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今を見据え、次代に活かす| 株式会社中農製作所

特集
企業の持続的発展の鍵を握る高度外国人材の活用

1949 年にミシン部品の製造で創業した株式会社中農製作所。
高付加価値なものづくりを追求して、今日では半導体の製造装置や産業用ロボットの金属部品など高精度の機械加工を得意としている。また、新規事業として部品洗浄機など自社製品の開発にも注力しているところだ。
高度外国人材の活用については15 年の実績を持ち、すでに海外の現地法人の代表や日本の製造現場の責任者として同社の中核を担う存在に成長している。
「もはや日本人も外国人もない。中農スピリッツをしっかり継承してくれる人材が当社の成長に不可欠」と西島大輔社長は語っている。

「公明正大・公平無私」なフィロソフィ経営で強さを発揮

今を見据え、次代に活かす| 株式会社中農製作所
取締役社長
西島 大輔 氏
1979年生まれ。大阪府出身。1998年株式会社中農製作所入社。2013年取締役社長就任。2017年ベトナム現地法人社長就任。

今を見据え、次代に活かす| 株式会社中農製作所
所在地  大阪府東大阪市新町21-26
     TEL072-981-0969
設立   1957年4月
従業員数 74名
資本金  2,500万円
事業内容 各種産業機械の部品製造及び組立、小型部品洗浄機の製造・販売
U R L   https://www.nakanos-s.co.jp

少量多品種生産に向け高度外国人材を活用

 「現在、売上の90 〜95%を占める金属の部品加工の中で最も多いのは半導体の製造装置の部品で、次いで自動車部品です。当社では価格競争に陥ることなく利益を確保するため、付加価値の提供に注力し精密切削加工など独自の高度な技術を訴求してきました。例えば、お客様から難しい課題をいただいた場合も、まずはチャレンジさせていただきます。そうして技術力を高めてきたものづくり企業です」と西島大輔社長。かつて自動車部品が売上の大半を占めていた時代に、大きな経営課題になったのが、24時間の生産体制に対応できる人材の確保だった。まずベトナムから技能実習生を受け入れたのが、同社とベトナムの長い付き合いの始まりだ。

 「ベトナム人は仕事熱心で向上心も高いということをこの時に知りました。労働集約型から少量多品種のより高付加価値なものづくりへシフトしようとした際に、3年という制限のある技能実習生では、高度な技術の習得は難しいと考え、2009年に初めてベトナムから4名の高度外国人材を迎えることになりました」。

 ところが、高度外国人材の受け入れを決めた途端にリーマンショックが襲ってきた。

能力も向上心も非常に高いベトナム人社員に大きな期待

 「採用を撤回できないかと思うタイミングでした。自動車関連の売上は3分の1まで落ち込み、昇給も賞与もなしという入社早々の苦難を日本人社員と一緒に乗り越えてくれたのが、結果的に社内の絆を強めることになりました」。

 現在では、78名の従業員の中でベトナム人社員は26名、内訳は高度外国人材が18名、特定技能外国人が3名、技能実習生が5名だ。

 高度外国人材について西島社長は語る。「当初は言葉の壁もあり、また監理団体を介して派遣される技能実習生と違い、一般社員の採用と同じですから、生活のサポートにどこまで関わるべきかなど、戸惑うことが多かったですね。

 例えば、日本人と違って道理を通したがるので、初めて迎えた4名の高度外国人材の一人をリーダーにしたときや、給与に違いが出た時には、その理由や根拠を追及されました。彼らは仲間であるとともにライバルでもあります。いつかベトナムに帰国した時に、少しでも報酬の高い仕事に就けるよう生産現場でも競って最先端技術を習得しようと、とても勉強熱心です。気がついたら、人事考課で高評価の1位から5位までがベトナム人社員だったりします(笑)」。

 その能力や向上心の高さを評価する一方で、課題も生まれた。彼らの働きに対する正当な評価としてポストを与えようにも与えるポストが不足していた。

ベトナム人社員たちの提案で現地法人の設立へ

 「高度外国人材の在留資格の制約があるため、生産部門以外に配属できないんです。当社ではむしろ、生産現場にいた日本人社員を間接部門に配置したりしています。また、役職がついてなくても課長職より高い給与を支払うケースも出てきています。

 今後は当社独自の人事評価制度を整備しなくてはと考えています。というのも、ベトナム人材はジョブホッピングが一般的で、当社で身につけた技術を持って他社に高い役職や給与で引き抜かれることもあるからです」。

 しかし一方で、現在の数倍の給与を提示されても転職しなかったベトナム人社員もいる。2017年に設立したベトナムの現地法人のナム社長もその一人だ。

 「ベトナムに進出するきっかけとなったのは、一泊研修で『当社の10年後をイメージしてSWOT分析してみよう』というテーマで議論したときに、ベトナム人社員のチームから『ベトナムに現地法人を作れば、中農製作所の将来に貢献する』という提案があったことです。 実際に現地法人を立ち上げることになったときには、現地の実情を見据えたマネジメントが重要だと、高度外国人材1期生だったナム社長とリー副社長に経営を任せました。もちろん彼らは技術者だったので経営については何も知りません。そこで、ベトナム進出に向
けての準備で各関係機関への説明には全てナム社長を同行させ、書類作りも手伝わせました。すると、ベトナム側で同じように説明するときには、私の通訳でなく、彼自身の言葉で中農製作所の経営理念や現地法人の使命、役割について語れるまでになったのです」。

 ベトナムでは、日本語が話せて日本の高度な技術を身につけ、さらにマネジメント力も備わっているため、好条件での引き抜きの話もあった。しかし、ナム社長は「お金ではなく、中農会長や西島社長と出会えた中農製作所でずっと働きたいから」と断っている。

企業の成長に貢献する人材育成は信頼づくりから

 ベトナムの現地法人設立について、同社はそれまでになかったビジネスモデルをつくり上げた。

 「中小企業が海外進出するときにネックになるのは『人材』と『資金』です。
当社は人材には恵まれていますが、資金については大きなリスクは冒せないため、すぐには生産設備を用意せず、まず駐在事務所を設けました。そこから現在の社長と副社長が複数のローカル企業を技術指導して日本品質の製品を製造させました。年商が1億円に達した3年後に現地法人を設立したので、同法人は初年度から黒字です。これはナム社長らが当社の高い品質水準とそれを実現する技術を熟知しているからこそ成し得たことです。彼のマネジメント力は素晴らしく、近々ダナンに新工場を設立する予定ですが、すでに人材の配置や手当も整っています。今では同じ経営者として信頼できるパートナーです」。

 同社が高度外国人材の活用に成功したのは、中農会長や西島社長ら経営陣が自ら真摯に彼らに向き合い、信頼関係を築いてきたことにある。経営方針発表会の時に必ず通訳を入れることもその一例だ。

 今後は部品洗浄機「洗浄小町」やマスキングゴム塗料剥離用洗浄機、魔法瓶メーカーと共同開発したマイボトル洗浄機といった自社製品の売上比率を高めていきたいと西島社長は語る。

 「会社の持続的な成長が経営者の一番の使命であり、そのためには『常に新しい技術やマーケットに挑戦する』中農スピリッツの浸透が重要です。人材の育成にもはや日本人も外国人もありません」。


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高難易度の加工技術を有しているだけでなく、顧客の新製品開発の設計段階から参画してVA/VEの提案も行っている。

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もともとは自社内で使用するために内製した水系小型部品洗浄機「洗浄小町」。ロボットと協働した自動化も実現している。

今を見据え、次代に活かす| 株式会社中農製作所
自動車の塗装工程で使用したマスキングゴムの塗料剥離用洗浄機。

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魔法瓶メーカーと共同開発した「マイボトル洗浄機」。大阪・関西万博の運営参加特別プログラム「Co-Design Challenge」にも選定されている。

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ベトナム現地法人のナム社長とリー副社長。日本企業に向け、ガイドブックを模した「視察完全攻略ガイドブック」を作成するなど、新規開拓にも余念がない。



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