業創出ためのスピードとリスクの大きさを勘案すれば、FC運営ビジネスが当社にとっては最良の選択だと判断しました。

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中洲gate’s店ほか福岡県下でTSUTAYAを3店舗展開

—— 新規事業に参入されるにあたっての人材はどうされましたか。

増田 FCの運営ではやはり店長が重要になってくるので、最初のTSUTAYA事業では店長のほか主要なスタッフは、既存のスタンドなどから適材と思われる社員を抜擢しました。SSも接客業で共通している業務も多いのでアルバイトの採用や管理などのノウハウを活かせます。2016年と2018年に1店舗ずつオープンしたセブン・イレブン併設のSSも、スタンドの社員がコンビニを運営しています。最初は苦労したようですが、今は馴染んでうまく運営してくれています。ただコメダ珈琲店などは業態もお客様の層も違います。これまでの人材では必ずしもうまくいかないことが多いので、新たに採用した社員が中心になっています。

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福岡、熊本で9店舗を展開するコメダ珈琲店

—— 新規事業にチャレンジしたことで、どのような変化がありましたか。

増田 売上ベースではFC 運営などによるチャレンジ事業は全体の15%ですから、多角化という視点ではまだまだこれからです。今の時点で評価するなら、新しい事業にチャレンジしたことで社外からの評価が変わったことでしょうか。いろいろなことにチャレンジできる会社だと認知され、採用面では以前より多くの学生に注目されるようになりました。また、従来の石油事業だけの時代とはタイプの違う人材が入ることにより全体が活性化してきました。例えばコメダ珈琲店では女性スタッフが中心で、考え方にも多様性が生まれてきたと感じています。

自然発生的に意見や
提案が上がる風土に


—— 2018 年に1 年をかけて人事評価制度の改定に取り組まれ、2019 年度方針では「風土改革の実践」を掲げられています。改革への思いをお聞かせください。

増田 どのような風土に変えていきたいかというと、自然発生的に様々な意見、提案がどんどん上がってくるような風土です。そのためにどうしたらいいか
と考えた時に、仮説として当社の人事評価制度を理解して、納得している人が少ないのではないかと思ったのです。無記名でアンケートをとったら、人事評価制度に納得感がないし、そもそも関心がないという結果になりました。どんな評価を受けているのか分からないし、評価のフィードバックがないなどの課題も明らかになりました。透明性が高く、公平性があり、やる気が出る制度に抜本的に変えよう。それが風土を変える前提になると思い、コンサルタントにも入ってもらって時間を掛けてしっかりと取り組みました。
 まず、以前はあいまいだった人事のコンセプトや求める人材像を議論して明文化し、それを基に人事・評価制度を考えました。改正した大きなポイントの一つは、評価者と被評価者で定期的にコミュニケーションを取るルールにしたことです。振り返りコミュニケーションシート(振りコミシート)に基づいて「あなたのこの2週間の目標はこれですね。これは出来ましたか?」と振り返ることで、評価や認識のズレをなくして納得性を高めます。他にも賞与の支給を年2回から3回にしてメリハリをつける制度に変えました。奇をてらう制度ではなく、個人個人の成長を促すという視点をみんなが共有するための制度です。また、新しい制度では、チャレンジを評価する仕組みも採り入れています。
 もちろん制度だけで意見が出やすい風土に変わるわけではないので、他の取り組みも進めています。その一つが、さまざまな部門から若手の有志を集めた勉強会です。仕事で感じていること、会社を変えていきたいことなどのカイゼン提案を経営層に提言してもらうことにしています。他の階層でもプロジェクトを立ち上げて、それらを積み重ねることによって、意見を出すことが良いことだという風土、アイデアがどんどん湧き出るような風土を醸成していくつもりです。

—— エネルギー事業では2018 年11月に熊本にガス営業所を新たに開設され、新規事業では今年5月にフィットネス事業を立ち上げられます。改革の成果が出てきていますね。

増田 熊本のガス営業所は現地の事情に詳しい現場の社員から提案があって、そこから検討を始めて開設したものです。私も含めて幹部は、ガス事業で新たな地域に後発で参入することは考えてもみなかったのですが、成熟した市場でも開拓できるチャンスがあることを提案で気づかされました。まだまだこれからですが、良いスタートが切れたと思っています。

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2018年11月、「熊本ガス営業所」の開所式

 フィットネス事業は、新規事業を立ち上げる未来プロジェクトで検討してきたなかで出てきたもので、FCの運営者として参入するのではなく、自社でゼロから立ち上げる事業です。「福岡・九州の女性を健康でカッコよくする」をコンセプトに、九州最大の繁華街である天神(福岡市)に女性専用のパーソナルジムをオープンする予定です。
 これからも新規事業などにチャレンジし続けることで、社員一人一人が仕事を通して成長でき、生き生きと仕事ができる会社、入って良かったと思ってもらえる会社を目指していきます。


エクセレント経営者に迫る|増田石油株式会社
エクセレント経営者に迫る|増田石油株式会社
2019年5月、女性専用パーソナルジム「BiBiA」オープン



—— 最後に、投資育成会社のご感想などをお聞かせください。

増田 親しくさせていただいている先輩経営者からのご紹介がきっかけです。当初は話だけでも聞いてみようという軽い気持ちだったのですが、話をうかがってみるとメリットをクリアに理解できたので、会長のほか役員の方にも了承をいただき、2014年に出資していただきました。投資育成会社が安定株主として入っていだいたことでガバナンスの安心感が増しましたし、優良な企業や専門家のネットワークを生かしたサポートが受けられることにメリットを感じています。投資育成会社からご紹介いただいた同じ年輪会メンバーであるシステム会社さんに当社のシステムのグランドデザインなどをしていただき、助かっています。今後も本音で相談できるパートナーとして、当社の経営を支えてもらえることを期待しています。
長時間にわたり、貴重なお話をありがとうございました。
変化をいとわず、新しいものチャレンジするDNAを受け継ぎ、自然発生的に様々な意見、提案がどんどん上がってくるような風土にしたい。
そのための改革を続けていきます。

PICK UP
エネルギー事業とチャレンジ事業の両輪で展開
エネルギー事業は産業燃料部・SS部・ガス部を3本柱とし、チャレンジ事業はTSUTAYA(3店舗)やコメダ珈琲店(9店舗)のFC運営事業のほか太陽光発電、電力販売事業などを展開している。

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2019年全体会議開催 

エクセレント経営者に迫る|増田石油株式会社
2019年度方針は「風土改革の実践」



エクセレント経営者に迫る|増田石油株式会社
P r o f i l e
1971年長崎県生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、株式会社東芝に入社。4年勤務の後、米国ジョージ・ワシントン大学の大学院に留学しMBA(経営学修士)を取得。帰国後、エクソンモービル有限会社(現在のJXTGエネルギー)を経て、2002年増田石油株式会社に入社。取締役、代表取締役専務を経て、2010年代表取締役社長に就任し、現在に至る。


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