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広和株式会社

国内トップメーカーとして顧客からの信頼が厚い潤滑・給油装置をはじめ、長年の海洋調査で培った水中ロボット技術が養殖やインフラ設備の点検といった新分野での展開へと拡がりを見せるマリンシステム事業など、5つの事業を有する広和株式会社。今年で社長に就任して31年目を迎えるという廣安雅美社長にそれぞれニッチな分野で業界もマーケットも異なる5事業をコントロールし、着実な成長を遂げた経営戦略について伺った。

広和株式会社

5本の異なる柱で時代のニーズを捉えて着実な成長を続ける

広和株式会社

広和株式会社
代表取締役社長
廣安 雅美 氏

所在地  大阪市此花区西九条1-3-31
TEL    06-6462-7155
設立   1960年2月
従業員数 109名
資本金  9,500万円
年商   27億円(’19/3期) 
事業内容 潤滑・給油装置の製造販売
     人工漁礁の開発・構築、海洋環境調査
     水中機器の設計開発・製作販売
     介護医療現場向け洗浄装置の製造販売
     レトルト食品の製造販売
U R L   http://www.kwk.co.jp

広和株式会社
本社

Products
業界トップの潤滑・給油装置、水中探査機器をはじめとして、それぞれの業界で存在感を発揮する5事業

 広和株式会社には、下記で紹介しているように5つの事業部がある。それぞれ業界も市場も異なるが、油機部、マリンシステム部は業界でトップの実績をあげている。海洋部は人工漁礁のパイオニアで、最も新しいP&D(Planning &Development:企画・開発)事業部もスタートから15年以上になるなど、どの事業も確固たる顧客基盤を有し、ニッチな分野で存在感を示している。各事業の製品や特長、業界での強みを紹介していこう。
 まず、油機部は1960年の会社設立当初からの事業で、現在でも売上全体の60%以上を占める。あらゆる機械の保守・メンテナンスに欠かすことのできない潤滑・給油装置の製造販売を行う。
 製品は大きく二つに分かれる。潤滑剤であるオイルを循環させて供給する「強制循環給油装置」は、大型で超高速回転し、高荷重がかかる機械設備に利用されるため、10tを超える巨大な装置になる。廣安社長は「この装置の顧客は、重厚長大産業が中心です。当社は、重工業メーカーをはじめ製鉄・製紙・エネルギーなどの日本を代表する大手企業と長年にわたって取引をしていただいています」と、顧客からの厚い信頼がこの事業の強みだという。同社の強制循環給油装置の出荷台数は、累計で10 , 000台を超え、業界トップメーカーとしての実績を誇っている。
 油機部のもう一つの主力製品である「集中潤滑装置」は、様々な機械にグリースを自動で給油するオーダーメイド型の装置で、工作機械やプレス機械などの産業機械やコンベアなどの輸送搬送機器、土木建設機械などに使われている。
 「手差しでの給油からこの装置に切り替えることで、『潤滑』を自動で管理することができます。1台のポンプで100ヵ所に給油することも可能で、当社は、機械の設計や稼働環境に合わせて潤滑に関する最適な管理システムを提案しています」というように、トップメーカーとして豊富なノウハウと製品バリエーションが強みだ。クレーンや高所に設置された機器類など人手による作業が困難な箇所だけでなく、運転中の機械への適正な給油が可能となり、工場の合理化・省力化を実現する装置として、ニーズが高まっている。
 次に長い歴史を持つ海洋部は、1977年にスタートした。「200海里時代」に向けた国家事業である沿岸整備開発事業に当初から参画し、人工漁礁のパイオニアとして業界トップクラスの実績を有している。
 「かつては人工漁礁を利用して対象魚種の漁獲効率を高める『漁場造成』や魚類の保護育成を目的にした『増殖場造成』が中心でした。近年は藻場が消失する“磯焼け”と呼ばれる現象が日本の沿岸各地で発生し、大きな問題となっています。当社は漁礁で培った豊富な経験、ノウハウを活かして『藻場造成』や、『環境改善』を提案しています」。同社の製品「アルガーリーフ」は、北海道での真昆布(マコンブ)の着生と繁茂に大きな効果を上げるなど全国で藻場造成に貢献。水質改善を促す「アルガーベイ」は大阪府の「豊かな大阪湾」環境改善モデル事業に採択されて、大阪湾 湾奥部に設置されている。
 3つ目の事業であるマリンシステム部は、漁礁設置後の効果を調査するための事業として、1985年に水中探査ロボットを開発したことに始まる(1997 年に海洋部から独立)。以後、調査の目的に合わせて極限の技術力が要求される深海11 , 000mに耐える機器、発電所内の水中設備点検などに用いられる超小型ロボット、計測用機器、ハイビジョンカメラなど先端技術を駆使した水中機器を相次いで開発。設計から製作、調査活動に関するシステム全般を一貫して担っている。
 「水中探査機器でも業界トップの実績があり、近年では原子力発電所の作業関連で当社の水中ロボットが活用されるなど、その技術は多方面で注目されています。当社は『水中底面掃除ロボット』(Column参照)の開発など分野での展開を積極的に図っています」。
 これら3事業と趣きを異にするのが、あさり・しじみなど貝類を専門としたレトルト食品の製造販売を行う食品事業部で、1983 年にスタートし、現在は大手食品メーカーに納めている。またP&D事業部は、高齢化の進展に合わせて2004 年に始めた事業で、マットレスや車椅子など介護医療現場で用いられる機器類の洗浄装置を製造販売しており、食品、P&D両事業とも売上規模は小さいが、安定した収益を上げている。


広和の5つの事業部

油機部
あらゆる機械の保守・メンテナンスに欠かすことのできない潤滑・給油装置の製造販売
広和株式会社
新強制循環給油装置
広和株式会社
集中潤滑装置


海洋部
広和株式会社
広和株式会社
人工漁礁の開発・構築及び海洋環境調査


P&D事業部
広和株式会社
マットレスや車椅子、ベッドフレームなど介護医療現場で用いられる機器類の洗浄装置を製造販売


マリンシステム部
広和株式会社

広和株式会社
探査ロボット、計測用機器、ハイビジョンカメラなど水中機器の設計開発・製作販売


食品部
広和株式会社
あさり・しじみなど貝類を専門としたレトルト食品の製造販売


H i s t o r y
事業拡大に邁進した創業者の跡を受けて、財務体質を強化する健全な経営に取り組む

 広和の創業は、廣安社長の父である廣安美佐夫氏が広島から大阪に出てきて1952年に水道配管工事業を営んだことに始まる。その事業で知り会ったお客様から「給油装置の販売代理店になってくれないか」と依頼されたことが、現在の主力である潤滑・給油装置事業へ進出したきっかけとなった。1960年に法人に改組し株式会社広和商会(1968年に現社名に変更)を設立し、販売代理店からメーカーへの転換を図った。販売網も順次、広島、名古屋、東京、九州へと拡げて、全国的に顧客を獲得していった。「父はとにかく新しい事業に取り組んで業容を拡大することに積極的でした」。
 5事業の紹介で述べたように、創業者は1977年に海洋開発部門、1983年に食品部門、1985年に水中探査ロボットの開発と、次々新しい事業に取り組んでいった。先代は事業を多角化していくなかで、60歳になったことを機に経営の一線から身を退いたため、廣安社長は1990年、33歳の若さで会社を引き継ぐことになった。
 「世間的にはバブル景気の真っただ中で財テクブームでしたが、当社は新しい事業を次々と展開していたので余裕はなく、財務体質を改善することが課題でした。幸いにも事業の柱となる油機部や海洋部の業績は好調だったので、本業に邁進して財務を強化することに徹しました」。廣安社長は、不採算部門や営業所を廃止する一方、1997年にマリンシステム部を海洋部から独立させるなど、将来的に拡大が見込める事業へ資金を投入していった。2004年にはP&D事業部がマットレス洗浄装置の開発に成功したことで、現在の5本の柱が確立した。

広和株式会社
広和株式会社
広和株式会社
広和株式会社
広和株式会社
市川工場(兵庫県神崎郡)は15tを超える巨大な装置になる強制循環給油装置やオーダーメイド型の集中潤滑装置など、給油装置の製造を一手に担っている。

広和株式会社
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広和株式会社
広和株式会社
広和株式会社
広和株式会社
広川工場(和歌山県有田郡)は耐水圧試験用の水槽(最大水圧70MPa/水深7,000m相当)や各種設備を有し、水中ロボットをはじめとする海洋機器の研究開発及び製造を行う。

Management
研修や技術交流で会社としての一体感を醸成

 広和では会社の活動ポリシーとして「SMALL IS BEAUTIFUL…全員参加のガラス張り経営と少数精鋭の実力主義」を掲げている。
 「ガラス張り経営では、全社員に経営状況をオープンにしています。現状をしっかりと理解して、常に危機感を持ってもらうことと、今後取り組むこと、取り組まなければいけないことを全社員に共有してもらうことを目的にしています」。
 少数精鋭の実力主義では、各社員の毎期の計画に対する実績と貢献度を評価して、賞与を厳格に査定する。一人ひとりが、常にプロ意識に徹し、「それぞれが会社の代表である」という心構えを持って、「自らに厳しく」「自らに忠実に」「自らの役割を100%生かしきる」ように求めている。「新規テーマへの取り組みや、新しい需要の開拓など、将来に向けて貢献した人を評価できるよう、評価方法をより厳密にしています」。
 同社の経営において課題になるのが、異なる5事業の統括方法だ。「従来は事業部門ごとに独立採算を基本にした縦割り組織でしたが、近年は技術を中心にして横のつながりを重視しています」。
 技術分野で大別すると、油機部は機械系、マリンシステム部は電気・電子系になる。しかし、IoTの進展により潤滑・給油装置においてもセンサーや電子制御技術の重要性が高まっている。そこで事業部門から独立した開発部門を設立するとともに、油機部とマリンシステム部の技術交流会を開催している。また、「当社では新入社員から中堅、管理職、幹部まで階層別の研修や、技術スキル向上のための工場研修など、人材育成のための社内研修に力を入れて取り組んでいます。これらの研修の機会を活用してフランクに話し合える親睦の場を持ち、事業部門の垣根を越えた交流で会社としての一体感を醸成しています」という。

広和株式会社

F u t u r e
各事業分野の伸びしろ を追求し安定成長と着実な利益の獲得を目指す

 「当社の5事業は、一つ一つはニッチ市場ですが、それぞれに長年の実績があります。先行きが不透明で難しい時代ですが、各分野での特色を活かし、市場ニーズをいち早くつかんで、他社に先駆けて新製品開発に結び付けていきたい」。
 工場の自動化・省力化による人手不足の解消、海洋環境の改善、安心・安全に備えたインフラ設備の点検・整備など、各事業分野のニーズは確実に高まっており、マリンシステム部では「水中ドローン」という新市場も生まれている。それぞれの分野で培ってきた技術やノウハウを活かすことで新たな需要を獲得すれば、まだまだ伸びしろ がある。
 「2020年は当社の設立60周年で、私自身も社長に就任して丸30年が経ち、31年目を迎えます。息子(廣安雅夫取締役)に経営をバトンタッチするために、中間管理職のレベルアップを図り、次期社長のブレーンとして活躍してもらう幹部人材を育成することが私の課題です。次の社長、次の幹部として本人が自覚を持ってもらうことが一番大事ですから、それに向けて指導しています。これからも従業員が働きやすく、きちんと利益を出せる会社を追求して、次の世代にしっかりとバトンを渡せる体制を構築したいと考えています」。

C O L U M N

新市場を創出する「水中底面掃除ロボット」

 海洋調査用の水中探査ロボットを開発製作しているマリンシステム部では、その技術を応用する注目分野として養殖業界・インフラ業界への展開を図っている。水中底面掃除ロボットは、その新製品の一つ。近年、相次ぐ災害や事故で、インフラ設備の点検・整備の重要性がクローズアップされている。現在、浄水場の貯水槽や工場用配水池での清掃・調査など人の代わりに水中ロボットが作業をしている。
 「3Kの現場作業で人手が不足していますし、人災事故の心配もあります。より効率的かつ安全な作業が求められる顧客ニーズに対し、当社が持つ水中ロボットの技術がそうした課題の解決に貢献できます」。
 このロボットを使った清掃では
● 調査、作業の様子を記録可能
● 水抜きが不要で断水にならない
● 落下物、剥離箇所の寸法計測が可能
などの優れたメリットがあり、大きな注目を集めている。
 「このロボットを応用し、送水管を調査・清掃できるロボットも開発しています。マリンシステム部の技術が活かせる分野はまだまだありますので、積極的に新しい市場を開拓していきます」。

広和株式会社




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Posted by マガジン at 17:59 │企業紹介