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「親族外承継」という選択|パワーズ株式会社

 パワーズ株式会社は災害時や事故、工事などによって電力供給に不具合が発生した場合においても、安定・安全な電力を確保することが求められる企業や官公庁などに向け、コンピュータ用「保安用自家発電装置」や、定電圧・定周波の安定した電力を供給できる「無停電電源装置」をメンテナンスまで含めたワンストップサービスで提供している。

 特に非常に高品質な電力を必要とする金融機関へは、大きな信頼を得て豊富な納入実績を誇っている。

人を育て、仕組みを整え、親族外承継で企業の永続を図る

「親族外承継」という選択|パワーズ株式会社
監査役
森西 良俊氏
1934年生まれ。鳥取県出身。1976年に大阪パワーズを創業。1977年にパワーズ株式会社を設立、代表取締役社長に就任。2002年に相談役に就任。2011年に取締役に復帰。2018年に監査役に就任。

「親族外承継」という選択|パワーズ株式会社
代表取締役社長
藤井 幹太氏
1967年生まれ。愛知県出身。2003年にパワーズ株式会社に入社。2004年に取締役営業技術部長を経て、2008年に代表取締役社長に就任。

所在地    大阪市西区京町堀1-10-8
       TEL 06-6448-2531
設立     1977年3月
従業員数   23名
資本金    4,750万円
年商     5億円(’20/3期) 
事業内容   コンピュータ用自家発電装置の販売およびメンテナンス
U R L    http://www.powers-inc.co.jp

「親族外承継」という選択|パワーズ株式会社
CVCF自家用発電装置

金融機関のオンライン化の動きを見据えて起業

 かつて事務機器販売会社に勤めていた森西良俊監査役(創業者)が、同僚だった伊藤征四郎氏と金融機関のオンライン化の動きを見据えて、1976年にコンピュータ用発電装置の販売事業を創業。翌年にパワーズ株式会社を設立した。

 その当時から二人の間で固く約束していたことは、決して同族会社にしないことだった。というのは、前の勤務先で同族会社の弊害を目の当たりにしていたからだった。

 「優良な同族会社はたくさんありますが、私が勤めていた会社では、経営陣が社員との信頼関係を築けず、経営内容も不透明でした。すると将来に期待が持てずに、有能な社員から辞めていくんです。私が退職した何年後かに、その会社は潰れましたね」(森西監査役)。

 創業した当初は、金融機関のオンラインシステムへの移行もまだ始まったばかりで、まずは保安用電源システムの重要性や必要性を周知させるのに苦労が続いた。販路が徐々に拡大するまでに10年かかったという。

 「主な得意先様が金融機関であるうえに、製品の耐用年数も25年と長期にわたるため会社を永続させることは使命であり、責務だと考えています」と語る森西監査役が具体的に経営承継について考え始めたのは、経営が安定してきた第15期(1992年)あたりからだった。しかし、社内から経営陣を抜擢して、2002年に代表を交代したもののうまく機能せず、苦悩する森西監査役の目に留まったのが、パワーズの取扱い製品を納入していた大手電気機器メーカーの社員である藤井幹太氏だった。

後継者に求めたのは、忍耐強く勉強熱心であること

 森西監査役が「懇請して来てもらった」という藤井社長は「当時は名古屋で伊藤さんと親しくさせてもらっており、その人柄に人間的な魅力を感じていました。さらに、中小企業ながらハードルの高い金融機関の多くと取引をしていることに将来性を感じていたので、誘われた時に断ろうと思いませんでした」と話す。

 家族の反対は全くなかったものの、元同僚たちからは反対の声も聞かれた。それに背いてパワーズに入社したもう一つの理由は「経営に携わることに興味があったんです。しかし、前の勤務先のような大企業ではなかなかその機会もないでしょう。入社後、将来は経営幹部にという話をもらった時に決断したのは、経営の師であると同時に父親のようだった創業者2人の存在も大きかったですね」(藤井社長)。

 森西監査役が後継者に求めた条件は「まず、長寿命の製品を扱う当社において、お客様と長くお付き合いする必要があり、“忍耐強く努力する人”であること。2つ目は専門性の高い製品をお客様に提案するための資料が必要で“探究心を持って学ぶことのできる人”であること。さらに代表者だからこそ“我欲を捨て、強く自制できる人”であることです」。

 森西監査役の期待を受けて、藤井社長が代表取締役社長に就任したのは2008年のことだった。

経営の安定を図るとともに、信用力も高めた資本政策

 藤井社長へ経営を交代するとともに、森西監査役は同社の組織作りや資本政策を本格化させた。まず、経営陣を強化し、規定の整備にも着手している。「創業者の2人が退任するにあたって、退職金の制度から整えなければなりませんでした。伊藤と私は同じ会社に育てられたので、文書にしなくても同じような価値基準で会社を運営してこられましたが、今後は賃金規定などの基準も明文化する必要があると考えたのです」(森西監査役)。そして、内部留保を優先させたうえで、不良債権を整理した。

 経営承継については、そのプロセスで会計事務所と投資育成会社から大きな支援が得られたことがスムーズに承継できた最大の要因だったと森西監査役は振り返る。「特に投資育成会社からの提案で、役員と社員の持株会を作って株式を譲り渡す受け皿ができたことや投資育成会社からの出資を受けて経営権の安定が図れたことなど、具体的な仕組みづくりをきめ細かく指導してもらえたことは大変ありがたかった」(森西監査役)。

 藤井社長も「経営に関するさまざまなアドバイスをしてもらえることも心強いです。そしてパワーズとしては、投資育成会社からの出資により経営が安定しました。そして、何よりも投資育成会社は金融機関によく知られた存在で、出資を受けたことで信用力が格段に向上し、新たな得意先の開拓につながり経営基盤が強化されました」と語っている。

タイプの違う2人の創業者から学んだ経営術を活かして次代へ

 今後の経営承継についても、「創業時から貫いてきた親族外承継の方針は変えない」と藤井社長。「親族がいないことで、役員会でもそれぞれの役員が遠慮することなく自由に議論できることがとても良かった」と語っており、森西監査役も「経営陣と社員が能力とモチベーションを存分に発揮できる環境が整っており、有能な人材が将来に失望して辞めてしまうことがない」と親族外承継の利点を挙げている。

「親族外承継」という選択|パワーズ株式会社

 まずは走れ、走ってから軌道修正すればよいという情熱型の森西監査役と、石橋を叩いた上に鉄板を敷いて渡るという慎重派の伊藤氏のそれぞれから、経営について学んできたと語る藤井社長。社長就任以来、役員会議の内容を細かに書き留め続けたノートは最近、最後のページを終えたという。今後は日本全国でますますサービス網を拡大するつもりだ。「充実した営業活動を展開して、当社の技術を提供していきたい」と抱負を語った。

森西監査役に聞く 親族外承継成功のツボ

「後継者にふさわしい人材を見極め、自ら『育てる』」






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