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「親族外承継」という選択| 株式会社五星

 株式会社五星は香川県内最大手の総合建設コンサルタント企業として、四国一円はもちろん関西において、土木や建設のコンサルティング業務を主軸に、最近はAIや3 Dレーザースキャナー、ドローンなどの最新鋭機器を駆使し、迅速かつ精度の高い調査、測量、設計といった幅広いサービスを提供している。

 なかでも独自に開発した地理情報システムは、固定資産の評価や防災マップの作成、上下水道の管理などの行政業務に貢献し、官公庁など発注元から高い信頼を得ている。

支店運営の手腕が認められ、確実なステップを経て社長へ

「親族外承継」という選択| 株式会社五星
取締役会長
武内 和俊氏
1951年生まれ。香川県出身。1974年に株式会社五星に入社。1989年に企画開発部長、1993年に取締役総務部長を経て、2008年に代表取締役社長に就任。2020年に取締役会長に就任。

「親族外承継」という選択| 株式会社五星
代表取締役社長
今中 雅樹氏
1962年生まれ。奈良県出身。1996年に株式会社五星に入社。2011年に関西支社長、2016年に取締役(関西支社担当)、2018年に代表取締役専務を経て、2020年に代表取締役社長に就任。

「親族外承継」という選択| 株式会社五星
本社
所在地   香川県三豊市高瀬町下勝間670-1
      TEL 0875-72-4181   
設立    1965年1月
従業員数  151名
資本金   4,800万円
年商    19億円(’20/6期) 
事業内容  建設コンサルティング(土木・建築)、補償コンサルティング、地質調査、測量、空間情報コンサルティング
U R L   https://www.gosei.co.jp

創業家出身の3代目が早くから「親族外承継」を宣言

 2020年8月に武内和俊会長から経営を承継したばかりの今中雅樹社長。創業58年を迎える株式会社五星の5代目に当たる。同社では創業から3代目まで親族内承継を行っていたが、3代目社長だった浅野雄嗣相談役は、自らの社長就任時より親族内承継は自分を最後とすることを早々と宣言。そして4代目社長は、思いがけない経緯で決定された。2007年に赤字を計上した同社は、2008年に大手同業者の傘下に入り、その親会社から五星の生え抜きの取締役であった武内和俊会長が代表取締役社長に指名された。

 「5月に指名されて3ヶ月後の8月の就任でした。準備期間も少ないなかで、約12億円の個人保証を引き継ぐことも決断しました。家族の反対はありませんでしたが、製造業を営む父を見て、経営というものを知っていたからこそできた覚悟かと思います」(武内会長)。

 社長就任後、武内会長が最優先に財務の改善に取り組むなか、親会社との間では取り交わした資本業務提携書の内容が守られないなど大きな齟齬が表面化。提携からわずか2年で親会社から離脱し、親会社が持っていた株式を金融機関から資金を借り入れて買い戻した。離脱したことについては「あの状況下では社員も幸せになれないと考えましたし、財務状況も上向き始めていたので試算を重ねた結果の大きな決断でした」(武内会長)。やがて財務基盤が整えられていくうちに頭をもたげてきたのが、次の経営承継のことだった。

役員・社員の持株会を組成、社内で承継する仕組みに

 「経営者の仕事としては、財務基盤の改善よりこの経営承継のほうが難しい問題でしたね。まずは引き継いだ個人保証が今後内部承継する際には大きな障壁となると考え、個人保証を軽減するために財務基盤の強化に取り組みました」(武内会長)。

 資本政策については、金融機関などに相談したが、そこで提案された経営承継のためだけの持株会社の設立には違和感があったという。そこで資本政策に精通した税理士からのアドバイスに従って持株会を組成し、退職する際には社内で次世代に引き継がれる仕組みを作った。「さらには投資育成会社からの出資を受け株主として参画してもらうことで、経営の安定を図ることにしました。これは投資育成会社からのまさに直球ど真ん中の提案で、もっと早く投資育成会社を知っていればと思いましたね」(武内会長)。

 最大の懸案事項だった株式の承継も一応の解決をみたタイミングで役員に一人欠員ができ、いよいよ本腰を入れて、具体的な後継者について考え始めたのが2016年頃のこと。

 「私は社長候補として、当社で10年間、営業成績がトップで関西支社長の今中に目をつけていました。関西支社の業績が低迷した時にも強い気持ちで臨んでいたのを見ており、順調な時だけでなく苦悩の中にあっても屈しない彼が適任ではないかと考えたのです。ただ、関西支社勤務の彼を香川本社に引っ張ってこられるのかわかりませんでした。相談役にも背中を押してもらい、まずは平取締役として来ないかと打診したのです」(武内会長)。

承継される側の不安を取り除き、全面的にバックアップ


 その時のことを振り返って、今中社長は「ただ驚きました。というのも、当社は香川県の企業ですので、関西採用の人間は昇進してもこのあたりまでという暗黙の了解があったのです。当時社長だった武内会長から『急な話なので、ひと晩考えてみて』と言われ、妻にも相談しましたが、心は決まっていましたね。お引き受けしようと」と語っている。

 そこからの4年間、武内会長から今中社長への確実な経営継承に向けての準備が始まった。それは今中社長の言葉を借りれば「しっかり耐震設計のされたレールを敷いてもらったようなもの」だったとか。今中取締役(当時)が社長に就任する際に障壁となると考えられた古参の幹部社員の問題は、武内会長が社長でいる間に責任を持って解決し、今中社長が最も不安を感じていた本社での人脈づくりをサポートしている。また、社外の勉強会には「そこで知り合う経営者仲間が将来の財産になるから」と積極的に送り出してもらい、実際に今、今中社長の信頼できる社外の人脈となっているという。

アットホームな社風は変えず、しっかり数字の残せる企業へ

 そして3年前、当時代表取締役会長だった浅野相談役が代表権を返上し、今中取締役が代表取締役専務へ昇格した。また、浅野相談役が持っていた株式を今中社長ともう一人の取締役が徐々に買い取るなどで移動を進めた。

 「代表権のある専務へ昇格させたことで次期社長への覚悟を促したつもりでした。株式を所有し、個人保証も引き継ぐことが力になると伝えました。そして、当社の次代を担う幹部社員たちとともに中期経営計画を作らせたり、月1回の経営会議にも私の代わりに今中に出席させたりしました。県内の同業者の中でも認められる存在になるよう、私が4年間会長を務めていた(一社)香川県測量設計業協会の集まりにも出席させてきたのです」(武内会
長)。

 今中専務(当時)の社長就任に向け、社内外でコンセンサスを図るためにさまざまな配慮がなされたのは、武内会長自身が社長就任までわずか3ヶ月しかなかった体験によるものなのだろう。親族外では二人目となる今中社長への承継はこうして丁寧なプロセスを経て円滑に行われた。

「親族外承継」という選択| 株式会社五星

 今後の舵取りについて今中社長は「社員を家族のように大切に思う創業者からのDNAはそのまま継承していきたい。一方で、財務については武内会長によってずいぶん改善されましたが、今後も数字はしっかりと毎日目を配っていきたいと考えています。経営とは、しっかり結果を残すことだと思います」と語っている。

武内会長に聞く親族外承継成功のツボ

「提案を吟味し、自社にベストな資本政策を選択」






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