特集記事
ケニス株式会社
日進月歩で発展する科学の世界。その絶え間ない科学イノベーションを、日々支えているのがケニス株式会社だ。科学を事業ドメインとし、教育や研究の場で使われる理科学機器を数多く製造・販売する。創業75周年を迎えたケニスは、日本の科学技術と共に成長を遂げてきた。今では日本全国に代理店網を有し、主要都市に6つの営業拠点を構え、全国で高いシェアを誇っている。ユニークな事業ドメインで活躍を続ける戦略について西松 正文社長に伺った。
科学と共に栄える企業としてたゆまぬ変革をつづけ科学技術の発展に貢献する
代表取締役社長
西松 正文 氏
会社概要
所在地 大阪市北区天満2-7-28
TEL 06-4800-0721
設立 1947年5月
従業員数 157名(グループ合計)
資本金 8,000万円
年商 70億円(’21/8期)(グループ合計)
事業内容 理科学器械及び教材の製造並びに販売、試薬(一般毒物、劇薬を含む)の販売、度量衡器及び計量器の販売、医療機器及び材料の販売
U R L https://www.kenis.co.jp
Products & Services
創業時の理念から生まれた稀有な事業ドメイン
顕微鏡やフラスコを使って実験をした、学校の理科室を覚えているだろうか。子どもたちが初めて本格的な科学に触れるその瞬間、手にしている教育用機器がケニス株式会社の商品だ。学校や科学館などの教育機関から、大学や企業の研究室までを顧客とする他に類を見ないビジネスモデルで、ケニスは日本の科学技術の発展に寄与してきた。
「創業以来、『科学と共に栄える』という理念の下、子どもたちの可能性を引き出す教育用機器から、研究者が求める優れた研究機器まで、科学に関わる商品を幅広く取り扱ってきました。創業者である祖父が起業した当時から事業ドメインを科学に置き、『教育』と『研究』という2つの市場で成長してきた珍しい会社です」。
時代と共に変わる理科教育に合わせ、常に商品を改良し続け、販売網を全国に広げてきたことで、ケニスは理科教材で全国トップクラスのシェアを誇っている。教育市場における認知度が高く、少子化が進む現在も、継続的に右肩上がりの売上を達成している。
「教育市場において、ケニスはリーディングカンパニーとしての地位を着実に築いてまいりました。しかしながらご承知のとおり、少子化で学校の数が減り、教育市場の成長が鈍化し、シェア争いも激化しています。そこでケニスは、全国に広がる代理店網を活用してさらなる売上拡大を目指したいと考えています。現在、『新しい教育』を転機とし、文部科学省が進めるGIGAスクール構想※に対応した新教材を検討しているところです」。
もう1つの主要事業である研究分野の市場は巨大で、参入する企業も多い。競争は激しいが、拡大し続ける市場ならではの大きな伸びしろがあり、ケニスはそこに商機を見出している。
「研究市場では当社よりシェアの高い企業も多数ありますので、ブランド認知度を上げることが必要だと考えています。そのためには営業力を上げること。そして商品の取り扱い数を増やすこと。伸びしろが大きな市場なので、新たな販売チャネルを整えることで売上拡大が狙えます」。
ケニスでは現在、会社を挙げてEコマースの販売体制作りを進めている。
※学校における児童生徒1 人1 台端末と高速ネットワークを一体的に整備する取り組み。
教育用と研究用の理科学機器でケニスが取り扱う商品数は、優に1万点を超える。
ケニス 社名の由来
創業以来の社名「科学共栄社」が「ケニス」という社名に生まれ変わったのは2001年のこと。「ケニス」は科学共栄社のブランド名だ。ケニスの「ケ」は科学共栄社の頭文字のK、「二」は創業者西松氏のN、「ス」はサイエンスのSを表している。商品力の強さから「ケニス」の名は全国に知れ渡り、入札などで科学共栄社と名乗ると、ケニスというメーカーの代理店だと誤解されることも多く、愛称として親しまれてきたブランド名「ケニス」に社名を変更した。
教育用理科学機器
物理・化学・生物・地学・プログラミング・ICT機器・エネルギー・環境・光学機器・計測機器
研究用理化学機器
History
創業から脈々と継承されるケニスの革新的な経営力
ケニスが創業したのは1947年、戦後まもなくのことだ。1945年8月15日を境に日本は一変し、海軍潜水学校教官を務めていた創業者の西松張尾氏もまた例外ではなかった。終戦後、広島の高等師範付属中学校(現在の広島大学)で理科学を教えていた長兄から、「理科器械製作の仕事がある」との手紙が舞い込み、それがケニス創業のきっかけとなる。
「科学技術の力で敗戦したと考えた創業者である祖父は、これからは理科教育に力を入れなければと考え、広島市にケニスの前身となる、科学と共に栄える会社『科学共栄社』を興しました。教育用機器の製作・販売を開始し、創業の翌年には大阪支店を開設しました。小中高等学校の教育用機器を網羅したカタログを発行して全国に営業することでメーカーとしての地位を築いていきました」。
創業者からバトンを渡された二代目社長、西松正武氏の時代は、築き上げられた会社を大きく育てた発展期といえる。
「1976年に現在会長を務める私の父が二代目社長に就任しました。当時は、創業地の広島での売上が6 〜7割を占めていましたが、就任の翌年には神戸営業所を開設し、さらに福岡、東京、札幌と順次営業拠点を開設することで全国区の会社に押し上げ、業界上位のシェアへと会社を成長させました。一方で、1980年代の教育現場では、子どもの数が減少の一途をたどっていました。将来を見据えた会長が、研究市場の理化学機器への参入を開始し、現在では売上の過半数を占める主要事業へと成長しています」。
IT時代を迎えた2010年、現在の社長西松正文氏が三代目の社長に就任した。就任後はM&A、最新システムの導入、物流倉庫の新設など大きな変革が続いている。その変革の1つがICT教育への取り組みで、プログラミング教材の商品展開を開始した。社長として転機となったのは2016年、大阪で100年の歴史を誇る理化学商社、増田理化工業株式会社のグループ化だった。
「グループ化は、研究用理化学機器事業の成長戦略として大きな決断でした。異なる特徴をもつ組織同士のシナジーが生まれ、それが現在の売上増につながっています。グループ化により増えた商品群の一元管理も進め、基幹システムも刷新しました。そして今年1月に完成した新たな物流拠点『ケニス門真ディストリビューションセンター』では商物分離を進め、物流面での変革にも取り組んでいます」。
Management
売上を落とすことなく新しい働き方にあわせた環境を実現
創業以来、毎年売上拡大を続けるケニスだが、売上を増やしつつこの2年間で勤務時間の20%削減に成功している。ペーパーレス化、ノートパソコンへの切り替え、基幹システムの入れ替えを実施し、業務の標準化と情報の共有化を進めた成果だ。さらにこの1、2年で、在宅勤務を含めた勤務内容や人事制度を幅広く見直す改革を進めている。
「昨夏は等級制度の見直しを実施しました。等級を倍に増やして社員にも公開し、現状のポジションを明確にすることで社員のモチベーション向上を図る狙いです。体系化されていなかった研修制度も一新し、社員が明確なキャリアビジョンを持てる体制を今整えているところです。今後は、年次が近い先輩社員が講師となる『繋げる・伝える型』の研修も実施します。今まで役員や部長が行ってきた研修を、年次の浅い社員が担うことで、キャリアが浅い段階から会社への帰属意識を持ってもらえればと考えています。さらにエクセルや英語など、社員が希望する研修を積極的に実施することで、社員一人ひとりの業務力の底上げを図っていく予定です」。
ケニスではこうした取り組みと同時に、育休や有休制度の見直しなど働きやすい環境づくりも進めている。代表的な1つがオフィス戦略だ。
「ペーパーレス業務を推進して書庫を削減し、テレワークやWEB会議など新しい働き方に対応した、半フリーロケーションのオフィスへとリニューアルしました。この春にはモラールサーベイ(従業員意識調査)も実施し、さらなる職場環境の改善に取り組んでいきます」。
TOPICS
物流改革を進めるケニスの新たな挑戦、ケニス門真ディストリビューションセンターが誕生
西松社長が若いころ、先輩から教わった言葉がある。「物流を制する者が商流を制す」という言葉だ。今の時代になり改めて、この言葉の重みを感じていると西松社長は語る。
物流改革を進める西松社長は2022年1月、大阪の門真市に、即納体制の向上を実現する新しい物流センター「ケニス門真ディストリビューションセンター」を稼働させた。敷地面積2,000坪、延べ床面積1,600坪の巨大な物流拠点だ。ケニスの改革のポイントは物流とそれを支える情報システムにあると考える西松社長が、満を持して取り組む物流改革の一環だ。
新しい物流センターでは自動倉庫とハンディーターミナルを導入し、これまで以上に効率的な入出庫が可能となった。これにより、1万点を超えるアイテムを適切に在庫管理し、迅速かつ正確に顧客に届ける体制を整備した。新しい基幹システムも導入し、見積りや受発注業務だけではなく、商品管理の効率化も図る。現状の稼働率はまだ余裕があるため、今後さらに商品数が増えても十分対応できるようになっている。
この改革により、今まで混在していた商流(受発注)と物流(入出庫)を分けることで、生産性を飛躍的に高め、成長を押し上げる狙いだ。IT技術を駆使した次世代の物流戦略で商物分離を進め、ケニスは新たなステージへと歩みを進めている。
バケット自動倉庫
パレット移動ラック
小物保管スペース
ハンディーターミナル
COLUMN
子どもたちの理科教育を通してSDGsへ貢献する
誰一人取り残さない、持続可能でよりよい社会を目指すSDGs(持続可能な開発目標)。その達成に向け、ケニスは理科教育を通じた貢献を積極的に続けている。
その1つが、「こどもエコクラブ」への協賛だ。「こどもエコクラブ」は幼児から高校生誰もが参加できる環境活動のクラブで、クラブ活動の様子をアピールする「クラブ活動フォトコンテスト」にケニス賞を設け、受賞者に教材を贈呈するサポートを続けている。
JICAのプログラムでは、エチオピアに理科教材を寄贈した他、エスワティニやパプアニューギニアの教員に研修プログラムを実施する活動も行っている。環境教育プログラムやエネルギー環境教育教材の開発を通じたエコ活動もケニスのSDGsの1つで、その他にも様々な貢献を続けている。
そしてケニスは今、SDGsに関連する新たな教材を考えている。理科教育を通して、安全な水の作り方を学んだり、気候変動の仕組みを学べる教材だ。例えば「ろ過」や「沈降」などを学ぶ過程で、SDGsで実際に役立つ知識を身につけられる、そうした理科教材を開発し、教育機関に提案することを検討している。子どもたちは学校でSDGsの理念は学んでいるが、理念だけで終わらせず、具体的な行動・実践に結びつけることができれば、将来、そうして学んだ子どもたちが環境問題を解決するプロジェクトを立ち上げるかもしれない。理科教育を通して地球の未来に種をまく。ケニスならではのSDGsがそこにある。
教育と研究の分野で科学を支えるリーディングカンパニーを目指して
ここ数年でケニスはダイバーシティを進めている。従業員の男女比率は半々となり、シンガポール人の管理職も誕生した。エスワティニ(旧スワジランド)やパプアニューギニアの理科教員に対し研修プログラムを実施する国際的な支援活動も行い、21世紀を生き抜く企業ならではの進化を絶え間なく続けている。
「『変化を捉えて未来を築く』をキーワードに、次の時代を力強く成長する戦略を描いています。教育分野と研究分野それぞれの事業ミッションを掲げ、業界のトップブランドを目指します。教育分野では、時代にあった『新しい理科室』を作り上げていくこと。研究分野では、今日の科学技術を支える研究者のベストパートナーになること。この2つをミッションとし、時代の変化を捉えた成長戦略を押し進めています」。
その具体的な戦略の1つが、首都圏におけるシェア向上だ。広島で創業し、大阪を拠点に拡大したケニスは、西日本エリアのシェアが高い傾向にある。
「現在、東京を中心とした1都3県のシェア拡大を重点的に行っているところです。次に、Eコマースなど新たな販売チャネルに対応すること。さらにはオリジナル商品の強化、取扱商品の拡充、ユーザー認知度の向上など、多岐にわたる戦略を並行して進めています」。
変化の激しい今の時代に1つ確かなことは、子どもたちが未来を担っていくことだと西松社長は語る。
「資源の少ない日本が世界をリードしていくためには、付加価値の高い教育で科学技術力に優れた人材を輩出し続けることが必要です。そういう意味で、理科教育が果たす役割は大きい。これからもケニスは、科学分野における教育と研究においてのリーディングカンパニーを目指し、社会に貢献していきます」。