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あさかわシステムズ株式会社

建設業界は、深刻な人手不足と就業者の高齢化に直面し、技術活用による生産性の向上が喫緊の課題となっている。その建設業界に特化してDXに挑むIT 企業がある。建設系IT 業界のリーディングカンパニーとして、2023 年1月にTOKYO PRO Market市場へ上場予定の、あさかわシステムズ株式会社だ。DXが困難とされる建設業界で何を狙い、何を仕掛けるのか。その企業戦略について三宅安幸社長に伺った。


建設DXの大きな課題にソリューションを提供する
ゼネコンから生まれたIT企業



あさかわシステムズ株式会社
代表取締役社長
三宅 安幸 氏

あさかわシステムズ株式会社
会社概要
所在地   大阪府泉佐野市りんくう往来北1番SiSりんくうタワー
       TEL 072-464-7831
設立    1984年7月
従業員数  92名(2022年10月)
       375名(グループ会社全従業員数)
資本金   6,480万円
年商    10億6000万円(’22/3期)
事業内容  パッケージソフトウェア、クラウドサービス、コンサルティングサービス、ソフトウェア開発、保守・支援サービス
U R L    https://www.a-sk.co.jp


Products & Services
ゼネコンをメインユーザーとするERP パッケージが主力製品

 現代の暮らしに、デジタルトランスフォーメーション( 以下、DX )は欠かせないものになりつつある。映画のチケットをオンラインで購入できる仕組みや、銀行口座の取引をオンラインで行えるインターネットバンキングもDXの典型だ。こうしたDXを、建設業界に広げる動きが加速している。

 あさかわシステムズ株式会社(以下、ASK)は、建設業界に特化したシステムインテグレーター※ 1として、全国の建設業にオリジナルのERPパッケージ※ 2を展開している。営業からシステム開発、運営、メンテナンスサポートまで一貫して行い、ユーザーニーズに応えた商品力の高さに定評がある。なかでもASKの「ガリバーシリーズ」は全国で約1000 社に導入され、業界シェア1 位を誇る製品だ。

 「ゼネコンの株式会社淺川組の情報システム部門が独立し、IT 企業として創業したのが当社です。建設業に明るいIT企業として、創業以来、建設業向けにシステムを開発・販売してきました。現在もお客様の多くがゼネコンで、鉄道向けなど各種専門工事会社(サブコン)とも取引きしています。建設業の就業人口は高齢化し、減少の一途をたどっています。マンパワーが不足した状況は今後さらに進み、ダム・橋・上下水道などのインフラが老朽化する今、建設DXの推進は急務です。しかしながら、建設業界のDXはなかなか進んでいません。その理由は業界の特殊性にあります。DXに取り組みやすいのは、繰り返しの多い単純作業です。一方、建設業は企業や現場ごとに環境が異なるため、業務の標準化が非常に難しい分野で手作業も多い。建設業界はもっともDXが難しい分野といっても過言ではありません」。

 その中で活躍する「ガリバーシリーズ」は、案件情報の管理や見積書作成、原価・資機材・発注・減価償却などの情報も一元管理し、現場での入力にも対応、さらには決算まで行える。勤怠管理や経理といったバックオフィス機能もあり、決算が複雑な建設業界における救世主のようなシステムとして高い評価を受けている。毎年バージョンアップを重ね、建設業者のニーズに細やかに応えている。また2010 年にリリースした、産廃・砕石・リサイクルの現場に特化したKiwamiは、2025 年に開幕する大阪万博の建設現場でも活躍するクラウド対応型ERPパッケージだ。Kiwamiを活用すれば、鉄やアルミを積載したトラックごと大型計量器に乗せて積載量を計り、積載する資材ごとの金額を計算、一元管理が可能になる。

 「これまでは作業員がトラックの荷台に乗りこんで目視で計量し、手書きの伝票を作成してから、トラック運転手に現金を支払っていました。その作業のすべてを自動化することで、現場のマンパワー削減につながるだけでなく、作業効率を劇的に上げています」。

 このように建設業界に特化してソリューションを提供するASKは、建設DXの担い手として大きな注目を集めている。

※1:システムインテグレーター(System Integrator)…システムの企画・開発・導入から運用までのサービスを一貫して提供するIT企業。
※2:ERPパッケージ…Enterprise Resource Planningの略で、会計・人事・生産・物流・販売など、基幹となる業務を統合して効率化・情報の一元化を図るシステムの総称。一般的
に基幹システム、業務統合パッケージとも呼ばれる。


建設の現場で活用できるDXに対応したオリジナルのパッケージソフトウェア
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History
選択と集中の経営戦略で建設業界に特化したIT企業へ

 1973年の春、三宅社長は株式会社淺川組に入社した。淺川組での勤務が急きょ終わりを告げたのは、入社10 年目の1984年。電算室が淺川組から分離独立して、アサカワコンピュータシステム株式会社が設立され、三宅氏は専務取締役に就任した。

 「創業当時は何でもやりました。消防システム、行政システム、塾のシステムなど。淺川組の本社が和歌山にあったので、新会社も和歌山で設立し、地元に特化したソフトウェアを開発しました。淺川組のグループ企業として、また大手メーカーの下請け企業としても事業を広げ、消防システムでは全国の下請け企業の中でトップシェアとなりました。しかし、下請け企業は製品の値段を決められません。そこでメーカーの下請けではなく、建設業という得意分野に特化したシステム開発へ舵を切ることにしたのです」。

建設業に特化した、大型コンピュータで動くパッケージソフトウェアを開発し、その後、IT 技術の進歩にあわせてWindows 版の「ガリバー/W in 」をリリースした。これが高く評価され、全国展開をスタートさせる。現在、約1000 社に展開される「ガリバーシリーズ」の原形だ。しかし90 年代に入るとバブル崩壊により、建設業界にも倒産の嵐が吹き荒れた。親会社である淺川組も例にもれず、会社更生法が適用され、グループ企業にも連鎖倒産の危機が訪れた。

  「連鎖倒産の危機を社員一丸となって乗り切りました。すでに多くのお客様をもっていたことも大きいと思います。様々な方面から応援をいただきました」。

 1998 年には淺川組グループからの分離独立を果たし、その翌年「あさかわシステムズ株式会社」に社名を変更した。2000年に本社を和歌山県から大阪府へ移転し、関西国際空港からほど近い高層ビル「SiSりんくうタワー」に本社を構え、本格的に全国展開を始めた。そこからASKは、建設業専門のシステムインテグレーターとしてトップランナーへと駆け上っていく。

 「当時はバックオフィス専用のパッケージソフトウェアでしたが、お客様の声に応えるかたちで現在はERPパッケージをメインに展開しています。通信技術の進歩により、山奥の建設現場でもIoTが進み、クラウド型への移行が加速しています」。

 Kiwamiなどの製品が全国どこでも使える時代が到来し、ASKはさらなる活躍の場を迎えようとしている。


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会計に強いSE、総務人事系に強いSE、資機材に強いSE、現場に強いSEなど、多様なジャンルの専門SEが社内で活躍する。


Management
テレワークを取り入れ生産性向上と働き方改革を実現

 コロナ禍でテレワークの働き方が広まりつつある。ASKもいち早く対応し、社内にテレワーク専用ブースを増設した。ASK 内のテレワークは急速に進み、コロナ前に計画していた名古屋事業所の設立も見送りになったという。今まで社員が転勤して対応していた東京案件も、この春からは大阪にある本社でのテレワークに切り替えた。

 「先日完了した北陸のBIG 案件は、現地を一度も訪れることなく、システム開発の打合せから導入まですべてオンラインで完結した初のケースです。今までは当たり前だと思っていた長時間の移動がなくなることで、労働時間が短縮され生産性もアップしました。その分お客様への交通費請求を減らせるため、コストダウンの提案が可能となり、お客様からも喜ばれています。テレワークにより家族の転勤で辞職する社員も減り、人材確保に役立っています」。

 ASKでコアのシステムを守るのは女性がメインのチームだ。最近では、フィールドSEとして建設現場を訪れる女性社員も増え、女性の活躍の場が広がっている。女性の活躍、地方在住者の活躍。そうした多様な人材の活躍を支える背景には、ASK 流のチームビルディングがある。2 〜3 年に1 度、社員全員で海外旅行へ行き結束を強めているのだ。

 「国内旅行だとそれぞれ好きに行動しますが、海外旅行だと皆まとまって行動します。自然と話す機会が多くなり、開放的な気分になるのか意外な一面をお互い発見するようで、海外への社員旅行を機に離職希望者が思いとどまったこともありました。テレワークが進
む今後はさらに貴重な場になると考えています」。

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3泊4日で全社員が参加する海外旅行の行先は、グアム、ハワイ、香港、タイ、台湾、ベトナムなど多岐にわたる。


Future
建設DX のソリューションをワンストップで届ける企業をめざして

あさかわシステムズ株式会社
 近年DXが注目されるようになった背景には、2018年に経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン」があるとされている。ビジネス活動でDXを推進できなければ、2025 年以降に最大で年間12兆円もの経済損失が生じる可能性があるとする、いわゆる「2025 年の崖」に対して国は警鐘を鳴らしている。

 「DX 推進に取り組む企業は増えていますが、多くの企業はまだDXの前段階のデジタル化にとどまっている印象です。真のDXとは、業務プロセスだけでなく、企業活動全体をデジタル化することで、企業のあり方や社員の働き方を変え、最終的にはビジネスモデル自体を変える『大変革』を意味します」。

 ASKは2023 年の年明けに、建設業の点検業務で活用できる、新しいクラウド型パッケージソフトウェアをリリースする予定だ。これまでの点検業務では点検者が現場を見回り、点検が必要な箇所を用紙に記入して、その情報を作業員に共有していた。ASKの新製品を使うと、スマホなどの端末からGPSの位置情報を得ることで、点検が必要な箇所にその場でチェックを入れるだけで、リアルタイムで作業員に共有される。点検業務の負荷が激減し、危険予知のスピードが増すことで、現場の安全性は格段にアップする見込みだ。

 「現場で活用できるこうしたソフトウェアを、今後は既存のERPパッケージに組み込んでいく予定です。現場の作業を簡略化して、建設業界のマンパワー不足を解消し、建設業務のあり方を変えていければと考えています。そのためには増員が必要で、全国の協力会社もさらに増やしていく必要があります。2023 年の年明けに予定しているTOKYO PRO Market 市場への上場後は、建設技術計算ソフトやCADなどを扱うIT 企業と提携し、ワンストップで建設業界にソリューションを提供できる企業をめざします」。

 すでにASKは数年後の受注案件まで決まっているという。ASKが進める建設DXに今、大きな期待が寄せられている。


TOPICS
建設DXのブランド戦略にシンボリックなキャラクターを採用

あさかわシステムズ株式会社
 ASKには一目見ると忘れられないブランドマークがある。「ASKIDS」というマスコットキャラクターだ。ブルーを基調としたASKunと、ピンクを基調としたASKyonという2体のキャラクターで構成される。建設DXを進めるブランドイメージを届けるため、建設業のシンボルであるヘルメットを着用させた。ASKから提供されるすべてのシステムやソフトウェアは、ASKの大切な子どもたち(KIDS)であり、未来永劫かわいがっていただきたいという願いを込めている。

 創業25周年を迎えた2009年から、このマスコットキャラクター「ASKIDS」を中心としたブランド戦略と企業コンセプトを全面に打ち出し、拡販活動を積極的に推し進めている。日本中の建設会社で、ASKIDSの笑顔を見られる日はそう遠くはないのかもしれない。

COLUMN
あたたかな企業風土が表れる400号を超えて発刊される社内報

 IT企業というとクールでドライなイメージを持つ人も少なくないが、ASKはあたたかな雰囲気のある企業だ。社員が外出するときや帰社したときは、入り口に置かれた和太鼓をポンとならす習慣がある。その音がすると「いってらっしゃい」「おかえりなさい」の言葉が飛びかい、和やかな雰囲気に包まれる。こうしたアットホームな企業風土は、全社員で行く海外旅行や、活発なクラブ活動にも表れており、月ごとに発刊される社内報もその1つだ。

 創業2年目に創刊された社内報「NOA」は、News of ASKの頭文字をとって名付けられた。毎月、管理部が編纂するNOAは430号(2022年10月時点)をむかえ、毎月約30ページにわたり社内の状況や社員の想いを伝えている。月間スケジュール、受注状況、パッケージソフト販売実績、作業進捗報告など、業務にまつわる細やかな情報共有はすべてNOAに集約される。ペーパーレス化が進んだ現在は社内用サーバで共有され、いつでも誰でも閲覧できるようになっている。

 何よりNOAで特徴的なのは、業務に関する情報だけでなく、社員によるコラムが数多く掲載されている点だ。永年勤続表彰者によるコラム、新入社員によるコラム、クラブ活動報告、社員による推薦図書や映画、社員のプライベート旅行のコラムなど、どれを読んでも楽しみながら書かれていることが伝わってくる。読み進めると社員一人ひとりの顔が見えてくる。NOAを読めばきっと、ASKのファンになることだろう。

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Posted by マガジン at 08:24 │企業紹介