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「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所

 1995年に創業した当初は製造設備を持たずに製品の最終検査を行っていたという株式会社ダイコー製作所。より付加価値の高い事業への転換を図り、現在は自動車部品などのダイカスト製品の後工程を仕上げ処理から品質検査まで一貫して請け負っている。月産10 万個という大量生産体制の中で全数検査に対応できるのが強みで、今日では、最新鋭の5軸マシニングセンタ2台を備えて、より高い精度を要求される航空機や半導体、医療関連といった分野にも注力。
 今後はロボットの導入による自動化生産を目指している。

将来の自動化を見据えて、自社独自の「IoTシステム」を構築


「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所
代表取締役社長
沢井 弘志氏
1971年生まれ。大阪府出身。1995年に23歳で個人創業、2006年に株式会社ダイコー製作所を設立、代表取締役社長に就任。

「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所
平野工場

所在地   大阪府東大阪市寺前町2-6-15
      TEL 06-6727-5486
設立    2006年6月
従業員数  92名
資本金   2,500万円
年商    5億円(’21/5期) 
事業内容  アルミダイカスト製品の後加工
U R L   https://www.daikoseisakusho.com

「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所
ダイコーモニタリングシステム
製造機械の三色積層信号灯に取り付けられたIoTセンサーによって、稼働状況のデジタルデータを取得。Webアプリケーションを通して、スマートフォンなどで簡単に確認できる。

作業者が手書きで記入していた、出来高管理表

 ダイコー製作所では、得意先から求められている生産管理や生産履歴の追跡を、機械の横に吊るした「出来高管理表」に長い間手書きで記入していた。朝一番に管理者が3つの工場を巡り、その数字を転記していた。不明な点があれば、その場で作業者に確認を行い、そして転記してきた数字は、あらためてパソコンに入力し直していた。

 「これらの作業が生産性の低いことだとわかっていましたが、製造業の生産システムを外注すると多額のコストがかかるうえに、それが当社の使い勝手に合ったものかわかりません。社内でうまく使いこなせるかどうかわからないものに数千万円という費用をかけるのに躊躇していました」(沢井社長)。しかし一方で、人でなければできない仕事に社員がシフトできるように、こうした生産性の低い作業はデジタル化すべきだとも考えていた。それが昨年、IoTに着手した理由だ。そのきっかけは思いがけないことから始まった。

「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所
ダイコーモニタリングシステムを開発した沢井宇宙氏と沢井社長

 「当時大学2回生だった長男が遊びでゲームソフトをプログラミングしているというので、それなら当社の生産システムも作ってくれという話をしたんです。生産性の向上という自分たちの目的のために必要な機能を満たすシステムは、自分たちで考えて作るのが一番です。しかし、中小企業がデジタル化になかなか取り組めない一つの理由は、社内にIT専任の社員を抱えることが難しいことです。社員ではありませんが、長男ならこちらの意図を伝えやすいと考え、IoTに取り組むことにしました」(沢井社長)

機械のパトライトの信号を利用
稼働状況や生産高をデータ化


 同社が新たに構築した生産管理システムは、各機械に最初から備えられているパトライトを利用したもので、「稼働中」「停止」「エラー」を示すために発せられる電気信号を読み取り、クラウドに上げてデータ化して「出来高管理表」にカウントするアプリケーションをオリジナルに開発したものだ。各機械の2時間ごとの生産高とともに、目標数値に対する達成率もリアルタイムに表示される。

 現在はそれを管理者だけが閲覧できるようになっているが、近いうちにその数値をわかりやすいグラフなどにビジュアル化し、現場管理者をはじめ、作業者全員が見ることができるよう、現場に大きなモニターで掲げる予定だ。

 「全ての機械の稼働率がわかるうえに、同じ時間を稼働させても理論値に達成しているラインがどれで、達成していないラインがどれかが一見してわかるようになりました。単純に生産高を追うことは危険ですが、なぜ稼働していなかったのか、目標数値を達成できなかったのかの原因をいち早く突き止められます。例えば、深夜の作業で折れた刃を取り替えられずに機械を停めていたとなれば、あらかじめ備えておくこともできますし、各機械のタクトタイムを認識することにもなりました。現在、当社では2交代勤務ですが、生産効率を高めるためには3交代の方がいいのではないかという生産体制の見直しにもつながっていきます。今後は、各自工夫をして生産効率を上げることが報酬にも反映される仕組みを作ることができればなと考えています」(沢井社長)。

 実際、同システムを昨年の夏に稼働させてから、機械の停止時間が減り、生産性が2割ほど向上している。1週間あたり1日分の生産量を稼いでいることになり、「これまで休日出勤をすることがありましたが、生産性が上がればその必要もなくなり、働き方改革にもつながると思います」と語っている。

ものづくりに必要なシステムは
現場をよく理解することから


 「IoTシステム」を自分のものとして使いこなすためには、自社開発するのがベストというのが沢井社長の考えだが、それはものづくりを理解している必要があるからだ。今回の生産システムの開発に携わった沢井宇宙氏も「最も苦労したのは、私が製造現場のことを知らなかったことでした」と語っている。

「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所

 東京の大学に在学中の宇宙氏は最初、東京でシステムを試作したが、使い物にならないと沢井社長からやり直しを命じられた。作り直す際には毎日のように現場に入り、時には技術者に話を聞きながら解決していった。現在はさらに精度を高めるために、現場で実際に使用しながら検証し、ブラッシュアップを重ねているところだ。「コストを気にせず、それが可能なのも自社開発ゆえです」(沢井社長)。

 この「IoTシステム」を立ち上げたことでノウハウとスキルを獲得した宇宙氏は、社会の困りごとをITで解決することを目指し、今年2月に新たに企業を立ち上げた。沢井社長も「製造業に必要なアプリケーションは、基本は同じ。それをパッケージ化したうえで、さらに個々の企業の実情に応じてカスタマイズする柔軟なサービスを提供してもらい、当社でも販売に力を入れていきたい」と今後の期待を語る。

ロボットによる自動化で
夢と誇りの持てるものづくりへ


 「デジタル化」のメリットを実感する一方で、沢井社長は留意点について「紙に書かれたものは泥棒に入られない限り流出することはありませんが、クラウドに上げたデータはどこの誰に盗まれるかわからないというリスクがあります。セキュリティをしっかりと考えなければ」と指摘する。

「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所
5軸マシニングセンタなどの最新設備により、複雑な形状の製品も加工時間の短縮や低工数化を実現している。

「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 株式会社ダイコー製作所
自動車や航空機など高精度な加工を得意とする

 さらに、ダイコー製作所では今後、ロボットによる自動化を進めて行く方針だ。IoTを導入したのと理由は同じで「人にはアイデア出しや企画、開発といった、人にしかできない価値ある仕事をしてもらいたいからです」(沢井社長)。ロボットのそばには操作責任者しか立ち入ることができないため、自動化には今回の出来高を自動的にカウントする「IoTシステム」が必要だが、システム開発の目途も立ち、自動化計画が現実的になってきたところだ。もちろん、自動化ラインを組み立てるのも、やはり自社で行うつもりだ。

 「外部のシステム会社に委託したら、専用機のようなラインになり、その仕事が終了したら他に転用が効かなかったという話も聞きます。ロボットの導入においても、自分たちで考え工夫することが重要です」(沢井社長)。

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ベテラン技術者による教育風景

 また、自動化にあたっては製造ロボットだけでなく、ライン間を自由に移動できる無人搬送車(AGV)の導入も考えている。最後に沢井社長は「当社の社員の平均年齢は32〜33歳と若い。自分たちの仕事にもっと夢や誇りが持てるように、新しいことへのチャレンジなど未来への投資も行っていきたいと考えています」と語る。





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