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髙市製薬株式会社

国内唯一のドロップ剤の受託製造専門業者として業界トップクラスの品質評価を獲得し、ドラッグストア、コンビニエンスストア向けに自社製品、OEM 製品を製造販売している髙市製薬株式会社。ニッチな市場の中で業界トップシェアを誇り、開発指向型による処方設計と、一貫製造・OEM 製造に対応できる製造設備の充実や管理体制の強化で、新製品を開発し、成長を続けている。「小規模でもきらりと光る存在感のある企業を目指す」という中井美和社長に、市場環境の変化に対応しながら自社の強みを発揮する経営戦略を伺った。


ドロップ剤の可能性を追求した「創剤」で健康づくりに貢献する


髙市製薬株式会社
髙市製薬株式会社
代表取締役社長
中井 美和 氏

髙市製薬株式会社
瓦屋根に白壁、石垣と、史跡観光で
明日香村を訪れた人にも違和感がない外観の本社と工場棟

会社概要

所在地   奈良県高市郡明日香村野口10
       TEL 0744-54-2020
設立     1946年12月
従業員数   86名
資本金   4,000万円
年商     9億円(’20/5期) 
事業内容   医薬品・医薬部外品の製造・販売
U R L    http://www.takaichi.co.jp

Products
ド ロップ剤の特性を活かした製剤開発でヒット製品を生み出す

 「正面に見えるのが天武・持統天皇陵で、その向こう側に飛鳥美人の壁画で有名な高松塚古墳があります」。
 中井美和社長に案内していただいて工場棟前の駐車場に出ると、そこには教科書に登場する名所旧跡を見渡す景色が広がっていた。日本の始まりの地で万葉のふるさとである明日香村は、大陸から仏教とともに漢方医薬がいちはやく伝来したという歴史的背景を持ち、古来より薬草栽培や製薬、配置薬産業が育ってきた。髙市製薬株式会社もその伝統を受け継いで1922年に各種医薬品の製造と配置薬販売業で創業し、まもなく100周年を迎える。

 現在、同社は医薬品・医薬部外品ドロップ剤と外用剤(軟膏剤、ゲル剤等)の開発・製造に取り組んでいる。中でも売上の90%以上を占めるのがドロップ剤だ。右上の写真で紹介しているのはその一部で、大手製薬メーカーと共同で製品開発し、同社が製造・包装して全国のドラッグストアやコンビニエンスストアで販売されている。これらのOEM製品のほか自社製品などを含めると1年間に日本で生産されるドロップ剤の約半数に相当する2億粒を毎年生産し、医薬品・医薬部外品ドロップ剤のマーケットでトップシェアを誇っている。 「ドロップ剤を始めた当初は、のど飴の薬として咳を抑えて痰を排出しやすくする『鎮咳去痰薬(ちんがいきょたんやく)』や、口腔内を殺菌消毒する『口腔用薬』だけでした。ドロップ剤の基剤を飴ベースから歯にやさしいなどの機能を持つシュガーレスに変えることで、虫歯や歯周病を予防するオーラルケア(口腔ケア)分野の製品開発が広がりました。さらに、ドロップベースをかみ砕きやすくした新しい『剤形』のチュアブル剤を開発したことで、眠気防止の薬、鼻炎薬、乗り物酔いの薬、胃腸薬などへとドロップ剤のマーケットを広げてきました」。

 医薬品は薬効成分をそのまま服用するのではなく、添加物を加え、加工することで、服用・適用しやすい形に整えられる。これを「製剤」と言う。薬効成分には製剤化段階や物流・保管期間中に変質するものもあるため安定性の確保が重要で、同時に使用性も向上させる必要がある。内服薬は錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤などの剤形があるが、同社が開発するドロップ剤やドロップベースのチュアブル剤は、苦味などのマスキングに優れている、滑らかに溶けることにより粘膜保護効果があり口腔内に薬剤を行き渡らせることができる、水なしで服用できるなどの点で優れた特性を備えている。髙市製薬は国内唯一のドロップ剤の受託製造専門業者として、その製剤技術を活かし、服用しやすい風味や清涼感を持たせたり、新しい剤形の開発で「美味しい 服用し易い 使い易い」の付加価値を高める製品づくりを展開している。

 新しい材料・添加物や新しい剤形の開発には、医薬品新添加物、新剤形などの認可を厚生労働省から取得しなければいけない。髙市製薬は認可の取得から成分処方、原料の選定・管理、試作ができる体制を整え、顧客の要望に沿った製剤の提案を行うことに加え、製剤から包装まで一貫対応できる設備を保有している。
 「私たちが企画開発した子ども用の乗り物酔いの薬は、フルーツ味の服用しやすいチュアブル剤で、子どもたちから支持されて売れ行きナンバーワンの製品になっています。また、眠気防止の薬もカカオ風味が人気で20年以上のロングセラー製品になっています。当社は製剤開発を『創剤』という言葉に言い換え、ドロップ剤の使用領域を広げる製品を大手製薬メーカーと一緒に開発しています」。


ドロップ剤の進化発展

のど飴の薬
(鎮咳去痰薬・口腔用薬など)
 
基剤をシュガーレスに
(虫歯や歯周病を予防するオーラルケア分野に展開)
 
創剤
ドロップベースのチュアブル剤を開発
(眠気防止の薬、鼻炎薬、乗り物酔いの薬、胃腸薬など多彩な製品へ展開)  
   
大手製薬メーカーと共に人気製品を開発
髙市製薬株式会社
全国のドラッグストア、コンビニエンスストアで販売されているOEM製品



History
市場の変化に対応しOEM製品の開発に活路を見出す

 訪問員が年に一度各家庭を訪れ薬を置き、翌年使用した分の代金を受け取る配置薬業者は、奈良県でも古くから活躍し、「大和売薬」として日本全国に販路を広げていた。髙市製薬は、1922 年に中井社長の祖父である中井宗美氏が「ふくや薬舗」として各種医薬品の製造と配置薬販売業を創業したことに始まる。事業は順調に伸長し、戦後の1946 年に髙市製薬有限会社(1968 年株式会社に組織変更)を設立し、工場の新設や増築を行ってきた。

 1958 年創業者が早逝し、中井康允氏が20 歳で社長に就任する。「父はまだ薬学部の学生で、2 代目社長に就任しました。その後、他社との差別化を図るためにドロップ剤、外用剤の製造を始めます」。現在のドロップ剤の元となる、せき・のど飴「ノドロップ」は1967 年に製造を開始した。

 元号が昭和から平成に変わった頃、同社は大きな転機を迎えた。
 「ちょうど私が入社した1990 年頃です。従来の薬局・薬店に代わってドラッグストアが急速に増えてきて、配置薬の市場もシュリンクしていきました。父は得意分野であるドロップ剤の製造に資源を投入していく経営に切り替えていきました。大手製薬メーカーとの共同開発でOEM 製品を初めて世に出したのもこの頃です」。

 急速に成長したドラッグストアはさらに全国展開を加速する。また2004 年には規制緩和で、薬局や薬店などでしか販売できなかった医薬品のうち371品目が、医薬部外品となりコンビニエンスストアでも販売できるようになった。一般医薬品のマーケット環境が大きく変わっていくなかで、髙市製薬はOEMでヒット製品を次々と生み出していき、業績を伸ばしていく。薬剤師の資格を持つ中井社長も入社当初から製品開発の戦力となって事業拡大を支えた。

 「大手メーカーさんとの共同開発では学ぶことも多いですし、また、大手企業の品質基準に対応するための管理の強化や工場・設備の充実で、当社の生産性が向上しました」。
 創業の事業である配置薬の製造販売は現在も行っているが、ドロップ剤と外用剤以外は、他社に製造を委託している。

ドロップ剤製造工程
溶解・連続加熱濃縮・成形・検品などのドロップ剤製造装置から、
パウチ包装などの多彩な充填・包装に対応する設備を備えている。

髙市製薬株式会社
溶解

髙市製薬株式会社
加熱濃縮

髙市製薬株式会社
成形・充填
髙市製薬株式会社
コーティング

髙市製薬株式会社
検品

Management
独自のカリキュラムと外部セミナーを活用し研究技術者を育成

 「創剤」による新しい製品の開発を担う研究技術者の獲得や育成は、同社の発展の原動力となる。
 「私も薬学部出身ですが、大学でドロップ剤について学んだ記憶はほとんどありません。特徴ある製剤の開発になりますので、薬学や化学系学部の新卒者を中心に採用し、独自の教育訓練カリキュラムに沿って社内で一から育成しています」。
 採用活動は大学に直接求人を出したり、ホームページや企業説明会の参加など、幅広く行っている。試験室や研究室での仕事がしたいという志望者は多く、薬剤師資格者や大学院生を含めて優秀な人材を確保できているという。「ドラッグストアやコンビニで見かける身近な製品を作っている会社であることも、応募で評価してもらえるポイントになっています」。

 新卒で採用した研究開発人材は、製造現場での生産研修なども含めた独自のカリキュラムで育成するとともに、その後も能力向上のために奈良県薬剤師会、関西医薬品協会、製剤機械技術学会や包装技術協会などのセミナーに積極的に参加し、また製剤・包装機器メーカー、分析機器メーカーとの情報交流も積極的に行っている。中でも、中井社長が会長を務める「奈良県製薬薬剤師会」(奈良県薬剤師会の分会)は、製薬薬剤師として必要な知識・能力の向上、研鑚を目的として、年間10回のセミナーを開催しており、同社の研究技術者はすべてのセミナーに参加している。

 「製剤開発には、薬機法(旧・薬事法)・GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)などの知識も欠かせません。また新しい機器や新しい原材料などの技術情報も必要です。社内での教育に加えて、外部セミナーなどを活用することで、最新の知識とスキルをアップデートしています」。

Future
明日香村での医薬品製造にこだわって存在感のある企業に

 明日香村はいわゆる明日香法(明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法)により、開発には厳しい制限がある。例えば、工場を建てる際にも、屋根は瓦葺きに、壁は白壁に、ブロックではなく石垣にしないといけないなどの景観規制があり、同社も明日香法を遵守した建築で、一見すると工場とは気づかない建屋になっている。

 「建築費が高くなるというデメリットがありますが、一方で、製品に記載される当社の住所を見て、明日香村で造られていると注目してもらったり、関東など遠方から来られるお客様は、当社への出張を楽しみにされるなどのメリットもあります」。
 生産においては工業団地に移転した方が効率的だが、明日香村に工場があることは企業としてのイメージアップや、求人でも人が集まりやすいなど有形無形の恩恵がある。今後も創業の地である明日香村で、髙市製薬らしさのある、髙市製薬ならではの製品づくりをしていきたいという。

髙市製薬株式会社

 「ドリンク剤が栄養剤だけでなく、胃腸薬などにも広がったように、ドロップ剤の可能性を広げていきたいと考えています。チュアブル剤などの新しい剤形も進化させられますし、添加物の味も美味しいだけでなく、すっとした爽快感を出して新しい効果感を味わってもらうなど、まだまだ工夫ができます。それもサプリメントや健康食品ではなく、医薬品と医薬部外品の分野で、新しい切り口でアプローチする新製品の開発にこだわっていきます。

 それが、当社の企業理念である『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類の健康づくりに貢献すること』の実現につながります。創業時の精神を持ち続け、信頼をつなぎながら、小規模ながらも社会の役に立つ企業として世界地図の中できらりと光る存在感のある企業を目指していきます」。

COLUMN
小学校の授業での工場見学など社会貢献活動に取り組む
髙市製薬株式会社

 地域とのつながりを大切にする髙市製薬では社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。その一つが小学校の工場見学の受け入れだ。
 「父の代から明日香村の学校薬剤師を長く務めている関係もあり、小学生の工場見学の受け入れを長年続けています」。
 薬剤師資格者が任ぜられる学校薬剤師は、大学以外の学校に設置が義務づけられており、学校環境衛生検査などを実施する。同社への工場見学は小学3年生の郷土学習の授業で行われ、社会科の副読本「わたしたちの明日香村」(明日香村教育委員会発行)で「工場の仕事」として掲載されている。

 「医薬品の工場は珍しく子どもたちの印象に残るようで、小学校の時に見学に来たことを覚えていてくれて就職したという社員が試験研究部、製造部に数名います。見学のお土産に当社の飴(ドロップ剤)を渡している効果があるのかもしれません(笑)」。
 他にも、地域や業界団体の野球・ソフトボール・駅伝大会などへ参加するスポーツ活動振興、地域の催し物への協賛などを通して地域との交流を深めるなどの社会貢献活動を展開している。

髙市製薬株式会社






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Posted by マガジン at 12:45 │企業紹介