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自社の価値を創る ブランディング| 日本テクノロジーソリューション株式会社

 1976年に兵庫県高砂市で、岡田電気工業として創業した日本テクノロジーソリューション株式会社。当初から今の社名に通じるような、自動巻き寿司機やタクシー配車システムなど「課題解決型」のものづくりを行っていたが販路が広がらず、大手電機メーカーの下請けの道を選んだ。しかし、次世代型製品の台頭や海外製品との競合による価格破壊などから電機業界と決別し、自社ブランド製品を開発する。再び「課題解決型」企業としてのスタートを切った岡田耕治社長に伺った。

独自に開発した装置とメディアでソリューションを提供する企業へ


自社の価値を創る ブランディング| 日本テクノロジーソリューション株式会社
代表取締役社長
岡田 耕治氏
1968年生まれ、兵庫県出身。コンサルタント会社を経て、岡田電気工業株式会社(現日本テクノロジーソリューション株式会社)に入社。1999年に代表取締役社長に就任。

自社の価値を創る ブランディング| 日本テクノロジーソリューション株式会社
本社
所在地  兵庫県神戸市中央区港島南町7-2-8
     TEL 078-304-4439
設立   1981年10月
従業員数 30名
資本金  5,000万円
年商   6億円(’20/9 期)
事業内容 包装機械製造・販売、映像制作
U R L   https://www.solution.co.jp

3ヶ月で価格が3分の1に 技術を活かして新たな市場へ

 「私が社長に就任した1999 年当時は、大手電機メーカーの下請けとしてブラウン管の検査機を設計・製造していました。ところが、2000 年頃から急速に普及し始めた薄型テレビによってブラウン管は衰退しました。その後に手がけたプラズマ検査機の電装部分も海外生産品に押されて、あっという間に価格が崩れてしまったんです。わずか3ヶ月ほどで、3分の1まで価格が落ちる業界に、当社の未来はないと思いました」。2001年4月、管理職を一堂に集めて「経営改造会議」が開かれた。

 驚くのは、そのわずか半年後に、今日まで好調な売れ行きを見せている自社ブランド製品「熱旋風式シュリンク装置TORNADO 」を発売したことだ。

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TORNADOの製品例
「熱旋風式シュリンク装置TORNADO」によってパッケージされた食品や化粧品、医薬品の大手有名ブランドの製品例。少量多品種にも対応できるため、神戸に多い酒造メーカーなど小規模の事業所にも多く採用されている。

 「当社にはもともと検査装置などを設計・製造できる要素技術がありました。あとは市場を見定めるだけだったんです。当時、日本の家電メーカーは世界的に人気があり、そのため納入業者間の競合も多い。それなら内需型企業の食品や医薬品の業界にアプローチしようと考えました。つまり、先に市場を決めたということです」。

特許を取得した独自の技術で一瞬にして美しくラッピング

 2001年9月に発売された「熱旋風式シュリンク装置TORNADO」は、熱を加えると収縮するシュリンクフィルムを使って包装する装置で、同社が独自に開発した4方向からの熱風が竜巻のような渦を起こす方式が、複雑な形状の容器や、熱・水に弱い容器も一瞬にシワやムラなく包装する(特許技術)。発売から20年を経て、今なお、食品や化粧品、医薬品業界のメーカーから支持されるロングセラー製品だ。

 同社としては初めての自社ブランド製品であり、さぞ産みの苦しみがあったのかと思えば、「企画開発から発売までは3ヶ月ほどでした。その期間は楽しかったですね。大変だったのは発売してから売れるまでと、売ってから代金を回収するまでです。それまで下請けだったため、売り方を知らなかった苦しみがありました」。

 また、発売したばかりの頃は不具合も多かった。そこで翌年は、クレームを全てリストアップし、それらを解消すべく全改良を行った。装置は全て標準化され、必要な機能は顧客が選ぶパターンオーダー方式に変えた。

 「成熟した市場では中身での差別化が難しくなっており、世の中の商品はパッケージで独自色を出すことが求められる時代になりました」。そこから、製品パッケージは個体メディアなのだという考えに行き着く。

顧客の魅力を映像などで伝えるプロモーション事業の立ち上げ


 2004 年8月、岡田電気工業から現社名に変更した。その翌月に神戸にマーケティング本部を設置し、メーカーを対象にしたコンサルティング業務をスタートさせている。その後、2008 年にビジネス番組「ものづくりの挑人たち」や、展示会の内容を取材し紹介する映像などの制作事業を立ち上げた。

 「熱旋風式シュリンク装置の開発中、市場調査としてさまざまな業界の企業を回りました。ちょうど当時、NHKで『プロジェクトX』が放映されており、優れた商品やサービスの開発ストーリーなど“技術の市場化”をお手伝いしようと考えたのです。ある上場企業にこの話を持ちかけたところ、大手広告代理店から出てきた同様の制作見積もりが驚くような金額でした。その時、ものづくりの良さを伝える独自のメディアを立ち上げ、現実的なコストで提供していくことができれば、当社でも十分勝負ができると考えました」。

 熱旋風式シュリンク装置などを設計・製造する「テクノロジー事業」と映像などによるプロモーション支援を行う「ソリューション事業」と、一見脈略のない二本柱のように思えるが、「社名を日本テクノロジーソリューションとしたように、この二つを分けて考えるつもりはありません」。製品のパッケージもまたプロモーションであり、ソリューションだという考えだ。

次代に向けてAI の搭載やバーチャル展示会の開催も


 かつて開発・製造した装置の価格がたった3ヶ月で3分の1まで引き下げられた時に、自社で価格をコントロールできる企業になろうと決意し、自社製品のブランディングを図ってきた。「自社ブランド製品は必ずオリジナルなものでなくてはなりません。私は熱旋風式シュリンク装置の開発中、他社製品を一度も見ませんでした」。さらに、社名を変えて新規事業を立ち上げたことは、自社のブランディングを図ったとも言えそうだが、それについては「下請けからの脱却を決断した時に経営理念を定めましたが、マインドアイデンティティやビジュアルアイデンティティに取り組んだところで、社員の行動が変わらなければ意味がないんです。当社では社員の日々の意識改革・行動変容も同時にやってきました」。

 2018年、眼前に海の広がる神戸ポートアイランドにガラス張りの新社屋を建設し、本社を移転させた。しかし、昨今の在宅勤務を余儀なくされるなか、岡田社長は会社が丸ごと “フリーアドレス”でいいじゃないかと考えた。

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自社の価値を創る ブランディング| 日本テクノロジーソリューション株式会社
神戸本社内オフィス
「健康経営宣言」を行っている同社では、勤務中にも健康づくりのできる工夫が随所に施されている。

 神戸本社と東京、福岡、台湾それぞれのオフィスの境を取り払い、バーチャルオフィスで社員が一つのフロアで隣り合って業務に就いている。会議室はそのメンバーだけで会話を共有するが、オフィス内では誰もが自由に声を掛け合うことができる。神戸本社に在籍しながら、台湾や福岡で在宅勤務している社員もいる。まるで今流行りのロールプレイングゲームのようだが、これと同じ考えで、今後はオンラインでバーチャル展示会を主催する計画だ。リアルな展示場と同じ感覚で、来場者は出展企業を巡ることができる。

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バーチャル展示会
技術や製品を訴求する映像などを組み合わせて、出展企業の魅力を余すところなくアピールできるよう工夫されている。

 また、発売20周年を迎えた熱旋風式シュリンク装置TORNADOは、AIを搭載して自ら学び成長する新機種を発売予定だ。包装から出荷までを請け負うレンタル工場の構想もある。

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 岡田社長が掲げる「優れた技術を優れたビジネスに」というコンセプトのもと、日本テクノロジーソリューションはまだまだ進化を続けていく。

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