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日本インシュレーション株式会社

1966 年、1000℃の耐熱性能を持つゾノトライト系けい酸カルシウム建材の工業化に世界で初めて成功した日本インシュレーション株式会社。以後、保温材・耐火被覆材としての用途開発を進め、建築・プラント分野を中心に産業界に多大な貢献を果たしてきた。グローバルな人材を育て世界を視野に新たな事業領域に果敢に挑戦する同社の経営戦略について、吉井智彦社長にうかがった。

革新的素材で
建築とプラントの防災と
環境保全に貢献する

日本インシュレーション株式会社
日本インシュレーション株式会社
代表取締役社長
吉井 智彦 氏

所在地 大阪市中央区南船場1-18-17商工中金船場ビル7F 
     TEL 06-6210-1250
設立 1949年1月  
従業員数 401名  
資本金 7億4,376万円 
年商 114億円(’18/3期)
事業内容 建築分野及びプラント分野の耐火・断熱材料の製造・販売・施工
U R L https://www.jic-bestork.co.jp
日本インシュレーション株式会社
本社

Products

1000℃の耐熱性を持つ
革新的素材を基盤に
建築・プラント分野で事業を展開


けい酸カルシウムを材料にした工業製品は、軽量で保温・断熱性に優れた不燃材料として建築材料や保温材などさまざまな用途で利用されている。日本インシュレーション株式会社( JAPAN INSULATION CO.,LTD 以下、JIC)は、1966年に独特の中空2次粒子構造を持つゾノトライト系けい酸カルシウム建材の工業化に世界で初めて成功した。
 「それまでのトバモライト系けい酸カルシウム材の耐熱温度650℃に対し、当社のゾノトライト系素材は1000℃の耐熱性があります。従来の製品では対応できなかった高温域の保温・断熱や耐火に非常に適した革新的な素材です」。

日本インシュレーション株式会社
ゾノトライト系けい酸カルシウム製品

 同社はプラントと建築を主要事業領域に、ゾノトライト系けい酸カルシウム材のパイオニアとして様々な製品を開発し、製造から施工まで一貫して手がけている。プラント事業では、技術力と豊富なノウハウによって、製品販売だけでなく各種設備の保温・断熱を設計・施工からメンテナンスまで請け負う。納入先は、発電所や石油精製・石油化学プラントをはじめ、製鉄所、紙パルプ工場など熱エネルギーを利用する様々な分野にわたっている。建築事業では優れた耐火性能、断熱性能、軽量で加工しやすい、経年変化が少ないなどの特性を活かし、耐火・不燃内装・不燃断熱・調湿建材など多種多様な製品を展開している。

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特に鉄骨建築のはり・柱の耐火被覆材は1000℃で最大3時間の優れた耐火性能を有するとともに、成形板であることから施工が容易で、塗装やクロス張りの下地の役目も果たす。工場や倉庫では、成形板自体が白色であることから、そのまま仕上材として利用できるため広範囲に採用されている。 「当社のゾノトライト製造技術は、製品の中に熱線遮蔽材、樹脂などの機能材を組み込んで、さまざまな機能を付与できる特徴があります。加えて、製品の製造から工事施工までを一貫して行っているので、顧客からの声をフィードバックしやすく、顧客ニーズにきめ細かく応えた商品開発も当社の強みになっています」。

日本インシュレーション株式会社

 事業の現況は、プラント・工業用途では、電力自由化でプレイヤーが増えたことなどで火力発電やバイオマス発電などの建設が増えており、需要は高水準で推移している。国内需要が縮小傾向にある石油プラントも、各社が生き残りをかけた設備投資が活発になっている。建築市場では大都市圏を中心にオフィスビル、eコマース市場の拡大による物流倉庫の需要が堅調で、同社のけい酸カルシウム耐火被覆材はフル稼働での供給が続いている。また、東日本大震災以降、地震対策への建築主の関心が高まっていることもあって、免震装置の耐火被覆システムの需要も増加している。

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H i s t o r y

経営危機のなかで
生まれた世界初の発明


 105 年前の1914 年、JICは大阪パッキング製造所として大阪市で創業した。
 「創業者は水道局に勤めていた技術者で、当時、水道のパッキンの質が悪かったために、消火のための水圧が上がらなく、大火になったことがありました。そのために良質のパッキンを作ろうと思い立ったそうです。高い志を持って創業したことが、当社の原点です」。

日本インシュレーション株式会社



 その後の産業発展とともに保温・保冷工事の設計施工を手掛けるようになり、戦前は発電所や船舶などの保温工事を中心に業容を拡大していった。 戦後の1949年、株式会社に改組し、1958 年にアメリカからトバモライト系けい酸カルシウム材の製造技術を導入した。その生産のために現在の主力工場の一つである岐阜工場を新設し、1960 年に操業を開始した。ところがその翌年、岐阜工場は長良川流域の集中豪雨で大きな被害を受け、さらに反応装置の爆発事故が発生するなど、同社は深刻な経営危機に直面した。その苦境の中にあって生まれたのが、世界初となるゾノトライト製造技術だった。まさに「禍を転じて福となす」出来事であった。

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 当時、けい酸カルシウム保温材メーカーは、耐熱性を高め、熱伝導率を低減するために、製品をいかに軽くするか、曲げ強度を高めるかを競っていた。同社ではゴムの充填剤として耐熱性の高いけい酸カルシウム粉体の開発を行っていた際、飛躍的に強度が高くなるゾノトライト結晶を偶然発見した。それをもとに、1966 年に断熱保温材「エックスライト」を、1968 年に耐火建材「タイカライト」を開発した。
 「画期的な製品を開発したのですが、量産するための設備投資資金が不足していました。そんな時に投資育成会社から設備近代化計画を策定した優良な中小企業として、1969 年に2,000 万円の出資をいただきました。それにより金融機関の格付け評価が上がり、とても助かったと聞いています」。
 ゾノトライト製造技術の確立で、JICは建築の耐火被覆などの分野へ事業を拡大するとともに、同社の保温材や耐火被覆材がJIS 規格の元になるなど業界の規格となったことで、プラントエンジニアリングや建築分野で確固たる地位を築くことになった。
 1985 年には国内で初めて無石綿化に成功し、省エネバンガード(( 財)省エネルギーセンター)をはじめ多くの賞を受賞した。これまでに世界17ヵ国で海外特許としても登録され、欧米の大手建材メーカーへの技術供与を行うなど、革新的素材として世界に普及するに至っている。
 また、1989 年には社名を現社名に変更すると共に、生産能力増強のため北勢工場(三重県)を開設した。

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Management

環境配慮型製品で
海外市場を獲得していく


 近年、JICが注力しているのが海外における事業基盤の構築だ。2007年以降、台湾、韓国、オーストラリアなどに耐火被覆材や保温材を輸出し、2016年にはベトナムに完全子会社を設立して保温材工場を建設、同年10月から出荷を開始した。
 「経済成長著しい東南アジアでは、発電所や石油化学工場の需要が伸長しています。当社は、発電所や石油化学工場向けの国内市場では、けい酸カルシウム製品で50%のシェアを獲得していますが、東南アジアではけい酸カルシウム保温材のメーカーがないこともあって、プラントの保温材には主にロックウールが使われています。ベトナムの生産拠点を中心に、日本の岐阜工場と連携して機能・性能に優れた保温材を供給し、東南アジア地域の潜在需要を掘り起こし、成熟した市場でシェアを獲得していくことに取り組んでいます」。



日本インシュレーション株式会社

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 ベトナムで生産する保温材は、世界的な穀倉地帯である現地のメコンデルタで調達した「もみ殻」を製造工程の熱源として活用し、かつ燃やした後の灰を原料としている環境配慮型の製品で、現地政府から環境配慮優遇税制を受けている。「もみ殻」にはけい酸カルシウム保温材の原料となるケイ素が10%含まれており、同社では1985年にマレーシアでのODAで「もみ殻」を原燃料にした保温材のパイロット生産に成功している。今回はその技術を応用した本格生産で、国連の持続可能な開発目標「SDGs」を推進するバイオマス事業として世界から注目を集めている。
 ベトナム工場の稼働に合わせて、JICでは保温材の海外販売を推進するために東南アジアを中心にした販売代理店と「国際販売店会」を結成するとともに、グローバル人材の採用と育成に取り組んでいる(COLUMN参照)。

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F u t u r e

成長戦略を描いて
誇りと夢を持って働ける会社に


 JICでは2018年度に2030年を見据えた長期ビジョンを策定し、より競争力のある事業の構築と新規事業領域の確立に取り組んでいる。
 「当社の製品は、プラント事業、建築事業とも業界で広く認知され、高いシェアを獲得しています。カーテンウォール耐火ボードや免振装置の耐火被覆システムなど、市場の新しいニーズに応える新製品・新工法の開発も、業界で高く評価されています。お陰様で現在は好調ですが、過去にはオイルショックやバブル崩壊、リーマンショックなど幾多の試練がありました。既存事業においてより競争力のある事業を構築することはもちろんですが、景気の波に左右されないよう海外における事業基盤の強化や、プラント、建築に次ぐ第三の事業の柱を構築することが、私の使命だと考えています」と、吉井智彦社長は長期ビジョンへの思いを語る。
 新規事業領域では、社内でゾノトライト系けい酸カルシウム製品以外の素材の開発に取り組むほか、環境をキーワードに新たな市場を創造する画期的な製品の開発をオープンイノベーションで取り組んでいる。
 「やはり企業は現状維持ではなく成長を目指していかなければなりません。産業・社会や地球環境に貢献する成長戦略を描いて、社員が誇りと夢を持って働ける会社にしていきたい」。

【事業分野】
主に建築分野とプラント分野で、ゾノトライト系けい酸カルシウムを基材とする耐火・断熱材料の製造・販売・施工を行っている。

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〔建築分野〕
鉄骨耐火被覆工事、免震装置耐火被覆工事、耐火間仕切壁工事、防火区画ケーブル貫通部延焼防止工事、カーテンウォール耐火パネル工事、調湿建材工事、グラスウール断熱防音工事、発泡ウレタン吹付工事、壁・天井工事、内装造作工事、アスベスト除去工事、空気調和設備保温・保冷工事など

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〔プラント分野〕
保温・保冷工事、加熱炉耐火工事、機器配管防音工事、プラントストラクチュア耐火被覆工事、ケーブルダクト耐火被覆工事、防水・防触工事、低温液化ガス貯槽防液堤内断熱工事など


TOPICS

信頼の経営を実践する「経営審議会」の制度

信頼の経営を実践する「経営審議会」の制度JICのユニークな制度として、労使が様々な経営課題について討議する経営審議会がある。
 1963年に発足した経営審議会は、一般的な労使協議会による労働条件の改善という次元ではなく、従業員全員の声を反映出来るようなシステムを目指して、経営について一緒に協議していく場として築かれた。全ての根本がお互いの信頼であり、その信頼の経営のシンボルが経営審議会である。経営審議会での発言は記録されるが、委員がいかなる発言をしてもその記録に対しての処罰や責任を問わないことが明言され、経営審議会で出した結論は取締役会で十二分に尊重されることを原則としている。現在、経営審議会はJIC独自の制度として、取締役会とともに会社にとって重要な経営を審議する2本柱となっている。
 「私の座右の銘は聖徳太子が制定した十七条憲法の第一条に出てくる『和を以て貴し(尊し)となす』ですが、当社の経営審議会はまさにそれを実践する制度です」(吉井社長)。

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C O L U M N

「JIC学校」を開設し、ダイバーシティを推進

同社では「JIC学校」と名付けられた社員研修の制度を設けている。JIC学校は資格取得や専門技能講習、安全教育、管理事務、営業マン研修などの専門知識と一般教育の両輪で、新入社員・中堅社員・幹部社員の階層別に種々のカリキュラムを整備している。その中には外国籍社員や女性社員向けの研修やセミナーも含まれている。

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2017年12月に開催した「ダイバーシティと女性の社会での活躍を考える」と題した「女性活躍推進フォーラム」には各部署の女性社員20名が参加(写真右)。未婚・既婚・育児中などそれぞれ立場の違う女性社員が活発に意見を交わした。また、JICでは海外事業の推進に合わせて、留学生などを積極的に採用し、外国籍社員は32名で全従業員の約8%を占めている。特にベトナムの子会社から技術実習生を受け入れている岐阜工場は国際色豊かな職場になっている。外国籍社員向けの研修はもちろん、日本人社員に対しても異なる文化の社員と一緒に働くためのダイバーシティを高めていくことを重要な課題として、人材育成に取り組んでいる。

日本インシュレーション株式会社

 「長期ビジョン2030を実現するためには、グローバル人材の育成と活躍の基盤となる女性社員の育成が欠かせません。JIC学校の教育の質を高めて、企業成長の原動力になる人材の育成を目指していきます」(吉井社長)。




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Posted by マガジン at 10:56 │企業紹介