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株式会社 テクノスジャパン

超高齢社会の到来、認知症患者も増加するなかで介護人材や医療人材が不足するなど、介護・医療の現場では、現在はもちろん、将来的にも多くの課題が山積している。そんな悩ましい状況を解消する機器を開発・販売しているのが株式会社テクノスジャパンだ。
ニッチトップ製品や世界にも注目された製品を次々と生み出した背景をはじめ、今後のものづくりの方向性について牛谷定博社長に伺った。

株式会社 テクノスジャパン

株式会社 テクノスジャパン
代表取締役社長
牛谷 定博 氏

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会社概要
所在地   兵庫県姫路市北条978
TEL     079-288-1600
設立    1993年3月
従業員数  67名
資本金   7,500万円
年商    17億円(’23/3期) 
事業内容  福祉機器(自社製品)の開発・販売
マイコン応用機器(自社製品)の開発・販売
U R L    https://www.technosjapan.jp

世の中にないオンリーワンな製品で社会や人の豊かな暮らしに貢献する企業

Products & Services
独自性あふれる製品で介護・医療の現場を支えるニッチトップ企業

 急速な高齢化社会の進展に伴い、高齢者をはじめ、認知症患者の増加が大きな社会課題となっている。そのケアにあたる介護・医療現場では、人材不足も重なり、十分な対応がより難しくなりつつある。また家庭においても老老介護やヤングケアラーなどの新たな課題も生まれている。

 こうした中で現場を支える機器の開発・販売を手掛けるニッチトップメーカーとして知られているのが株式会社テクノスジャパン( 以下、テクノスジャパン)だ。

 主力製品の「離床センサー」は、病院や介護施設で起こりやすいベッドからの転倒や転落事故の防止に役立つものとして、老人介護施設や慢性期病院、精神科病院などの医療機関に導入されており、国内シェアは60%以上、業界シェアナンバーワンを誇る。その仕組みは、枕元やベッド下に配置したセンサーマットが、身体を起こす、ベッドから降りるといった人の動きを感知し、通信システムを介して看護師や介護スタッフに伝えるというものだ。ほかにもベッドの柵を握る、ベッドの端に寄るなど、離床に関わる一連の動きに対応した関連製品も多彩にラインナップされている。

 「当社は、特殊な技術、最先端技術ではなく、身近な技術を駆使して世の中のお役に立つものづくりを行っています。現在、老・農・環・心を開発テーマとしたさまざまな製品を手がけていますが、メインの高齢者・認知症患者向けの機器の内、『離床センサー』は直感的で簡易な操作性、シンプルな構造だからこその壊れにくさや安定稼働性が現場の人々から高く評価され、販売開始から20 数年経った今も売れ続けています。またセンサー技術を活用した在宅ケア向けの徘徊感知機器関連も、国内トップシェアの実績があります」。

 2009年から発売された徘徊感知機器「家族コール」は、認知症の人が使用するベッドや床、ドアなどにセンサーを設置し、離床したり、部屋から出た場合に携帯タイプの受信機やスマホに入れたアプリ、メールなどで外部に知らせる機能を持っている。機器を導入することで、同居家族だけでなく、別居する家族も安心して認知症の人を見守ることができ、さらに介護保険レンタル商品として安価に利用できることから普及が加速し、現在、累計出荷数は8万台を超えている状況だ。「家族コール」は、今後も増加していく傾向にある家庭での認知症の人の見守りニーズに応えていくために、家庭での支援時に想定されるさまざまな状況に対応した機能が追加され、シリーズ化も進んでいる。テクノスジャパンでは、ほかにも、重度障害者用意思伝達装置をはじめとしたコミュニケーション機器に加え、将来の社会変化を見据えた新分野・新領域の製品開発にも余念がない。

 「私たちの製品の多くは、介護・医療の現場で使われることから、品質を最重要と考え、自社設計と国内製造にこだわっています。ファブレスメーカーである当社が品質・価値を左右する上流工程の設計をし、信頼のおける国内のパートナー企業で製造を行うスタイルを
徹底しています」。

 こうした社会の課題やニーズに寄り添った製品開発と、高品質なものづくりは、2006 年の「元気なモノ作り中小企業300 社」選定、2009 年には「ものづくり日本大賞」において優秀賞を受賞している。

History
社会情勢や今後伸びていく業界・市場を見極めた後、果敢に新製品開発に挑む

 テクノスジャパンは、1993 年、NEC(日本電気)の電気・生産技術者として20数年勤務し、東京や神奈川県の大規模工場の生産設備立ち上げに貢献した大西秀憲氏が創業した。当初は、大西氏と現社長の牛谷定博氏を含めた4 人が創業メンバーだった。しかし、ものづくり会社として起業はしたものの、最初はどの分野の製品をつくるかは定まっておらず、しばらく事業の方向性を決定するために情報収集と今後の社会情勢を分析する日々が続いた。

 その中で関税及び貿易に関する一般協定「GATTウルグアイ・ラウンド」で日本が米の輸入量を増加させる義務を受け入れたことから、国内の米価格が下落する懸念が膨らんだこと、また当時、農家の後継者問題を解決するために農業法人が次々と立ち上がっていた情勢を鑑みて「農業」をテーマに選定した。そうして1994 年には農業法人向経営支援システム「FACTOS 」を開発し、リリースする。自社製品第一号となるこのシステムでしばらく収益を確保しながら、大西氏が次の事業テーマとして見据えていたのは「福祉」だった。

 「1990 年代半ばの状況として、すでに高齢者問題が世の中でも取り上げられ、2000 年から介護保険がスタートすることも決まっていました。そこで当社は福祉に着目し、製品開発を加速させていきました」。

 福祉に関わる新たな製品として重度障碍者用意思伝達装置「KOTOBAX」を1995 年に、簡易型意思伝達装置「イエスノン」を1996 年に開発した。これらのコミュニケーション機器に類する製品の開発を契機として、続く1997年には現在のテクノスジャパンを代表する製品である、離床センサー 「徘徊ノン」(上記TOPICS参照)を開発した。また同年には、脳波スイッチ「MCTOS」の開発に成功、脳波を使って重度障碍者がコミュニケーションを取れるという世界初の画期的な製品として注目される。アメリカのAP通信、さらにCBSテレビ、CNN、イギリスのBBCといった各局から取材を受け、ニュースが放映されたことを皮切りに、国内でも注目を浴びるようになった。

 「『MCTOS 』が世界から称賛されたことで、それまで姫路のわずか数人規模の小さな会社だった当社が一躍有名になりました。このことは当社にとって大きな成長のきっかけとなり、その後の『離床センサー』の営業活動においても、“あの『MCTOS 』をつくった会社”という認識と信頼をいただけるようになりましたね」。

 テクノスジャパンでは、以降も開発の手を止めることなく毎年のように新製品や改良を加えたリニューアル製品を次々と世に送り出し、現在では100を超える製品を揃えている。

Management
第二創業期を起点に成長に向けた施策を次々と打ち出し、実行する

 創業から10年目を迎え、売上が1億円を超えた2003年を第二創業期として、テクノスジャパンは、さらなる成長を目指し、人材採用に力を入れ組織の拡充に取り組んだ。それまでは大西氏が開発から経理、製品出荷、修理、広報まで一人で担当していたが、各業務に適した人材を配置することで、自身は経営と製品開発に注力することとした。

 「当社はこの時から販売網の拡充に力を入れ始めました。2006年には東京支店を、2008年には福岡出張所、大阪営業所、2010年には仙台営業所、名古屋営業所、2011年には札幌営業所を開設していきました」。 全国に販売網を構築した後は、機器の故障に対応した修理のスピードアップにも取り組んだ。もともとテクノスジャパンでは、故障した製品を預かってから即日修理に取り掛かり、返却するというスタイルだったのが、「製品がなくて困っている利用者のもとへ、もっと早く届けたい」との思いから、社内の修理部門の人材を拡充し、さらにどんな状態の修理であっても定額修理対応するというスタイルに変更した。

 「修理金額を定額にすることで、金額の見積計算に要する時間や承認、価格決定のやりとりの手間を省くことができるようにと思考したものです。当社では日々の新製品開発だけでなく、現場の人や利用者のみなさんのことを第一に考え、サービスの見直しや変革にも力を入れています」。

 また最近では、月一回、最高顧問の大西氏を講師にさまざまな気づきを社員に与える勉強会を開いているという。勉強会の内容は、戦争や飢餓などをテーマにしたものなど、ダイレクトに技術者育成や経営人材育成につながるものではないが、人間として大事な物事の捉え方、考え方が身につくという点では非常に意義深い。

Future
未来を見据え、若手による新たなプロジェクトが始動。新事業・新製品開発に邁進

 「2023年に当社は創業30年を迎え、新社屋を建設(上記COLUMN参照)するなど、新たなステージに向けて歩み出しています。また2022年からは、若手を中心とした新製品・新事業開発プロジェクトをスタートさせました。その中で現在5つのプロジェクトが進行中です。今後は次代を担う若手による新しいものが生まれていくことに期待しています。例えば、最近注目される独居老人対策など、新たな社会課題を解決する製品や人生100年時代に生きる人の生活の質を高める事業など、テクノスジャパンらしいオンリーワンな製品やビジネスが生まれてくれば良いなと今から楽しみにしているところです」。

 こうした少し先の未来に向けた動きのほかに、直近の動きとしては、高齢者施設の入居者の心拍や呼吸などのバイタルデータをセンサーで検出し、モニタリングシステムを使って確認できる「eライブ」を2023年12月にリリースした。

 「『eライブ』は、これから当社が広げていきたいと考えている見守り領域に向けた製品となります。この製品の導入により、施設入居者の見守りの効率化や職員の皆さんの負担軽減など、多くのメリットを感じていただけたらと考えています。現場の方々にこんな製品があったのか!と感動していただけるものづくりをこれからも弛まず続けていくことが当社の使命だと考えています」。

 介護・医療分野をはじめ、より広域な福祉全般にも関わるさまざまな社会課題の解決に向けて、常に支援の現場と利用者に寄り添った製品の開発にテクノスジャパンは挑み続けている。その製品によってつくりだされるのは、誰もが老後の不安なく、いつまでも幸せな日々を過ごせる、そんな理想的な未来であることは確かだ。

「エレクトロニクス」×「マイクロコンピュータ」×「独創性」から生まれた製品群

株式会社 テクノスジャパン
病院・介護施設向け離床センサー
病院・施設で起きる高齢者による転倒・転落事故を1件でも減らしたいとの思いから生まれた「離床センサー」をメインシステムとした製品。
●コールマット
●車いすセンサー
●徘徊ナビ…など

株式会社 テクノスジャパン
在宅ケア向け機器
在宅での高齢者ケアに向け、介護保険レンタル対象品として開発。転倒・転落事故防止をはじめ、薬の飲み忘れ防止に対応した製品も揃う。
●家族コール3
●くすりコール・ライト
●お散歩コール…など

株式会社 テクノスジャパン
コミュニケーション機器
難病や重度障碍により言葉での意思疎通が難しい人とコミュニケーションを取るため、生体信号を活用した製品もラインナップしている。
● MCTOS Model FX
● EMOS CX
●パーソナルコールⅡ…など

株式会社 テクノスジャパン
株式会社 テクノスジャパン
新分野
見守り領域に関する製品、布団会社とコラボレーションした製品、農業分野の害獣対策製品など、他分野に向けた製品開発も進めている。
● eライブ
●αPLA Fクッション極
● 植物センサー…など

TOPICS

「離床センサー」開発秘話から紐解く創業者のものづくり精神

株式会社 テクノスジャパン
離床センサー第一号「徘徊ノン」
「離床センサー」開発のきっかけは、とある病院の院長から聞かされた「看護師が1〜2人になる夜間帯の高齢患者の転倒事故を防ぐために、患者が動いた時に知らせてくれる何か装置があれば」との言葉だった。過去に生産設備の仕事で使っていた危険地域への侵入を知らせるテープスイッチを思い出した大西氏は、これをベースに送信機と受信機をつないで試作し、翌々日には病院を訪問し、製品を見せたという。スピード感もさることながら、既存の技術・装置を組み合わせてつくる大西氏のものづくりの発想法は、その後のテクノスジャパンの開発においても遺憾なく発揮された。

株式会社 テクノスジャパン
現場のニーズや利用者の声を大切にし、感動を与えられる製品かどうかも重視して企画を行う。

株式会社 テクノスジャパン
誰もが簡単に操作しやすく故障しにくい製品をつくるため、シンプル設計にこだわって開発する。

株式会社 テクノスジャパン
医療現場や介護現場で働く人に向け、転倒・転落事故の課題解決を図る安全対策セミナーを行う。

株式会社 テクノスジャパン
お客様相談室では安心・安全に製品を使っていただくための方法や仕様の相談にも対応している。

株式会社 テクノスジャパン
定額かつ低料金での修理に加え、製品受け取り後スピーディーに修理できる体制を構築している。

株式会社 テクノスジャパン
2週間無料で離床センサーの使い勝手を実際に試せる「デモ機サービス」を展開している。

C O L U M N
品質管理・生産性の向上に加えて社員の働きやすさも見据え、新本社が竣工

事業の成長によって組織も拡大し、旧本社が竣工から13 年で手狭となったテクノスジャパンは、2023 年4 月に新本社が竣工した。建物は本館と工場棟があり、両棟トータルの延床面積は以前の4 倍となる1000 坪に拡張された。
本社機能を有する本館は地上7 階建で玄関フロアには、テクノスジャパンの製品がずらりと展示されている。
また大西氏が描いた縦2 . 5 m×横7 . 5 mの巨大な絵画が掲示されるなど、来客者の目を楽しませる趣向も凝らされている。
本館2 階には社員食堂もあり、グループ企業でつくられた野菜をたっぷり使った健康にも配慮されたランチが毎日食べられ、社員に好評だ。
ほかにも屋上には人工芝が敷き詰められたテラス、本館前には緑あふれる公園「テクノスNorthGarden 」といった憩いの場所も用意されている。
工場棟は、全長42 m のフロア真ん中に通路を設け、左右に作業場と部品保管場所を分けているほか、荷物の高さを1 . 2 mまでに制限することで、工場の状況を視認しやすいようにした。これにより、修理や梱包配送など業務の生産性向上につなげている。

株式会社 テクノスジャパン
本社玄関フロア

株式会社 テクノスジャパン
本社屋上

株式会社 テクノスジャパン
経営統括グループ
「経営企画」担当
マネージャー
中西 健之介 氏

「私も関わった新本社・工場棟の竣工により、当社の部品入庫から製品準備、保管、そしてご注文後の梱包発送まで、一元管理ができるよ
うになりました。もちろん昨今の働き方改革の流れも考えて本館には社員が憩い、新製品・新サービスを生み出すためのイマジネーションを膨らませる環境も整えました。これを機に新卒社員を多く採用し、育成することで、若者ならではの視点・発想による製品を生み出し、社会に
貢献していきたいと考えています」



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