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株式会社ホンダ泉州販売

100年に一度の変革期を迎えている自動車業界。その変化の波をかいくぐり躍進を続けるのが、株式会社ホンダ泉州販売だ。独自のユニークな取り組みに、本田技研工業株式会社からも熱い視線が注がれており、全国のHondaディーラーから多くの研修生が訪れる。
旗艦店となった「トリヴェールあゆみの店」の展開と、今後の成長戦略について大塚雅仁社長に伺った。

未来の産業構造を変えるといわれる100年に一度の自動車業界変革のときをユニークな戦略で駆け抜ける

株式会社ホンダ泉州販売
代表取締役社長
大塚 雅仁 氏

株式会社ホンダ泉州販売
本社

会社概要
所在地  大阪府和泉市肥子町2-8-56 2階
     TEL 0725-44-8811
設立   1985年9月
従業員数 371名
資本金  9,900万円
年商   174億円(’20/12期) 
事業内容 Honda系列新車販売、中古車の販売、自動車の修理・整備、自動車部品・用品の販売、自動車のリース・レンタル、損害保険代理業
U R L   https://www.hondacars-sensyu.com


Products & Services
Honda ディーラーの優良モデルとなった2015年始動のプロジェクト

 南大阪の和泉市に、マンションや大型商業施設が立ちならぶ人気のニュータウンがある。その街に2015年、超大型のHondaディーラー「トリヴェールあゆみの店」がオープンした。7,000坪の広大な敷地に、約2 , 000坪の販売店と、3,000坪にわたり複数の施設が立ちならぶ、日本屈指の施設だ。この地域の一世帯あたりの自動車保有台数は2~3台。週末には多くの人でにぎわうこの巨大施設は、オープンからわずか1年で収益化した。

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トリヴェールあゆみの店

 この「トリヴェールあゆみの店」を運営するのが、ホンダ泉州販売で、南大阪を中心に16店舗の新車・中古車ディーラーを展開している。640社を超えるHondaディーラーの中でもトップクラスの規模を誇る。注目すべきは出店後の収益化の早さだけではない。「トリヴェールあゆみの店」と同じ敷地内には、400台の在庫を配置できる西日本最大級の新車納車センターを開設している。販売から納車までをワンストップで行える施設は日本でもここだけだ。

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400台を収容できる大駐車場

 「『トリヴェールあゆみの店』の開設は、一大プロジェクトとして2015年に始動しました。これまでディーラーとして培ってきたノウハウを注ぎ込み、全社一丸となって取り組みました。このプロジェクトにより、今まで抱えていたさまざまな問題が解決し、会社も人も大きく成長したと思います」。 

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トリヴェールあゆみの店の商談スペース

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トリヴェールあゆみの店のショールーム

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感染対策を実施した打合せ

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お客様との商談風景

 その1つが、2014年から注目されはじめた自動車業界の社会問題だ。従来、納車は販売店で行うことが業界の常識となっていた。メーカーで製造された自動車は船便で港に輸送され、そこから大型積載車に積みかえて販売店へと運ばれる。その際、大型積載車が一般道路上で行う荷下ろしが交通の妨げになると問題になったのだ。そこでホンダ泉州販売は、トリヴェールに巨大な新車納車センターを設立し、納車をこの1箇所で集中して行うことで、路上での積み下ろしのゼロ化を実現した。

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トリヴェール新車納車センター

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トリヴェール新車納車センターでの納車式

 2つ目はCS(顧客満足)に関する問題だ。自動車を購入する顧客にとって、最もうれしいのは納車の瞬間だが、自動車の購入も納車も、その7割が週末に集中する。せっかくの納車日に、営業担当者が他の顧客に対応していて、納車の顧客を待たせることは珍しくなかった。これが新車納車センターの開設により、大切な納車の瞬間を、専用の場所で専任スタッフがゆったりと行えるようになった。

 「クルマは高額な商品になります。クルマを手にする瞬間を、事務的なものでなく、喜びの瞬間にする取り組みを行っているHondaの直営ディーラーを参考に、1つの仕掛けを用意しました。納車の瞬間に音楽をかけ、音楽が止まるとカーテンをオープンするセレモニーです。2回目、3回目の納車のお客様からも『毎回感動する』と好評です。95%のお客様からCSに対し高い評価をいただけるようになりました」。

 またCSの向上は、「残価設定型クレジット」の販売方法にも反映され、全国640社のHondaディーラー中、トップクラスに躍り出た。本田技研工業も、このユニークなプロジェクトを高く評価し、他社ディーラーにも推奨する優良モデルとなり、全国のHondaディーラーから続々と研修生が訪れている。

History
地元に密着した新たな事業展開でさらなる躍進を

 創業は1977 年。本田技研工業の社員だった現会長の後藤悦治郎氏が、20代で退職して始めた新車販売ビジネスが始まりだ。1985 年の会社設立時には、社員4名の小さな組織だった。

 現在に至る拡大路線の分岐点となったのが、2002年に新規オープンした800坪の大型店、泉佐野店(現、泉佐野市役所前店)の出店だ。800坪の自動車ディーラーというと、当時ではかなりの
大型店になる。この出店により、後藤社長(当時)は店舗の大型化に商機を見出し、その後の出店は大型店が標準となった。5店舗目となった泉佐野店の出店により、大阪府下のホンダプリモディーラーの中で最大規模となった。

 それから4年後の2006年、今まで3チャネルあった「ホンダベルノ」「ホンダクリオ」「ホンダプリモ」が、「HondaCars」に1本化された。これを機にすべてのHonda車を販売できるようになったことが、拡大要因の1つとなった。

 翌年の2007年には、本田技研工業の要請を受け、メーカー資本の受け入れを伴う合併を実施した。メーカー子会社から2拠点を譲り受け、一気に5店舗から13店舗まで規模を拡大した。「当時メーカーが打ち出していた拡大戦略における目標を達成するため、店舗拡大と人員増強に取り組みました。事業規模の成長に伴い、仕入れコストの改善や優秀な人材の確保など、基盤の強化につながり、若手社員の登用や高齢社員の働く場の確保も可能になるといった相乗効果も得られました」。

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 2011年は、本田技研工業と資本関係を解消するなど、大きな転換期となった。その背景には、後藤社長(当時)のあるビジョンがあった。ホンダ泉州販売は、社員全員が地元出身者である。社員の地元に対する想いを活力として、戦略的に地元に根差したビジネスを展開したいと考えたのだ。この転換期から4年後の2015年にトリヴェールプロジェクトが始動し、今日まで快進撃が続いている。

 さまざまな変遷を遂げてきたホンダ泉州販売が、創業時から貫く1つの主義が成果主義だ。「学歴も前職も関係なく、頑張った分だけ評価される会社にしたい」。創業者である後藤会長の想いは、今も脈々と受け継がれている。大塚社長が、幹部候補として40歳で入社したのは2001年のこと。2018年に就任した大塚社長は、自動車業界とは縁のない百貨店業界の出身だ。

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DXの取り組みの1つとして実現させたダッシュボードは、今ではなくてはならないシステムとなった。メンテナンスサービスの作業実施台数や、来店顧客の情報などを共有してCSの向上を目指す。

Management
新車販売に頼らない新時代の経営がすでに始まっている

 コロナ禍となり、自動車業界は厳しい状況に置かれている。半導体不足によるメーカーの生産調整や減産の影響を受け、自動車販売会社の多くが収益構造の見直しを迫られている状況にある。コロナ禍となる前から先細りが懸念されてきた新車需要を考えると、今後は新車販売に頼らない経営へシフトしていく必要がある。

 ホンダ泉州販売は以前から新車販売に頼らない経営を目指し、メンテナンスサービスの拡充を着々と進めてきた。現在では、収益の半分がメンテナンスサービスとなっている。
 「メンテナンスサービスの収益向上には、お客様の満足度が重要です。お客様が当社を信頼し、安心して任せてもらえる体制をつくり上げていく必要があります」。

 CS向上には終わりがなく、ホンダ泉州販売もさまざまな取り組みを行っている。その1つが、DX(デジタルトランスフォーメーション)だ。リアルタイムで更新される全社の顧客情報や実績状況を、ダッシュボードで共有できるようにした。ダッシュボードとは、さまざまな情報をグラフなどで可視化して共有する、デジタル掲示板だ。たとえば、その日に来店する顧客情報を共有することで、営業担当だけでなく、店舗スタッフ全員が顧客の来店理由を把握することができる。どの顧客がどのような理由で来店するのかを事前に共有することで、スムーズな顧客対応を実現している。

 「新車・中古車の受注状況、メンテナンスサービス部門の作業実施台数、任意保険の加入状況等を『ダッシュボード』で確認できるようにしています。また社員一人ひとりの成果を全員で共有するだけでなく、残業時間もリアルタイムで把握できるようになっており、作業の効率化にも貢献しています。『ダッシュボード』で社員一人ひとりが自分の位置づけを確認できるため、社員同士で切磋琢磨する材料にもなっていると感じています」。 

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全社に設置したダッシュボードを確認することで、社内の情報を全社員がリアルタイムで把握できる。グラフや表を使ってグラフィカルに情報を提示し、情報の視認性を高めている。

 また最近では、顧客の来店促進ツールとして、SNSを活用した販促戦略も開始した。ホンダ泉州販売の顧客のうち、約1/ 3の顧客とSNSでつながり、キャンペーンの告知などを行って来店促進を図っている。

 「これからはCSだけでなく、社員満足の向上も必須になると考えています。お客様と接するのは社員です。社員が楽しく働けない組織では、真の意味でのCSは実現しません」。

 ホンダ泉州販売はこの数年、積極的に働き方改革に取り組んできた。2015年にはすべての整備工場に空調設備を導入して作業環境を改善したり、営業一人あたりの担当顧客数を減らすことで業務負荷を削減している。さらに、QCサークル活動で全社的な職場改善に取り組み、鈴鹿サーキットでの全社員ミーティングなども実施している。

 コロナ禍の現在は、全社員へのPCR検査を実施し、ワクチン休暇も整備して、社員の働きやすさを模索している。

 「社員満足無くして顧客満足無し。頑張った者が報われる評価制度。この2つは不変です」。

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全社員によるミーティングを鈴鹿サーキットで開催している。また、QCサークル活動の表彰式を実施するなど、社内イベントを積極的に行うことで社員満足の向上を図るのが狙いだ。現在はコロナ禍で開催していないが、またイベントを再開する予定でいる。

Future
大変革が進む未来をシビアに見据えた新たな取り組み

 100年に一度の自動車業界変革のキーワードは「CASE」。CASEは「コネクテッド(Connected)」「自動運転(Autonomous)」「シェアリング(Shared & Services)」「電動化
(Electric)」の4つを表している。

 自動運転を指すCASEの「A」に対し、ホンダ泉州販売は5つの性能レベルのうち、最新のレベル3に対応した国の特定整備認証を2021年9月に取得した。

 電動化を指す「E」にも対応し、Honda初の量産電気自動車である「Honda e」の発売を機に、新車を扱う全拠点に中速充電器を設置した。

 そして今後、業界構造を変えるとされているのが、CASEを構成する残りの「C」と「S」だ。コネクテッドの「C」が指すのはクルマのIoT化で、巨大IT企業による自動車産業への参入に伴い、業界の競争は激化するといわれている。シェアリングの「S」では、所有から共有へとクルマに対する価値観の変化がすでに始まっている。都心部の若年層を中心にカーシェアリングが身近になりつつあり、新車需要はさらに先細りすると予想されている。

 「自動車業界は大きな変革期にあります。今後はDXにも注力し、今、独自でシステム開発を進めています。人材面では、外国人も含めた人材確保を積極的に実施し、実習生を含む外国人スタッフは十数名を数えます。変革の時代を生き残るためには“存在を期待される企業”であり続けること、そして“50年後も活き活きと活動する企業”であることが重要です。今年も20歳の学生が入社しました。70歳定年を導入するなら、彼らはあと50年働くわけです。採用した以上、50年後も活躍する会社であり続けないといけない。将来、会社の舵を握るのは若い社員たちです。ならば少しでも早く、彼らが事業戦略に参画する機会を作ることが必要不可欠です。その道筋をつくる取り組みも進めています」。
 新時代を生き抜くホンダ泉州販売の変革は、すでに走り出している。

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会社の未来を担う新入社員が今年も入社した。コロナ禍での新人研修は、万全な感染症対策をとっている。

COLUMN
新時代にふさわしい環境にやさしい板金工場の誕生

株式会社ホンダ泉州販売

 トリヴェールの地で新たな取り組みが始まった。2020年、水性塗料だけを使用する板金工場を開設した。多くのHondaディーラーは、外装の補修などを外注の板金工場に依頼している。板金工場の設置には大きな投資が必要になるが、それだけ付加価値も大きく、また自社の技術力向上にもつながる。油性塗料が主流な今、水性塗料のみを使う板金工場はめずらしく、後藤会長が、「まだ日本にない、オール水性塗料の板金工場をつくってみよう」と決断した。

 油性塗料はシンナー臭がするが、水性塗料を使った工場は無臭だ。水性塗料は体や環境にもやさしいため、新時代にふさわしい板金工場となっている。ただ1点、水性塗料には難点があり、油性塗料に比べると乾くスピードが遅い。そこで、ペイント企業の協力をあおぎ、調合を変えるなどの試行錯誤を続けている。さらに、板金工場内には「何でも修理工場」も併設した。

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 整備部長など、社内でも技術力の高いメンバーを配置し、今までは店舗で個別に対応していた難易度の高い修理を、ここで集中的に対応できるようにしている。「精鋭部隊がそろうだけあって、彼らはどんなものでも修理します」と大塚社長は誇らしく語る。トリヴェールは新しい取り組みを進める実験場のような、可能性に満ちた場所になりつつある。




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Posted by マガジン at 10:08 │企業紹介