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ベルテクネ株式会社

ITを活用した「見える化」と全社員が経営に参画する「社員主体経営」に着手して、高収益企業に成長したベルテクネ株式会社。
創業100 年を超える老舗企業はどのように変革され、次の200 年を目指すのかを鐘川喜久治社長と、来期社長に就任する事業本部長兼工場長の前田努取締役にうかがった。


200年企業に向けて
「見える化」と
「社員主体経営」を
さらに進化させる


ベルテクネ株式会社
ベルテクネ株式会社
代表取締役社長
鐘川 喜久治 氏


ベルテクネ株式会社
取締役事業本部長兼工場長
前田 努 氏


所在地  福岡県粕屋郡須恵町大字上須恵1495-1
       TEL 092-932-4166(代)
創業    1914年5月
従業員数 84名
資本金   6,310万円
年商    16億円(’18/6月期)
事業内容 総合精密板金(NCT加工、レーザー加工、切断・折曲加工)
       建築金物一式(幕板、笠木、巾木、見切り、手摺り等)
       建築金属工事・設計・製作 ・水産関連機器・設計・製作
U R L   http://belltechne.co.jp


ベルテクネ株式会社
本社


ベルテクネ株式会社
昨年完成した新社屋は、自社設計・製作・施工した意匠建築金物をふんだんに使い、社員食堂もハイセンスなレストランのような雰囲気になっている。

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応接室の扉も自社で製作したもの。


Business contents

3事業部が連携、補完し合い
不況に強い会社に


 社員が主体的に経営に取り組む「社員主体経営」を推し進めて高い利益率を達成しているベルテクネ株式会社。
2017年12月には、鐘川喜久治社長が日刊工業新聞社主催「第35回優秀経営者顕彰」で「優秀経営者賞」を受賞した。その経営を学ぼうと、同社には雑誌や新聞などの取材が相次いでいる。まず、その事業内容を紹介してみよう。
 同社には3事業部があり、創業以来の主力部門である金属加工事業部は、精密板金分野の加工メーカーとして、毎月約5 万点の製品を手掛けている。「約100社の取引先から超多品種少量の受注を短納期で対応しています。取引先の産業分野は、建築・自動車・医療・食品・環境関連など多岐にわたり、主力取引先でも全体の10%程度の割合におさめ分散化することで、受注を安定化させています」(鐘川社長)。加工品はI Tを活用した原価管理システムで、1個でも100個でもすべての原価が見えるように管理し、経常利益率は同業他社の倍近い水準を達成している。
 水産機械事業部は2011年のM&Aにより加わった部門で、投餌機(餌やり機)や餌製造機などの水産養殖向けのさまざまな機械の企画・設計・製造を手掛ける。トップシェアを占める機械も多く、特にマグロ養殖の投餌機では国内シェアの7割を占めている。M&A以前は赤字の事業であったが、同社に統合されてからは毎年黒字を計上している。近年は政府の養殖産業の振興という追い風を受けて、売上高で毎年20%前後、経常利益で30%前後と目を見張る伸びを示している。
 建築工事事業部は、建設会社から金属金物工事を直接請け負い、設計・製作・施工までを一貫して管理している。
金属加工事業部と連携した高品質・高精度の製品、徹底した安全管理による施工は取引先から高い信頼を得ている。2017年10月に竣工した同社の新社屋では、外壁パネル、内装の装飾、建具など意匠建築金物工事をすべて自社で手がけ、ショールームとしてその技術力をアピールしている。
 鐘川社長は「3事業部はそれぞれが関連性を保ちながら補完し合い、一つの産業、業種に偏らず不況に強いことが、当社の大きな特長です」という。こうした事業展開に至るまでには、100年以上の長い歩みから得た教訓があった。

ベルテクネ株式会社

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H i s t o r y

経営危機を教訓に
取引先の分散と
「見える化」の導入を図る


 鐘川社長の祖父である鐘川金次郎氏は、福岡歴史資料館(旧日本生命)など博多の歴史的な建物の装飾金物にも携わった金属加工職人だった。
1914年に独立し、鐘川鉄工所を創業する。戦前・戦中は陸海軍航空機部品専門工場となり、戦後はトラックのボディ部品などを手掛け、1966 年に法人化し、株式会社鐘川製作所を設立した。
 鐘川社長が入社した1971年当時、自動車ボディ関係の主要取引先4社で、売上の90%を占めていた。しかし、1973 年の第1 次オイルショックの余波を受けて売上が半減し、さらに最大の取引先が会社更生法を申請し、深刻な経営難に見舞われた。その危機を教訓に取引先と産業分野を広げ、1社当たりの依存率を下げていった。
 その後、バブル景気を迎えて建築関係を中心に事業は順調に伸びていったが、バブル崩壊後は社員の働く時間は変わらないのに利益が減り続け、業績は低迷した。当時専務だった鐘川社長はどうもおかしいと思い、手書きの日報を家に持ち帰って、取引先ごとに売上と原価を整理し直した。その結果解ったことは、大口の取引先では利益を上げておらず、多品種少量の取引先ほど利益率が高いことだった。そこで、時間当たりに一人が稼がなければならない目標金額を新たに算出し、営業は小口でも利益率の高い注文を幅広く取るように方針を変えた。さらにデータ化を進めるため、工場でもリアルタイムに原価が解るよう「見える化」に取り組んだ。同時に世に出始めたサーバーを活用したシステムを導入することで、工場と営業がつながり、どの産業分野の、どの取引先の、どんな仕事の利益率が高いかが見えてきた。
 「利益が出ない仕事は営業と工場の現場が一緒に協議して改善策を立てる。それで黒字になった仕事もたくさんあります。いくら改善しても利益が出ない仕事は、ライバル社に仕事を譲ってもいい。そうした戦略で、年々利益率を上げていきました」。
 こうした取組みが、超多品種少量、1社当たりの依存率を10%程度におさめるという現在のビジネススタイルになり、赤字を出し続けていた水産機械の会社の事業を、M&A 後1 年で黒字事業に転換させることにもつながっている。

ベルテクネ株式会社


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ベルテクネ株式会社
ステンレスやアルミ、鉄など金属の「レーザー加工」や「曲げ」などを行う


Management

社員が経営陣を評価する
『経営チェックシート』を導入



 「経営者が在籍するのはせいぜい10~ 15年ほど。社員は40年以上在籍します。だから、社員が人生設計できるようにすることが会社の目的で、経営者の財産形成目的であってはならないというのが、私の考えです」。
 2006年に4代目社長に就任した鐘川社長は、その考えをもとにさまざまな改革に取り組んできた。その出発点になったのが、『経営チェックシート』だ。
 「専務時代は、作業の効率化や取引先の見直しなど互いに知恵を出し合いながら経営改善に取り組んでくれていた社員が、社長になってからは急に疎遠になりました。なぜかと聞くと、先代がトップダウンで物事を進めるタイプだったこともあり、社長には気軽に話しかけられないと言います。これでは裸の王様になると思い、考えたのが『経営チェックシート』です」。
 それはA3サイズの1枚の紙に、会社と経営陣について、「信頼できるか」「社員との意思疎通やコミュニケーションは取れているか」などの質問に5段階の選択式で回答してもらうもの。項目ごとにコメント欄をつけ、要望や意見も書き入れられるようにした。社員から評価に悪影響が出るのではないかという不安の声が上がり、無記名で集計まで経営陣は関与しないと約束して実施した。
 鐘川社長と会社全体に関するチェックシートの結果は、コメント欄の内容も含めて社内に掲示している。当初の意見には「今の社長は率先して決めてくれない。丸投げしている」などの厳しいものもあった。「人を育てるために権限を委譲している。現場の社員が自らの判断で決めることが成長になる」など、きちんと理由を説明し、改めるべきものについては翌期の改善目標として貼り出した。

ベルテクネ株式会社

 『経営チェックシート』の導入により、経営陣と社員の距離が縮まり、経営状況に関心をもつ社員が増えてきた。そこで、全員参加の決算説明会を開き、それぞれの仕事がどのように利益を生み、会社に貢献しているかを解きほぐしていくように説明した。
 また、これらと並行して社員が主体となり、経営計画書を作成(COLUMN参照)するなど、仕事に対するやりがいや自律的な成長をうながす仕組みづくりにも取り組んだ。
 前田努取締役は、鐘川社長が就任した当時はプレス部門のリーダーだった。
「以前は、突然、新しいプレス機が運ばれて『今日からこれを使え』をいう感じでしたが、鐘川社長になってからは、何千万円もするプレス機の選定を任され、非常に驚きました。と同時に、責任が重大で、このプレス機を導入すれば、どういった効果がでるのか、何年で導入コストをカバーできるのかを真剣に考えるようになりました」という。
 鐘川社長は、「私がすべて決めるのではなく、社員には費用対効果の説明をしてもらい全社的な視点から判断しています。こういったことを繰り返していると、徐々に社員自身も自分のことから、部門のこと、そして会社全体のことを考えられるような価値観が芽生えてくると思います」。
 また、同社では「機械を使う人によって生産性が変わる」という考えに基づき、機械個々の稼働率より、“一人当たり生産性”を重視している。生産性向上のベースとなる人への投資も積極的に行っており、現場社員個々の技能レベルの向上や多能工化を図るため、複数の国家資格を取得するよう奨励している。費用はすべて会社が負担することはもちろん、検定試験を受けるための練習に自社設備を開放するなど、全面的にバックアップしている。ゼロからスタートした国家技能検定合格者は「特級工場板金」2名をはじめ現場で働く社員のほとんどが複数の国家資格を有している。


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ベルテクネ株式会社
マグロ養殖場などにおける投餌機等、水産機械を製造する


F u t u r e

社員が経営をチェックする
「社員主体経営」


 リーマンショックを乗り越え、「見える化」や『経営チェックシート』の導入を推し進めてきた結果、明らかになったのは、社員のモチベーションが会社の成長を決める原点だということ。このため鐘川社長は次のステップとして、社員目線で経営をチェックする「社員主体経営」に取り組んだ。
 「監査法人などが経営をチェックする上場企業でも、トップが間違うと経営危機に陥ります。まして上場していない企業のトップが公私混同したり、自分の財産形成に走ったらどうするのか。それで考え出したのが、社員が経営をチェックし、経営が間違っていたら社長を解任できるシステムをつくることでした。これは、投資育成会社に出資をいただいたことで資本と経営を分けて考えるようになり、社員持株会を作ったことが良いきっかけになりました」。
 社長を不適格と判断する条件として、①『経営チェックシート』を実施しない②決算書を社員に公開せず説明しない③社長の報酬を開示しない、などを掲げ、これに該当する社長を株主総会で解任する練習まで行っている。
 鐘川社長は、こうしたユニークともいえるアイデアを続々と打ち出し、社員の主体性を育むと共にモチベーションを向上させ、同社を高収益企業へ育てあげた。
そして社名から「鐘川」を外し「ベルテクネ」にすることにより同族色を薄めるとともに、新社屋の建設・工場拡張など企業発展の礎を整えた上で、来期の新社長として前田努取締役を指名した。
 社員からの人望が厚い前田次期社長のもと、200年企業に向けて「見える化」と「社員主体経営」をさらに進化させ、新たなステージで一層の飛躍を目指すベルテクネに注目したい。

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金属製品の設計・施工・管理を行う


C O L U M N

社員が主体となって「経営計画書」を作り、自ら発表

 ベルテクネでは、2007年から社員が主体となって経営計画書づくに取り組んでいる。毎年、PDCAサイクルを回してレベルを高め、現在では事業部・部門から個人目標まで落とし込んだA4サイズ50ページ以上の計画書となっている。
 策定作業は、5月に社長が発表する来期の方針概要を受けて各事業部がそれぞれの方針を策定する。それをもとに各部門が重点項目を決めて目標を立て、さらに個人レベルまで落とし込む。「社長である私が関与するのは、前期決算の分析と総括、来期の概算の計画、福利厚生のコミットメント、大型の設備投資などだけです」。
 8月に行う計画書の発表会には、全社員出席し、主要仕入先・金融機関、その他見学者が集まる。発表者は社長、各事業部長ほか、部門長など20数人に及ぶ。社外の人も多数いる場で発表することで、各社員は目標達成への使命感が強まる。
また、銀行や仕入先からの信頼も高まり、業界での評価が高まることで、優秀な人材が集まる効果もあるという。

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プレス機、レーザー加工機などの大型設備も現場の社員たちが経営の視点から機能・効率、コストパフォーマンスなどを評価して、導入を検討している。

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Posted by マガジン at 19:40 │企業紹介