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株式会社三興製作所
大阪と山形の2 工場を有し、産業用のスプロケットを中心にギヤ、タイミングプーリー、カップリングなどの伝動部品を製造販売する株式会社三興製作所。これほどの規模で国内生産をしているスプロケット専業メーカーは他になく、高品質、短納期を実現する一貫生産供給体制は、顧客から厚い信頼を獲得している。2 代目社長としてさらなる成長を指揮してこられた森 寿夫社長に同社の経営戦略について伺った。
日本のモノづくりを支える
国産スプロケット専業メーカーの雄
株式会社三興製作所
代表取締役社長
森 寿夫 氏
会社概要
所在地 大阪府岸和田市岸の丘町3-2-55
TEL 072-489-3330
設立 1967年2月
従業員数 100名
資本金 5,500万円
年商 20億円(’20/1期)
事業内容 スプロケット、コンベアーホイール、ギヤ、ラックギヤ、伝動部品、一般機械部品等の製造
U R L http://www.mssanko.co.jp
本社
山形工場
Products
国内一貫生産体制を基盤に海外調達品でも高い信頼を得る
スプロケットはエンジンやモータなどの動力の回転をチェーンに伝達したり、チェーンの回転を軸に伝達するための歯車で、チェーンホイールとも呼ばれる。使用される機械ではオートバイや自転車が代表的だが、食品機械、運輸・搬送機械、印刷機械など各種の産業機械にも幅広く使われている。株式会社三興製作所は、産業用のスプロケットを中心に、ギヤ、タイミングプーリー、カップリングなどの伝動部品を手掛けている。
「スプロケット専業メーカーは日本に数社ありますが、従業員100 人を超える規模で国内生産しているのは当社だけです」。森 寿夫社長に会社の特徴を伺うと、日本国内で生産しているスプロケットメーカーという言葉がまず返ってきた。それが三興製作所の強みであり、成長の原動力になっている。
スプロケット
産業用の伝動部品は多種多様で、同社が製造する製品は標準品から受注生産品まで、鉄・ステンレス・鋳物などの幅広い材料に対応している。大きさも直径1mを超えるものまであり、その種類は1万アイテムにも及ぶ。売上構成ではスプロケットやギヤが約60%を占め、残りの40%はタイミングプーリーや各種機械加工品などである。ベルトを掛けて動力を伝えるタイミングプーリーは、音が静かで給油が不要などの環境性能が評価され、近年はその用途が拡がっている。
各種スプロケット
各種ギア・ラック
タイミングブーリー
軸穴完成シリーズ
こうした多様な製品ニーズを、岸和田市にある本社工場(敷地2000坪、建物1000 坪)と山形工場(敷地6500 坪、建物2500 坪)が両輪となって支える。両工場の人員規模や設備はほぼ同じで、基本的には出荷先で仕事を分けているが、「手のひらサイズ以下で数量がまとまっているものは山形工場、大型サイズは本社工場という役割分担もしています。得意分野を持つことで生産効率も上がりますし、高度化する製品ニーズにもきめ細かな対応ができます」。東西に生産拠点を有していることは、BCP(事業継続計画)の観点からも顧客の安心につながっている。2011 年の東日本大震災の際、山形工場の被害はほとんどなかったが物流網が寸断したため、製品のデリバリーが止まってしまった。三興製作所ではトラックをチャーターして山形工場の製品を本社工場に送り、そこから全国の顧客に納品した。こうした迅速な対応で、顧客の評価はさらに高まったという。
「材料調達から鍛造、機械加工、検査・出荷まで国内でしっかりと一貫生産できることの強みは、お客様ニーズの高度化で、さらに高まっていると感じます」。工場の中には、NC自動旋盤や歯切り用のホブ盤はもちろん熱間鍛造設備や自社開発の高周波焼入装置まで完備されており、見学者からは驚きの声も聞かれるという。近年、RoHS(ローズ:特定有害物質使用制限)やREACH(リーチ:化学物質に関するEU法)への対応、材料証明や検査証の添付などの要求も増えているが、国内で一貫生産体制を確立している三興製作所では、スピーディーに対応できることが強みとなっている。
「やはり製品によってはコストが最優先されるものもあります。そうしたニーズにお応えするため、当社も一部の製品は海外の協力工場から調達していますが、その場合も専業メーカーとして国内で製造しているという強みが活かせます」。海外調達では、標準品を輸入して顧客の要望に合わせて加工して納品するケースと、海外で製造した製品を社内で最終検査して納品するケースがある。前者は加工精度の重要なところの仕上げなど国内で高度な設備と技術を有していないと対応できず、後者の場合もポイントを見極めて、海外工場に適切な指示ができることが強みとなる。海外調達品でも国内で生産しているメーカーとしての強みを活かし、「安いが不良が多くて」、「納期通りに入らない」「社内設備がないので不良などに早期対応ができない」といった顧客の不安を解消している。
一貫生産工程により、信頼の品質管理を実現
STEP 1
資材管理部
STEP 2
切断部
STEP 3
鍛造
STEP 4
旋盤
STEP 5
歯切
STEP 6
焼入
STEP 7
出荷
History
海外移転が進むなかで国内生産にこだわって独自の道を進む
三興製作所の創業者は、森社長の父である森 俊貞氏。生まれ育った山形県から親戚が住む大阪府岸和田市に出てきて大工見習いとして働いていた創業者は、「これからは自動車の時代になる」と、1954年に板金塗装業として三興製作所を創業する。事業は時代の波に乗って順調に拡大するなかで、「スプロケットがよく売れている」という情報を得て、さっそく旋盤とホブ盤を購入し、1967年に株式会社三興製作所を設立する。これがスプロケット専業メーカーとしてのスタートとなる。
1973年には、産業の少ない山形で雇用を創出したいという思いから故郷の山形県尾花沢市に山形工場を開設した(生産能力増強のため、1989年に現在地の山形県村山市金谷工業団地に移転)。まさに故郷に錦を飾る事業でもあった。
「創業者は好奇心が旺盛で、何でも自分でしないと気が済まないタイプ。行動力に溢れた人でした」。山形工場では、それまで経験がなかった鍛造や熱処理を手掛けるようになり、一貫生産体制を築き上げていった。
しかし、スプロケット業界は量産品を中心に30 年ほど前から徐々に海外生産が進んでいた。大手メーカーの協力工場として事業を拡大してきた三興製作所も、その対策として中国に合弁工場を設立する(15年間の合弁期間満了後は、協力工場での生産に移管)。1990年代半ばの円高進行とともに海外への生産移転はさらに進み、最大の取引先も中国での生産に切り替わることになった。その時、創業者は顧客に付いて海外に出るのではなく、国内生産メーカーとして独自の道を歩むことを決断する。
「一部は海外に出ても、基本は国内で製造し、高品質の製品を納期通りに供給できるという安心と信頼をお客様に提供するという姿勢を貫きました」。30年前にたくさんあったスプロケット専業メーカーは、海外に生産を移管し、国内には商社機能しか残っていないという状況の中で、三興製作所の存在価値や存在感がさらに高まった。もちろん、その背景には高品質の製品、短納期・小ロットへの対応など、企業としての価値向上を図る絶え間ない努力があった。
2009年、創業者の理念を引き継いで、2代目社長に就任した森社長はリーマンショック後の不況という危機にいきなり直面する。「経営者としての経験がない中で、先の見えない不況に直面し、夜も眠れないような状態が何カ月も続きました」。そんな新社長を支えなければいけないと、社員が一丸となったことが、その後のさらなる躍進につながった。2017 年、本社工場を、岸和田丘陵地区に移転した。「事業の拡大で手狭になっていたので工場用地を探していました。たまたま丘陵地区の再開発があり、一番乗りで工場を建てました。通信回線も来ていなかったので、NTTに依頼するところから始まりました」。新工場建設に合わせて最新鋭の設備も多数導入して生産能力を増強し、生産効率も大幅に高まった。
NC旋盤、マシニング、ホブ盤、自社開発の自動溶接機・高周波焼入れ装置など
最新鋭の設備と、熟練の技術力で高品質、短納期を実現している。
Management
投資育成会社を活用して、人材の育成・強化に取り組む
三興製作所の工場や事務所には「おかげさまを忘れない」というスローガンが掲げられている。「国内で生産し続けるという方針を決めて以来、人材育成にも力を入れて取り組んできたことで、営業、製造現場、管理部門のそれぞれに人材が育ってきました。お陰さまで新規のお客様も年々増えて、事業規模も拡大できました。もちろんそれは一人の力だけでできたことではありません。営業が仕事を見つけてこなければ現場は動きませんし、造ってくれる人がいるから売上が立つ。事務をしてくれる人がいるから円滑に仕事が回っていく。誰かのお陰で自分があり、会社がある。常にそうした感謝の気持ちを忘れずに仕事に取り組んで欲しい。その思いから『おかげさまを忘れない』というスローガンを掲げています」。
また、人材育成では投資育成会社のサポートも活用している。「会社の規模が大きくなり人員が増えてきた中で、人材育成には外部の方の力も必要だと感じ、投資育成会社に相談して講師の方を紹介してもらいました。製造現場の班長以上を対象にリーダーシップの研修を定期的に行っています」。リーダー研修を受けたことで、会社に対する関心を高め、仕事について様々な提案や発信をするなど、率先して動いてくれる社員が増えてきたなどの成果を実感しているという。
「私自身も講師の方とお話しすることで、人を育てていく上で勉強になることが多くありました。今後も投資育成会社のネットワークを活用して、人材の強化に取り組んでいきたいと考えています」。
F u t u r e
国内の生産能力をさらに整備し日本のモノづくりを支える
新型コロナウイルス感染拡大による事業への影響について「周りからは売上30%ダウン、半減したなど大変な状況になっているというお話を伺います。当社は、そこまでの状況にはなっていません。それは当社の製品が幅広い業種で使われていること、メンテナンス部品としての需要も多いことなどがあると思います」。
三興製作所では、マスクの着用、手洗いの徹底、「三つの密」を避けるなどの感染対策を実施しながら業務を進めている。海外調達も協力会社の努力もあって、1週間程度の納期遅れで済んだという。
「今回のコロナ危機でサプライチェーンの脆弱性がクローズアップされ、政府でも国内で生産拠点の整備を促進する施策が進められています。日本はモノづくりで成り立っている国で、モノづくりができなければ機械も売れませんし、生産もできません。当社の製品は一般産業機器のほんの一部の部品ですが、それがなければ機械は動きません。海外からの調達は続けますが、いざという時にお客様をお助けできる企業、『困った時は、サンコーに頼めば何とかなる』『サンコーがあるから安心』と頼りにされる企業として国内の生産能力をさらに整備していきます。これからも日本のモノづくりを支えることを使命として、事業を発展させていきたいと思っています」。
C O L U M N
軽く曳ける部品で、「だんじり祭」の伝統をつないでいく
本社がある岸和田市は、「岸和田だんじり祭」の街として全国に知られている。三興製作所では、そのだんじりの足回りに使われる軸受ブッシュやシャフトなどの部品を製造している。
「私自身も若い頃はだんじりを曳いていましたし、本社には現役で頑張っている社員も何人かいます。しかし、少子高齢化で青年団の団員は私の頃の半数ほどに減っています。少ない人数で4トンもあるだんじりを曳くのは大変です。できるだけ軽く曳けるよう、いろいろ工夫した製品を独自に開発しました」。
三興製作所の足回り部品は、採用した町会で「軽く曳ける」と好評価を受けた。そのことが口コミで広がり次々と採用する町会が増え、今では岸和田市以外の市のだんじりでも採用されている。
「軽く曳けることで若い人たちの負担も少なくなり、祭が楽しいと思ってもらえます。それによって、地域の大切な財産であるだんじり祭の伝統を、次の世代に引き継いでいくお手伝いができればと思っています」。