特集記事
エクセレント経営者に迫る| 株式会社 スーパーモリナガホールディングス
地域社会から必要とされる100年企業を目指して
人を育て、常に変わり続ける
佐賀県に10店舗、福岡県久留米市に1店舗を展開し、お客様満足度最高レベルを追求した店づくりで安定的な成長を続ける株式会社スーパーモリナガホールディングス。2020年7月にホールディングス体制へ移行し、さらなる成長への布石を打たれた堤 浩一社長に、創業の精神を大切にした経営について伺いました。
代表取締役社長
堤 浩一 氏
本社 スーパーモリナガ空港通り店
会社概要
所在地 佐賀県佐賀市川副町南里757
TEL 0952-34-7121
設立 1957年4月
従業員数 1,000名
資本金 5,000万円
年商 180億円(’21/1期)
事業内容 食品スーパーマーケットの運営
U R L https://www.super-morinaga.co.jp
新店の新しい店舗づくりがお客様に大好評
――2020年6月にオープンした南佐賀店は、先駆的な店舗として業界で注目されました。どのような新しい取り組みをされたのですか。
堤 南佐賀店は当社にとって7年ぶりの新店であったので、以前からやりたいと思っていた新しい店舗づくりにチャレンジしました。まず一つは、冷凍食品売場の拡大です。お客様のニーズは冷蔵から冷凍に変わってきており、冷凍食品メーカーも新しい商品をどんどん作っています。それに対応して、南佐賀店では冷凍食品売場を従来店舗の5倍にしました。もう一つは、店舗内でパンを製造して販売するインストアベーカリーです。テナント様の出店でベーカリーを展開している店舗はありますが、今回は自社で挑戦してみようと、若手社員がゼロから勉強して立ち上げました。既存店舗でなかったことと言えば、その2点が大きな取り組みです。
――カート型セルフレジなど最新型のレジを多数導入したことも話題になりました。これも以前から考えておられたことですか。
堤 買う物を自分でスキャンして、キャッシュレスで決済するというように人の手を省いたレジ決済が時代の流れになっています。セミセルフのレジなど、当社は以前から新しいレジの導入には積極的に取り組んできました。南佐賀店では、さらに進化したスキャナを搭載したカートで決済をする最新型のセルフレジを導入しました。コロナ禍で人と接触せずに買物ができるスーパーマーケットとしてメディアにも取り上げられましたが、南佐賀店のセルフレジはキャッシュレス化という大きな時代の流れに対応するために、もともと計画していたことです。
――新しい取り組みはお客様にどのような反響がありましたか。
堤 冷凍食品は、他店にはない商品を求めて来られるお客様も多く、実際の冷凍食品の売上も全店で一番となっています。品揃えの多さは、お客様だけでなくメーカーさんにも注目してもらっています。ベーカリーは焼き上がりを待つお客様がいるほど開店当初から大変な人気です。特に100円均一と手頃で分かりやすい価格にした菓子パンや、150円で提供している店内で焼き上げたバンズを使った10種類のハンバーガーは、店頭に並べたらすぐに売れてしまうほどです。今では大好評の「150円バーガー」を、毎週土曜日に全店舗で販売しています。
南佐賀店は周辺に競合店舗も多く、もともと楽な地域ではありませんが、目標としていた業績はクリアし、順調に立ち上がっています。
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先代社長から経営者としての決断を学ぶ
――堤社長は御社設立の3年後のお生まれで、会社の成長を子どもの頃から身近に感じておられたと思います。後継者として意識したのはいつ頃からですか。
堤 小中学生時代はスーパーマーケットとは言ってもまだ商店の規模で、休みの日には荷下ろしなど店の手伝いをしていました。子ども心にいずれ店の仕事をやると刷り込まれていたのかもしれませんが、後を継ぐ決心をしたのは大学時代です。ちょうどその頃、当社の売上の中心になっていた鹿島店のすぐ近くに大手資本の大型スーパーマーケットが進出することが決まりました。私は東京にいたのであまり感じていなかったのですが、父は危機感を持ってその対応のために奔走していました。その中で、福島県いわき市で大型店を向こうに回して大健闘しているスーパーマーケット「マルト」の社長のお話に感銘し、福島からはるばる佐賀までお越しいただき教えを請いました。ちょうど私が大学を卒業する時期でもあったので、「息子の面倒も見てもらえませんか」と父がお願いし、私は株式会社マルトに入社することになりました。
――マルトをはじめ、どのような経験が経営者として役立ちましたか。
堤 マルトでの2年半の勤務で多くのことを学ばせていただきました。店舗運営の実務は当然ですが、様々な人との出会いは経営者としてとても大きな財産となりました。業界の方やマルトの幹部の方とご縁をいただき、今も交流させていただいて折に触れ、指導をいただいています。
当社に戻ってからは、販促の仕事や日用雑貨の仕事を2年ぐらい担当し、鹿島店の店長になりました。店長はチラシも作るし、トラブルやクレーム対応もするし、いわば何でも屋です。ノウハウが十分あったわけではないので、何事も自分で考えてやるしかありません。POSレジの導入についても私がメーカーと交渉しながら先進的なシステムを立ち上げました。その時の苦労が、人を育てることにも役立っています。
――先代社長(堤 駒雄氏)からはどのようなことを学ばれましたか。
堤 店長の時も、その後の会社の経営についても、父からは細かな指導を受けたことはあまり記憶にありません。POSレジの導入もOKをもらった後は、すべて任せてもらいました。父から学んだことは、経営者としての決断力です。
当社のターニングポイントとなったのは、1997年の佐賀県初の大型ショッピングセンターとなった鹿島新店のオープンと、その翌年の唐津店のオープンです。それまでは徐々に商売を拡げてきたけれど、大店法(大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律)の規制で競合に対抗するような大型店は出せませんでした。しかし、法律が変わったことで大型店を出店でき20~30億円の売上から100億円企業へと、一気に飛躍する転機となりました。出店には巨額の借入が必要で財務的には非常に厳しい状況になりますが、父が思い切った決断をしました。そこでの投資がなかったら、今の当社はないでしょう。法律という自分たちの力ではどうにもならない外部環境が変わった時、その好機をどう活かしていくか。これは経営者としてとても大事な決断です。
他店の視察や勉強会で変化する力や人間力を磨く
――全国の先進的なスーパーマーケットの視察を頻繁に行っていると伺っています。それはどのような効果がありますか。
堤 コロナ禍で最近はあまり行くことができませんが、注目されるスーパーマーケットは北海道から沖縄まで、全国の店舗を見学してきました。社員が同行する場合もありますし、ここは勉強になるというお店は店長やバイヤーなどにも見学に行ってもらいます。当社はCGCグループ(全国の中堅・中小スーパーマーケット約220社4,000店で構成する協業組織)に加盟していますので、加盟店であれば気軽に見学させてもらえます。20年、30年と同じことを続けている店は生き残っていけません。売れている店舗がどんなことをやっているのか、新しいもの、自店とは違うものを見て常に刺激を受けて変わっていかないと、成長につながりません。また、新しい店舗だけでなく、以前行った店舗がどう変わったかも見ていきます。どの店舗のみなさんもいろいろ考えて店舗を変えてきているので、それを見ていくことは大切です。
PICK UP

1957年に設立した「有限会社もりなが家」がスーパーモリナガの出発点となった。

第50代「大恵比須」となった堤社長の絵が描かれた佐賀恵比須神社の十日恵比須大祭のポスター(絵は佐賀大学の小木曽誠准教授が特別に描いたもの)。
20年以上前から出店先の市町に毎年寄付を行っている。上記写真右は福岡県久留米市長の大久保勉氏。
小学校の社会科見学の一環として行っていた店舗見学がコロナ禍で実施できなくなったため、WEBでの見学、学校へ訪問して体育館での説明などを行っている。

地元のJリーグチーム「サガン鳥栖」をスポンサーとしてサポートしている。
――若手社員の活躍も御社の特色となっています。人材育成で大切にされておられることは何ですか。
堤 当社は2000年頃から大卒の採用を始め、生え抜きの新卒社員が40歳代になって中堅社員として活躍しています。以前は、入社4年目ぐらいで店長に抜擢することもありました。どこまで覚えたら店長ができるかではなくて、中途半端でもいいから店長にして、その中で覚えさせるという育成方法でした。人が育ってきた現在では、そのような無茶はしなくなりましたが、経験者だから良いという考え方はしていません。特に新しい取り組みは、ゼロから勉強していく方が良いと考えていますので、南佐賀店のベーカリーでもやる気のある若手を抜擢しました。
人材育成で私が社員によく言っているのは、いくら仕事ができても人間的に成長しない人は評価しないということです。その人間力を高めるために、主任以上を対象に月刊誌「致知」を活用した勉強会を毎月1回開いています。4人1組で「致知」に掲載されている記事の感想を発表し、発言者にコメントしていくというものです。始めて3年ほどですが、社員のスピーチする力、文章を書く力、人の話を聞く力が向上してきていると感じますし、社内コミュニケーションの活発化にも効果があると感じています。
地域社会から必要とされる100年企業を目指す
――御社は自治体への寄付や障がい者雇用の促進など、地域への貢献に積極的に取り組んでおられます。そこにはどのような思いがありますか。
堤 出店先の自治体(7つの市と町)への寄付は、地域社会に恩返しをしたいという思いで父が21年前から始めました。障がい者雇用も地域の支援学校からの要望に応えるために15年ほど前から環境整備を進めるなど積極的に取り組んできました。その結果、障がい者の雇用率が法定雇用率(民間企業2.3%)を上回る4%以上になり、2016年に障がい者雇用の優良事業所として厚生労働大臣表彰を受けました。地域社会への貢献は、事業で利益をしっかり出して雇用を拡大し、税金を納めることが一番大切です。それにプラスして、日頃お世話になっている地域に何か役立つことをしたいという思いで、毎年少しでもいいから寄付を続けています。
佐賀には米・麦・野菜・果物から玄界灘や有明海の海産物、佐賀牛など多くの名産物があります。地元の産品を生かした商品の開発にも積極的に取り組んで、地域に貢献していきたいと思っています。また、佐賀市では毎年正月十日に開かれる佐賀恵比須神社の十日恵比須大祭が盛んで、私は光栄にも第50代の「大恵比須」を拝命しました。2021年はコロナ禍で史上初めて延期になっていましたので2年振りの開催になります。佐賀の皆さんが元気になって街が明るくなることを祈念して、大役を果たしていきたいと思います。
――今後の成長戦略はどのように描いておられますか。
堤 将来的に避けられないのは人口減少で、佐賀県でも現在の約81万人の人口が20年後は69万人に減少するとの予想があります。コロナ禍で改めて認識されたように食品スーパーマーケットは生きていく上で欠かせないインフラですので、無くなることはないけれど、売上は減少していきます。生き残っていくには、当社が地域のお客様から本当に必要とされる企業であり続けなければなりません。そのために、創業者である父と叔父から話を聞いて「創業の精神」をまとめ、それを基に経営理念を作り直しました。経営理念の<私たちの目標>では、「私たちは、『鮮度・おいしさ・価格・おもてなし・地域密着度』のお客様満足度最高レベルを追求し、地域社会から必要とされる100年企業を目指します」と掲げています。その目標を実現するために、3カ年の中期経営ビジョンを策定しています。
2020年にホールディングス体制に移行したのも「100年企業を目指す」ためです。円滑な世代交代や異業種への進出など、どのような変化にもタイミングを逃さずすぐに対応できる体制にしました。
――最後に、投資育成会社のご感想をお聞かせください。
堤 出資を受けたのは2004年で、スムーズな経営承継のために父が決めました。安定株主として長期的に経営を支えてもらっていることはもちろん、私自身も幹事をした年輪会での交流で経営者として勉強できることなど、投資育成会社のメリットは数多いと思っています。また、最近ではホールディングス体制をどう活用していくかが当社の課題でしたが、専門家を紹介してもらい、とても助かっています。今後も資本政策や経営承継などで貴重なアドバイスを期待しています。
――長時間にわたり、貴重なお話をありがとうございました。

Profile
堤 浩一 氏
1960年佐賀県生まれ。1984年慶応義塾大学商学部卒業後、福島県いわき市が本社のスーパーマーケットチェーン、株式会社マルトに入社。2年半の勤務の後、1986年株式会社スーパーモリナガ入社。2000年常務取締役、2002年専務取締役を経て、2005年代表取締役社長に就任。2020年株式会社スーパーモリナガホールディングス代表取締役社長に就任。