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株式会社ニッカリ

1959年に現在の草刈機の原型となる刈取機を開発して以来、農業に関わる様々な機器を生み出してきた株式会社ニッカリ。1966年に日本で初めて開発した急傾斜地で収穫物を運ぶモノレール「モノラック」は世界トップシェアを誇り、「日本機械遺産」に認定されて2020年版「経済産業省認定グローバルニッチトップ企業100選」にも選出されている。杉本宏社長に100年企業を目指した“深化と探索”の経営戦略について伺った。

世界を舞台に既存事業(園芸機器・モノレール)の“深化”と新規事業の“探索”に挑む

株式会社ニッカリ

株式会社ニッカリ
代表取締役社長
杉本 宏 氏

株式会社ニッカリ
会社概要
所在地  岡山県岡山市東区西大寺川口465-1
     TEL 086-943-0051
設立   1959年7月
従業員数 113名
資本金  4,800万円
年商   54億円(’20/5期) 
事業内容 草刈機、軌条運搬機を主製品とする
     農林土木機械の製造・販売
U R L   https://www.nikkari.co.jp


History
顧客の声をもとに重労働の負担を解消する草刈機やモノレールを開発

 岡山県南部は畳表に使われる「い草」の生産が盛んで、かつては量・質ともに日本一の産地だった。い草の生長を促すために先端を切る「先刈り」の作業は、真夏の炎天下で行う大変な重労働で、その負担を軽減するために、杉本宏社長の祖父である創業者・杉本稔氏と開発部長の高橋邦男氏が携帯用万能刈取機「TS型」を開発した。

 「当時、海外製の刈取機はありましたが、大型でトリマー式のような刃で日本では使い勝手が悪かった。TS 型は小型で携帯ができるなど大幅に改良したもので、現在の草刈機(刈払機とも呼ばれる)の原型になる機械です」。

 その刈取機をはじめ農業用機械の製造販売を目的に、1959 年に日本刈取機工業株式会社を設立した(1973年に株式会社ニッカリに商号変更)。以後、草刈機や穴掘機、中耕除草機(耕うん機)などを開発していく。「他にも収穫したタケノコを運ぶ機械などお客様の要望に応じて様々な製品を開発しました。事業化にはつながりませんでしたが、餅つき機もまだ世にない時代にいち早く開発しました」。

 「お客様とともに考える」をキーワードにしてお客様の声をカタチにしていく開発から、事業の第2の柱となる製品が生まれた。1966 年に開発した農業用急傾斜地軌条運搬機「モノラックM- 1」は45度の急斜面でも貨物を運べる農業用のモノレールで、日本で初めての機械となった。

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 「愛媛の販売店様から、ミカン畑の収穫のために急斜面を背負子で運搬する作業が非常に重労働で、何か良い機械はできないかと相談されたのがきっかけです。草刈機との技術の関連をよく聞かれるのですが、エンジンの動力を伝えて機械を動かすという点では同じでも、草刈機を造っていたからできたものではありません。こんなものを造れないかとお客様の声に応えて開発したまったく新しい機械です」。

 ミカン畑に何度も足を運び、現地でテストを繰り返し、雨の日の急斜面でも絶対に滑らないという画期的な技術を開発した。レールの底面にある波形の突起と牽引車の駆動輪が噛み合いながら動く構造で、特許も取得した。こうして誕生した「モノラック」は、重労働の負担を劇的に改善し、農家の生産性アップに繋がった。導入もミカン畑から始まり、桃や梨、梅など全国の果樹園に広がった。

 1975年にはスイスのモノレール生産販売会社と技術提携し、フランスやイタリア、ドイツのブドウ畑で活躍している。「モノラック」は急傾斜地用モノレールとして、国内トップシェアを占めるとともに、世界でも約7割のシェアを占めている。

 草刈機を中心にした園芸機器も、早くから海外の市場を開拓してきた。ディストリビューター(代理店)経由で自社ブランドの製品を販売していくとともに、欧州の有力工具メーカーにキーパーツを供給して、グローバルに市場を広げていった。現在、園芸機器事業で最も大きな売上を占めているのは世界ナンバーワンのチェーンソーメーカーであるドイツのスチール社との取引で、本社工場と2001年に設立した独資の子会社「寧波利豪機械有限公司」(中国浙江省寧波市)から世界に向けて草刈機など園芸機器の基幹部品を供給している。

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ニッカリが日本で初めて開発した急斜面でも貨物を運べる農業用のモノレール「モノラック」は、果樹園から建設・土木工事へと市場が広がり、建設機械を運搬できる製品もラインアップしている。


Product
モノレール専用の新工場を新設し新規事業にも積極的に取り組む

 ニッカリの主要事業の2019年度の売上比率は、園芸機器が約75%、モノレール約25%となっている。創業の製品である草刈機の国内シェアは数%だが、OEMや海外のグローバルメーカーへの供給を続けている。草刈機以外では、家庭菜園などでも使われる小型管理機(耕うん機)、イチゴの高設栽培用の管理機などがあり、どちらも高い国内シェアを誇っている。また、フランスの工具メーカーであるペレンク社の総代理店としてバッテリー式の造園機器を販売しており、その中でもバッテリー式剪定ハサミは国内トップシェアとなっている。

 モノレール事業は、開発当初の果樹園での収穫物の運搬から林業、建設・土木工事での資材や人の運搬、レジャー施設での移動手段、バリアフリーの介護用途などへと市場が広がっている。海外の例では、南米エクアドルの熱帯雨林に石油パイプラインを敷設する工事で、パイプや資材の運搬に採用された。モノレールを活用することで、トラックなどの車両で資材を運搬する通常の工事に比べて森林伐採を最小限に留めることができた。貴重な自然環境の保全に貢献する新しい工事手法として、エクアドル政府からも高く評価されている。

 ニッカリでは建設・土木工事分野の需要に対応するため、モノレールの運搬能力(45度の斜面で運搬可能な積載量)を200㎏から500㎏、1tと高めていき、現在ではバックホーなどの建設機械も運搬できる積載量3tのモノレールもラインアップしている。土木工事関連のモノレールの需要は、国内でも右肩上がりで伸びているという。

 「地滑りや落石などの危険場所を事前工事する災害対策に加えて、地震や豪雨災害の復旧工事が増えています。さらに、送電設備の更新など電力会社の大規模なインフラ対策工事の計画も予定されており、その対応で5~10年先まで生産が目一杯の状況です。生産能力増強のために、2021年春の完成予定で、本社の敷地内にモノレール専用工場と倉庫の新設を進めています」。

 既存事業が好調で開発・製造に追われる状況だが、新規分野の開拓にも積極的に取り組んでいる。「農作業や工事などの現場作業の負担を軽減する器具の開発で、当社ではアシスト事業と呼んでいます」。

 和歌山大学との共同研究でパワーアシストスーツを開発し、2017年に実用化したほか、農研機構の特許実施許諾を基にブドウの収穫などでの腕上げ作業を補助する器具「腕楽っく」を量産化した。また、(一財)日本船舶技術研究協会からの委託により産業用腕上げ作業補助器具「腕楽っくPro」も開発した。作業人員の高齢化や人手不足が深刻化している農業や工事、工場などの現場では、作業の負担軽減・効率化が大きな課題となっている。園芸機器やモノレールで重労働の負担軽減に取り組んできたニッカリのアシスト事業への注目度は高く、共同開発などの依頼が増えている。


草刈機のパイオニアとして高品質の園芸機器を世界に供給


株式会社ニッカリ 
上は1959年に開発され、現在の草刈機の原型になった携帯用万能刈取機「TS型」。

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上は現在の製品で、小型管理機、草刈機
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モップ式草刈機、イチゴの高設栽培用の管理機、バッテリー式剪定ハサミ。


Manegement
多様な開発ニーズに応えるため開発人材の新卒採用を始める

 「経営戦略として推進しているのは『深化』と『探索』の両立です。既存事業の園芸機器とモノレールを深化させていくとともに、同時に新規事業の探索もしていかなければならない。アシスト事業は探索の取り組みで、それが第3の柱になるとすれば、次の第4の柱になる事業も探していきます」。

 園芸機器事業の深化では石飛びの危険を大幅に抑える2枚刃の草刈機用アタッチメントを発売するなど、顧客の声に応える新製品を絶えず投入している。モノレール事業では、東京電力の関連会社と共同で地下の変圧器設置工事を大幅に省力化・効率化するモノレール式の運搬工具を開発し、全国の工事現場で採用されている。

 アシスト事業では、NEXCO中日本グループのエンジニアリング会社との共同開発で、コンクリート構造物の打音検査(ハンマーで打撃した音で剥離やボルトの緩みなどを把握する検査)の疲労を軽減する補助器具を開発し、採用されている。


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アシスト事業では打音検査の疲労を軽減する補助器具も開発した。

 「市場を持っておられる大手企業との共同開発は、事業に結び付きやすいというメリットがあり積極的に取り組んでいます。特にアシスト事業は様々な企業から共同開発の要望が来ています。大手企業とのタイアップで実績をつくっていくことで、事業の第3の柱にしていきたい」。

 深化と探索の経営戦略を推進する開発人材を増強するために、2022年度の新卒採用に向けた取り組みを進めている。「10年ほど前から大手企業の経験者などを中心にした中途採用を進めてきました。その人材が各部門のキーパーソンとなり、新卒採用した人材を育成していく体制が整ってきました。大手企業で採用担当の経験がある総務課長を中心に、大学、高専の採用窓口へのアプローチやマッチングへの参加など地道に新卒採用の準備を進めています」。

 新卒者は開発部門に配属し、その中から適性を見て、購買部門、品質部門、生産部門の中核人材に育成していく長期的な計画を描いている。「図面を読める人材を全社の各部門に行きわたるようにしていきたい。最終的には営業の主要人材も開発経験者が担当することが理想です」。


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多品種・小ロットかつ低コスト・高品質をテーマに取り組む製造現場。自社製品のほか、国内外企業にOEMや基幹部品を供給している。


Future
100年続く企業としての基盤を創っていく

 ニッカリは、2015年に「第6回ものづくり日本大賞 中国経済産業局長賞」を受賞し、2019年に「モノラックM- 1」が日本機械学会「日本機械遺産」に認定され、さらに2020年版「経済産業省認定グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれるなど、近年相次いで顕彰を受けている。

 「『モノラック』は半世紀以上前に開発した製品ですが、年々市場が広がっており、売上も利益も伸ばしています。しかし、山の中で使われ一般の方の目にふれるものではないので、認知度がありません。広く知られるようになったら、こんな現場でも使いたいというニーズはまだまだ発掘できると思います。そのために、『モノラック』の認知度をあげ、それを日本で初めて開発し世界トップシェアであるニッカリの企業ブランド力も向上させることを目的に、モノレール事業を前面に出して顕彰制度に応募してきました」。

 国内市場に向けて「モノラック」の認知度と企業ブランドの向上に取り組む一方、売上の約6割を占める海外市場に向けての新しい計画も進めている。

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 「園芸機器は新しい海外生産拠点への進出を具体的に計画しています。新拠点は中国の現地法人と競合しないよう新たな市場を開拓できる国であることを条件にして調査を進めています。モノレール事業では、ネットの検索データを活用したリサーチで需要を把握する取り組みを行っていて、いくつか有望な問い合わせが来ています」。

 現状はコロナ禍で海外出張ができないので、ネットを活用したリサーチやマーケティング活動が中心になっているが、新型コロナウイルスの流行が収束して海外出張ができるようになり次第、新市場の開拓をすぐに進められる準備をしているという。

 「経営者としての私の最大の使命は、100年続く企業の基盤を創ることです。100年続くためには、次の世代を育てていくだけでなく、次々と人材が育っていく仕組みを創らないといけません。経営が順調な今こそ、やり遂げないといけない課題と考えて取り組んでいきます」。



NEXT BUSINESS
パワーアシストスーツの実用化に成功

 身体に装着して重量物の持ち運びなどをサポートする「パワーアシストスーツ」が、農業や物流、建設、工場、介護などの現場で注目を集めている。ニッカリでは2014年から2年にわたって和歌山大学とパワーアシストスーツの共同開発を進め、研究終了後、知的財産の調整を済ませて2017年にオリジナル製品を製作した。

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 ニッカリのスーツは最大13㎏分の作業負担を軽減し、使う人の筋力に応じて荷上げや荷下ろし、歩行の力加減が調整できる。また、拘束する身体の部分が少ないため、「装着したままラジオ体操も可能」などの特長がある。

 「当社のパワーアシストスーツは実用化には成功しましたが、まだ事業化には至っていません。電動アシスト自転車も最初の開発から広く普及するまでには10年以上の年月がかかっています。パワーアシストスーツもそれと同じで、使った人の満足感を満たし、市場が成り立つ製品はどのようなものか、現在はそれを見極める段階で、事業化にはまだ少し時間が掛かると考えています。当社の主要市場である農業や建設・土木分野では潜在的な需要が高く、きっかけがあれば普及は進むと思うので、今回の開発の知見を活かして事業化に向けた取り組みを続けていきます」。
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2017年に実用化したパワーアシストスーツは、センサーが荷上げ・荷下ろし・歩行などの動きを検知して、モーターを作動させて腰や足の負担を軽減する。





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