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イノック株式会社

配管を接続するためのステンレス製フランジや継手に特化したメーカーとして、業界でもトップクラスのシェアを誇っているイノック株式会社。
その製品は電力プラントや水処理施設などのライフラインをはじめ、産業機械や工場設備など、私たちの生活や経済活動の基盤であるインフラを支えている。
圧倒的な供給力を武器に成長を続けるイノックの企業戦略について伊東正章社長に伺った。

供給体制の拡充と徹底した品質管理を通してこれからもライフライン・産業を支え続ける

イノック株式会社
代表取締役社長
伊東 正章 氏

イノック株式会社
本社

会社概要
所在地   大阪市西淀川区千舟1-2-13
      TEL 06-6478-7780
設立    1959年3月
従業員数  85名
資本金   6,000万円
年商    69億円(’24/3期)
事業内容  ステンレス製管フランジ、ステンレス製ねじ込み式管継手、
      ステンレス製突合せ溶接式管継手、ステンレス製バルブ、
      ステンレス製ワンタッチ式管継手、その他加工品全般の製造販売
U R L    http://www.inocj.com

Products & Services
高品質なステンレス製フランジ・継手製品で社会インフラを支える

 街中にある上下水道や住宅設備をはじめ、多様な分野の工場などには、縦横に配管が張り巡らされている。それら配管をつなぐ役割を担うステンレス製フランジ・継手のメーカーとして、業界をリードしているのがイノック株式会社( 以下、イノック)だ。

 業界で信頼ある“イノックブランド”として認知されている製品の数々は、ニッチな分野ながらもトップクラスのシェアを誇っており、使用用途や機能も多岐にわたっている。

 「ステンレス素材は、強度が高く錆びにくい、さらに耐熱性や耐低温特性も高いことから、液体や気体、油、薬品などを扱う場面で多く使用されています。またリサイクル性が高いことから、今、社会全体や多くの企業が配慮している環境問題の改善においても貢献しています。こうしたなかで、当社のステンレス製フランジや継手は、特に産業分野で高いシェアがあり、さまざまな企業の生産活動を支えています。国内シェアとして、ステンレス製管フランジ、ステンレス製ねじ込み式管継手、ステンレス製突合せ溶接式管継手がそれぞれ1 / 3程度と推定しています。製品が使用されている分野は、パルプ・製紙関連、造船、産業機械、石油化学、電力プラント、薬品、上下水道、半導体関連など、非常に幅広いです」

 競合となるメーカーが数多くあるなかで、イノックが年々存在感を高めているのには理由がある。一つが供給力だ。イノックでは、競合メーカーの3〜4倍の製品在庫を常時準備、需要や仕入価格の変動時にも納期厳守、安定価格で供給できる体制を構築している。これは、Q(品質)、C(価格)、D(納期)の最適なバランスを重視する伊東正章社長の方針によるもので、コロナ禍の物資不足、価格高騰の時期においても、顧客が求める製品を適切な価格で安定供給することを保ち続けた。

 もう一つが品質への飽くなきこだわりだ。そもそも規格品・汎用品のフランジや継手などは、寸法や形状、品質も含めて各規格で定められていることから、自社オリジナルで設計した製品を販売したとしても市場に受け入れられるのは難しい。他社との差別化は、品質の担保・向上が唯一の手段である。イノックでは、自社製造のものだけでなく、大小さまざまな規格品・汎用品においても自社工場・グループ工場で厳正な検査を行なっており、そのうえで自社基準を満たしたものだけにブランド名のマーキングを施すことを徹底している。これは中国のグループ会社で調達した製品も同様である。

 また新たに調達先となる企業と取引する場合、非常に厳しい基準を設けており、取引開始後も製品の質はもちろん、工場の体制・環境も含めて年に1回、時には数回、厳格に監査を行っている。 「“ 信頼の絆で世界をつなぐ”を理念とする当社では、品質は何よりも重視するものです。それは、自社で製造するものはもちろん、調達品であっても変わりません。いってみれば、私たちの魂のこもった製品をお客様のもとへお届けすることが、ライフラインや生産活動の安全につながると考えています」

History

時代の変化を見据えて、製品開発をはじめ、販売体制、量産体制の構築に取り組んだ

イノックの歴史は、硬く、錆びない特性を持つ素材の将来性を見据え、戦時中から個人事業者としてステンレス加工に関わってきた伊東兼芳氏が1959年に設立した旭ステンレス鋳造株式会社に始まる。創業時は、フランジ、継手、バルブ、コック、化学機械、酪農機部品など、幅広いラインアップの製品を製造していた。その後、高度経済成長期に入り、化学工業の発展によって耐食性に優れるステンレス製品の需要が増大する中で、大阪営業所、東京営業所を開設するなど、販売網の拡充にも力を入れた。

 1970 年代のドルショックやオイルショックの影響を受けて、高度経済成長期が終焉し、安定成長期に入った中では、時代の動きを捉えて堅実経営に切り替えるなど、柔軟な経営に取り組んだ。

 「当時の記録はそれほど残っておらず、どのような経営判断があったのかは定かではありませんが、鉄からステンレスに時代が変わるということを見抜いていた創業者の先見の明には、私も経営者として驚かされるものがあります」

 1967年には、多治見工場を開設し、続いて1987 年には、2 代目社長のもと、篠山工場を開設するなど、生産体制を整え、トップメーカーとしての足固めをしていく。以降も、社名変更と同時に製造を担うイノック製造株式会社と販売を担うイノック株式会社に分社化し、新体制でスタートを切った。そうした中、1996 年に現社長の伊東正章氏が入社する。

 「私は最初、イノック製造の資材部に入りました。当社には創業者の“利は元にあり”という考えが深く浸透しており、いかに競争力ある価格で製品を作ることができるかを指針に、極限まで材料の無駄をなくす、作業を効率化して人的コストを削減するといったことに全社員が取り組んでいました。その中でステンレス製突合せ溶接式管継手の需要が大きく伸び、現在、第3の柱となる製品に成長していったことは、当社の大きなターニングポイントだったと思います」

 その後、イノックは、中国国内での新規市場開拓のための生産拠点づくりを進め、2004年には岩谷産業株式会社と合弁で継手製品の製造を手がける伊諾克(常州)不銹鋼制品有限公司を設立したのを皮切りとして、2011年には、常熟大安管道材料有限公司(2018年、伊諾克(常熟)管道材料有限公司に改称)を買収して、生産力と調達力の強化を図っている。

 こうした創業から時代や社会環境が変わる中で、モノづくりの体制や経営の仕組みを大きく変化させてきたことが、今のイノックの成長につながっている。

イノックの主要製品

イノック株式会社

長年の信頼があるイノックブランドの製品で暮らし、産業をつなぐ

イノック株式会社
ステンレス製管フランジ
安定した品質と供給体制で、造船、電力プラント、石油化学、製紙・パルプ、上下水道、薬品など、さまざまな業種から評価を受け、高いシェアを誇る。

イノック株式会社
ステンレス製ねじ込み式管継手
製紙・パルプ、石油化学、一般産業機械、造船、電子機器、車両、住宅、水処理など、幅広い設備で使用されている。

イノック株式会社
ステンレス製突合せ溶接式管継手
配管同士を溶接によって接合する際に使用される。電力プラントや製紙・パルプ、給排水設備、石油化学、造船分野に対応している。

イノック株式会社
ステンレス製バルブ
耐食性に優れていることから、主に水処理、製紙・パルプ、薬品、建築、産業設備装置などに対応しており、非常に汎用性が高い。

イノック株式会社
ステンレス製ワンタッチ式管継手
屋内での給水・給湯用途用に開発されたオリジナル製品で、専用工具やパイプ加工、溶接も一切必要とせずワンタッチで接合できる。

イノックグループネットワーク
中国・日本に広がる拠点ネットワークにより、イノックとお客様をつなぐ

イノック株式会社イノック株式会社
伊諾克(常州)不銹鋼制品有限公司

イノック株式会社イノック株式会社
伊諾克(常熟)管道材料有限公司

イノック株式会社イノック株式会社
西日本物流センター

イノック株式会社
本社

イノック株式会社
篠山工場

イノック株式会社
多治見工場

イノック株式会社
関東物流センター

Management

事業の選択と集中、組織・体制の変更など、細部にわたって変革

 2017年に経営のバトンを引き継いだ伊東正章社長は、入社後、資材部門、東京支店長、中国のグループ会社の総経理、専務取締役として会社・グループ全体を見てきたなかで感じていた自社の経営課題の解決に向けて、さまざまな社内の変革に着手した。 「まず私が取り組んだのは、採算の取れない事業、相乗効果の小さい事業、将来性に乏しい事業から撤退し、より当社の強みを発揮でき、将来性もある事業に注力したことです」

 伊東正章社長は、国内及び海外を含めたグループ会社、さらに事業の一つひとつを徹底的に分析・精査した。その結果、先行するメーカーとの価格競争に苦しみ、長らく赤字が続いていたプレハブエンジニアリング事業、サニタリー継手・パイプの製造販売事業から、ためらうことなく撤退を決断する。

 一方で、中国の2つの工場については、材料費、人件費上昇に歯止めがかからない状況下において、価格競争力があるかどうかを社内に専門チームを立ち上げて精査した。最終的には、コスト削減対策により継続が可能ということで2社を残すことを決断した。その結果、
伊諾克(常州)不銹鋼制品有限公司は、現在日本向けの販売に依存した体制から脱却し、中国市場の開拓により収益拡大を遂げている。

 同じく伊諾克(常熟)管道材料有限公司も赤字経営から脱却できているなど、“事業の選択と集中”に取り組んだことが見事に奏効している。

 「次に私が取り組んだのは、社内インフラの整備です。これは私が専務時代から社内に提案し、進めていた本社新社屋の建設(※下記COLUMN参照)が2017年に完成したことを受けて、さらに発展させたものです。取り組みとしては、全従業員が働きやすい職場づくりをテーマに当時子会社だったトッキンイノック株式会社(2021年に事業統合し、イノックの特品本部に事業を継承した)の事務所を建て替え、その後も東京支店、名古屋支店もオフィス内の椅子や机などの什器類を新しくするなど、働きやすさの改善に努めました。同時に給与体系を見直し、明確な人事評価基準と上長による個別面談制度を整備しました。」 

 また事業部の意思決定権や責任の所在を明確にするため、製造本部、営業本部、特品本部、管理本部、海外事業本部の事業本部制にした。それぞれに経営的思考力や実務能力の高さを
重視して役員を選出し、部門長とした。
 こうした細部にわたる変革によって、社員の働きやすさややりがい、満足度が高まった。

Future

供給体制をさらに強化し、これまで知見のない分野への製品供給も見据えていく

 「今後の動きとして、当社が模索しているのは、今以上にお客様が必要とする量の製品を、安定した価格で、そしてタイムリーに供給できる体制の整備です。特に新型コロナウイルスが蔓延していた最中である2020年、埼玉県に関東物流センターを開設しました。これは将来的な物流機能の低下と篠山工場や多治見工場で行っていた物流配送作業では、関東・東北方面への配送に時間がかかるという地理的なハンデを克服することが目的でした。そして物流業務に柔軟性を持たせるため、第三者に配送業務を委託する3PL(サードパーティ・ロジスティクス)方式を導入しました」

 2023年には、九州エリアへの配送時間短縮を図るねらいと「物流の2024年問題」への対応のため、福岡県に西日本物流センターを開設した。同時に、供給を担う中国工場では製品の最終検査に加えて、梱包まで実施することで、国内での配送をよりスムーズに行えるようにしている。このようにイノックでは、今後も安定供給体制の強化に注力していく計画で、現在も日々現場の把握と常なる改善に取り組んでいるところだ。

 「今後のビジョンとして、当社は全く新しい分野の事業へのチャレンジや拡大路線をとることは一切考えていません。今の製品の延長線上にあるもの、例えばネジや周辺の部品などは、継続して市場開拓を進めていきます。また現在納入している業界・分野以外で、当社が強みとするステンレス製フランジや継手製品を活用してもらえるところを探し、採用メリットを感じていただくための提案にも力を入れていきたいと思います。」

 イノックでは、常に堅実な経営を重視しながらも、時代のニーズや業界、市場環境の変化に備えて圧倒的な製品供給力による顧客満足を追求している。業界のリーディングカンパニーでありながら、そのポジションに甘んじることなく、絶えず変革を続けるイノックが、今後どのような新たな動きをみせるのか注目される。

COLUMN

2017年、社内インフラ整備の一環として、社員の声を反映した働きやすい本社新社屋が完成

 イノックでは、長らく空いたままになっていたイノック製造のプレハブ事務所の敷地に本社新社屋を建設した。計画段階にあたっては、男女混合のプロジェクトチームを社内で編成し、工事会社の日鉄エンジニアリング株式会社とともに意見交換を行いつつ、誰もが働きやすい職場とはどういったものか、具体的なオフィスの形について検討していった。

 トップダウンではなく、社員自らの意見やアイデアを盛り込んだオフィスづくりを通して、2017年に完成した本社新社屋は、業務効率化はもちろん、社員1人ひとりのモチベーションアップ、事業部間の連携強化につながり、生産性も向上したという。

 また自社が保有する敷地内に新社屋ができたことによって、テナントオフィスでこれまで発生していた賃借にかかるコストが不要となるというメリットも生み出した。


イノック株式会社
イノック株式会社
関東物流センター




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Posted by マガジン at 16:26 │企業紹介