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松元機工株式会社

1956年の創業の年に「バッテリー式回転刃型茶摘採(てきさい)機」を開発して以来、農業用機械専業メーカーとして数多くの農業用機械の開発・製造を手掛け、乗用型茶摘採機とサトウキビ収穫機で国内トップシェアを有している松元機工株式会社。
その機械は地元鹿児島県をはじめ全国各地で活躍し、生産量の拡大や労働力不足の解消に大きな貢献を果たしている。
将来を見据えて輸出拡大に取り組んでおられる松元雄二社長に、同社の強みとそれを活かす経営戦略についてうかがった。

鹿児島から日本全国、世界へ
農産物の生産に貢献する
動力式茶摘採機のパイオニア





松元機工株式会社
松元機工株式会社
代表取締役社長
松元 雄二 氏

所在地 鹿児島県南九州市頴娃町牧之内9325
     TEL 0993-36-1161
設立 1956年4月
従業員数 96名
資本金 4,500万円
年商 19億円(’19/3期) 
事業内容 松元式茶園管理作業機、松元式さとうきび収穫機等の製造・販売
U R L  http://matsumotokiko.co.jp

松元機工株式会社
本社



History

お茶の生産拡大を
促進する機械を
次々と開発する


 お茶の生産量の第1位が静岡県であることはよく知られているが、第2位はどこかご存知だろうか?
 答えは鹿児島県。鹿児島県は火山灰による水はけの良い肥沃な土壌と温暖な気候でお茶の栽培に適しており、県内各地でお茶の栽培が盛んに行われている。また、平坦な茶園が多いことから、機械化、大規模化が進み、鹿児島県のお茶生産量は全国の約3割に達するなど、その割合は年々増加傾向にある。中でも松元機工株式会社がある南九州市は「知覧(ちらん)茶」のブランドで知られるお茶どころで、市町村単位で日本一の生産量を誇っている。

松元機工株式会社

 松元機工は、創業来、茶農家と共に動力式茶摘採機の開発など茶園作業の機械化に取り組み、鹿児島県をはじめ全国各地の茶園の生産拡大や労働力不足の解消に大きな貢献を果たしてきた。まず、同社の創業からの歩みを見てみよう。
 松元雄二社長の父である松元芳見氏が神戸から帰郷して1956年に開業した松元モータースが同社の創業となる。三輪車やオートバイの修理のほか、農機具も扱っていた同社のもとに、茶農家を営んでいた幼友達から「機械で茶を摘むことができないか」と話が持ちかけられた。創業者は以前働いていた進駐軍の草刈機にヒントを得て、バッテリー式で回転刃を使った小型の茶摘み機を開発した。これが、手摘みや手バサミ摘みで人手に頼るしかなったお茶摘み作業が機械化される第一歩となる。

 「父は仕事一筋で、趣味は機械いじり。会社が休みの日は地金屋さんを回り、そこに集められた機械を見ては『これは何かに使えないか』『こういう構造なら他にも使えそうだ』とそんなことばかり考えていました」。
 そんな創業者のもと、同社は従業員全員が開発者という意識で次々と新しい機械を開発していく。1962年には県との共同開発で畝(うね)をまたいで走行しながら作業ができる茶園トラクター1号機を、1964年には機械の両端を2人が手に持って歩きながら刈る松元式可搬型茶摘採機を開発した。この茶摘採機は、同社最初のヒット商品となり、多くの茶農家に受け入れられたことで、鹿児島県の茶園面積は10年間(1966年~75年)で約1.6倍に、地元の頴娃(えい)町で約2.7倍、知覧町で約2.1倍と飛躍的に伸びた。

松元機工株式会社
最初のヒット商品になった可搬型茶摘採機。

 「当時、頴娃町では茶農家は少なかったのですが、可搬型茶摘採機で作業が効率化されたことでお茶の生産で生計が立てられるようになり、生産者が増えていきました」。
 現在の主力製品となる乗用型の茶摘採機は、1968年にその原型となる乗用型茶園中刈機が開発され、翌年に乗用型茶摘採機・防除機が完成する。
1981年には海外の広大な紅茶農場向けに大型茶摘採機を開発し、パプアニューギニアとエクアドルに輸出を開始し、高い評価を受けた。こうした海外での知見も取り入れて改良を重ね、1983年に発売した「一条乗用型茶摘採機」は、摘み取った茶葉を傷つけず、こぼさないように機械の後ろで袋に収容していくことも可能となり、茶摘採機における国内シェアは80%を占めるようになった。

松元機工株式会社
お茶の生産拡大に貢献する乗用型茶摘採機。

 もう一つの主力製品であるサトウキビ収穫機は、1994年に開発した。サトウキビ栽培の最大のネックは収穫労働の厳しさにあると言われている。産地である南西諸島( 鹿児島県・沖縄県の島々)では、海外製の大型収穫機が導入されていたが、離島の小規模なサトウキビ畑では小回りが利かず、重量が重いため雨で地面がぬかるむと使えなかった。同社では、日本の畑に合わせた小型軽量の収穫機を開発し、南西諸島の基幹作物であるサトウキビの生産に多大な貢献を果たしている。

松元機工株式会社
日本の畑に適したサトウキビ収穫機。

P r o d u c t s & S e r v i c e

ユーザーと一体となって
改良と新しい機械の
開発に取り組む

 
現在までに乗用型茶摘採機の累計販売台数は4500台以上、サトウキビ収穫機は約500台となっており、共に国内トップシェアを有している。その強みについて、松元社長は「農家さんの声を取り入れて、常に改良を加えて開発していること。それに、同じ機械を20年以上使われているお客様も多く、丈夫で長持ちする機械を念頭に置いて造っていることが評価されています」という。
 乗用型茶摘採機は1969年の発売以来、改良が加えられている。大きな改良では、お茶の収容部が袋タイプからコンテナになったり、回転刃からバリカン刃への変更などがある。仕様の変更も含めて、毎年何らかの改良が加えられているという。
 「機械は毎年変わりますが、農家の皆さんのことを考えて、以前に買っていただいた機械も変更できるように設計開発しています」。
 こうした改良ができるのは、開発はもちろん材料調達から部品加工、組立まで一貫生産で行っているからで、「10年、20年経って仕様が変わった機械でも部品の供給ができる」ことも、他のメーカーにはない強みになっている。

松元機工株式会社

 毎年、春先の一番茶の摘み取りシーズンの前に、機械の点検を兼ね、メンテナンスの担当者が全国を飛び回っている。その際、自社製品以外の農業機械やショベルカーなどの重機の修理を頼まれることもあるという。そうしたお客様からの要望が、枝豆収穫機やほうれん草、大麦若葉などを対象にした野菜収穫機など、お茶やサトウキビ以外の新しい機械の開発につながっている。
 「枝豆はこれまで手作業で収穫されていて、小規模生産の農家さんが中心でした。この機械は効率が良すぎて、これで収穫してしまうと後作業が追いつかないため、販売先が増えませんでした。しかし、こんな機械があるのならもっと大規模に生産しようという大規模農家や農業法人さんが出てきて、近年、徐々に需要が伸びています」。

松元機工株式会社

 また、枝豆収穫機は収穫と脱穀を同時に行うことができ、そのユニークな形状から、作付面積日本一の新潟県で稼働している様子がテレビ番組(和風総本家)でも紹介された。同社ではこうしたお客様からの要望を大切にし、新しい機械の開発に積極的に取り組んでいる。
 「なかにはまったく売れない機械もありますが、造ることが勉強にもなっています。どんどん新しい機械に取り組んで、お茶とサトウキビ以外の新しい柱を育てていきたい」。

松元機工株式会社
収穫と脱穀を同時に行うことができる枝豆収穫機。


Management

全社一丸となった
知的財産活動を展開


 新しい機械の開発と改良を推し進めると共に松元機工では、知的財産活動にも注力している。創業の年に開発した「バッテリー式回転刃型茶摘採機」で特許を取得したのを皮切りに、数々の産業財産権( 特許・実用新案・意匠)を取得し、その数は60件近くになっている。2002年には工業所有権制度の普及推進と発展に貢献のあった企業として、「知財功労賞(特許庁長官表彰)」を受賞した。
 「お客様のために『シンプル構造でこわれにくい』『より使いやすく』と開発した技術を特許の取得という形で防衛し、他社との差別化を図ってきたことで、『茶摘採機といえば松元機工』と評価される地位を築くことになりました」。

松元機工株式会社

 知的財産活動は、開発設計部門を中心に生産部門、事務部門が連携し特許情報の収集や特許出願するか否かの検討、権利の期間管理などを行っており、必要に応じて鹿児島県の「知財総合支援窓口」なども活用して専門家のアドバイスを受けている。また、社内報や朝礼などで従業員向けに知財に関する情報発信を継続的に実施し、全社一丸となった知財活動を展開している。現在では従業員から積極的に権利化の提案が出てくるなど、知財意識の向上や人材育成の効果が出てきている。
 「現在、県や他社との共同開発でロボット茶摘採機の開発にも取り組んでいます(COLUMN 参照)。そうした最先端の分野はもちろんですが、既存の機械の改良でもしっかりと権利を押さえていくことが、将来に役立ってくると思います」。

松元機工株式会社


F u t u r e

広大な茶畑があるアフリカで
安定した受注を目指していく


 「父が一代で築いたこの会社を、どうやって存続させていくか、それが私の使命です。サトウキビ収穫機は国の補助もあって安定した台数が出ており、枝豆収穫機のような新しい機械の需要も出てきていますが、お茶の国内需要が減少している中では、海外で安定して買ってくれる客先を作っていくことが必要です」。
 松元機工では、1981年のパプアニューギニアをはじめ輸出に早くから取り組んできたが、近年力を入れているのがアフリカ市場だ。
 「2年前にケニアに初めて輸出した機械が評価され、今年に入って大型の注文が来ました。ケニアの紅茶生産会社は、1 社で南九州市の全部の茶畑を合わせた面積以上の広さの畑を有しています。そんな会社がケニアには何社もあり、隣国のウガンダやタンザニアも合わせると、その需要は膨大です。アフリカはまだ人手が不足しているわけではありませんが、人件費は毎年上昇しています。茶畑のオーナーはいずれ乗用型茶摘採機の時代が来ると考えており、少しずつ導入を始めています」。

松元機工株式会社

 輸出に当たって一番の課題は、日本の4倍以上になる機械の稼働時間だ。
機械の耐久年数を確保するには、現地でエンジニアを育成するなどしっかりしたメンテナンス体制を構築していかなければならない。そうした海外事業を推進するために、若手社員を抜擢して人材育成に取り組んでいる。

松元機工株式会社

 「開発の方も現地の使用環境に合わせて耐久性のよい機械やエンジンを考えていかないといけない。1年、2年経ってどこが傷んでいるかを良く調べて、改良すべきところはどんどん改良していきます。
 当社は地域の農家さんが今何に困っているかをうかがって、それに応えられる機械を開発することで発展してきました。アフリカをはじめ海外でもそれは同じです。現場のニーズをしっかりと聴いて、ユーザーと一緒に発展していきたいと思います」。

松元機工株式会社

C O L U M N

自動で走行・作業する
「ロボット茶摘採機」が、いよいよ実用化


 松元機工と鹿児島県農業開発総合センター、日本計器鹿児島製作所の3者で共同開発してきた「ロボット茶摘採機」が発売され、いよいよ実用化への第一歩を踏み出した。ロボット茶摘採機は松元機工の乗用型摘採機に超音波センサーや方位センサーを装備し、動作プログラムをシーケンサーで制御することで、茶樹と空間部分を検知し走行・停止・旋回して次の畝に移動する動作を繰り返しながら、茶園内を自動で走行し作業を行う。

松元機工株式会社
ロボット茶摘採機

 「当社の機械は畝を感知して油圧を制御することで、ハンドルを手放しても茶園の中を真っすぐ進む機能を以前から備えています。ロボット化では、畝間を出た後に次の畝間に入って行く自動化を考えるだけでしたので、他社の機械に比べて開発は比較的容易でした」。
 このロボットは自動化の基準では「レベル2」に当たり、作業に当たっては人の監視を必要とするが、例えば3台のロボットを一人で動かしたり、補助作業をしながら動かしたりすることで、労働力不足の解消や、生産規模の拡大に貢献できる。
 「この機械は限りなくレベル3に近いところまで来ており、大手の農機メーカーの機械に比べても進んだレベルにあります。実際に使っていただいた現場の声をフィードバックしながら、より使いやすい自動化機械の開発をこれからも進めていきます」。






松元機工株式会社

松元機工株式会社
日本百名山の一つである開聞岳を望む丘に建つ本社と各工場。レーザー加工から部品製作、塗装、組立など一貫生産を支える各工場と倉庫、修理工場、研修室などが並ぶ。


松元機工株式会社
工場敷地内にミニSLを設置。1周約150mの線路や踏切などは自社で製作した。工場見学に来た子どもたちを乗せて走り、地域貢献に役立っている。




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Posted by マガジン at 11:23 │企業紹介