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「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 東海バネ工業株式会社

 1934年の創業当初から金属バネの製造を行ってきた東海バネ工業株式会社。1944年に法人を設立した時に「競争をしない」という道を選び、競合他社が敬遠する1個、2個という数の個別生産に応じてきた。それが今日の「オーダーメイド特化型多品種微量生産」というビジネスモデルにつながっている。エネルギー、精密機械、環境、航空・宇宙などの幅広い領域・業界に顧客を持ち、単品の金属バネならどのような特殊なものでも、たった1個のオーダーから応じる代わりに適正な価格で販売する。値引き競争に巻き込まれることのない独自のスタイルを貫いている企業だ。

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バネのことなら全てに応える
「デジタル化」はその目的のための手段


「デジタル化」で今こそ事業の変革を| 東海バネ工業株式会社
代表取締役社長
夏目 直一氏
1960年生まれ。大阪府出身。1989年東海バネ工業入社。 1999年取締役、2003年常務取締役を経て、 2018年に代表取締役社長に就任。

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本社事務所

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豊岡神美台工場全景

所在地   大阪市西区西本町2-3-10
      TEL 06-6541-3591
設立    1944年3月
従業員数  86名
資本金   9,644万円
年商    18億円(’20/12期) 
事業内容  各種金属ばねの製造
U R L    www.tokaibane.com


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高度経済成長期に中量生産に対応できる近代的な設備を導入したことがあったが、高付加価値なものづくりに徹しようとそれらを全て処分した。職人たちの高度な技による手作りを強みとしている。

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材料線径0.1mmから90mmまで幅広いサイズのコイルバネを製造する。世界に1台しかないとされる大型熱間コイリングマシンも備えている。単品微量生産が中心のため、板バネの曲げ成形加工などは全て職人の手によるもの。

安く作るためでなく、高く売るためのコンピュータ

 東海バネ工業では、「デジタル化」について、DXどころかITという言葉もなかった1970年代からコンピュータを導入してきた歴史がある。当時のコンピュータはほとんど効率化、合理化を目的としたものだが、その当時から「オーダーメイド特化型多品種微量生産」を貫いていた同社では、先代社長の渡辺良機顧問が、適正な価格での販売実現に向けて、安く作ることよりも高く売るためのコンピュータの使い方を模索し始めた。そうしたなかで出会ったのが、ある個人経営の酒屋だったという。

 「その酒屋さんは顧客情報をデータベース化し、それぞれの顧客が欲しくなるタイミングで商品を届けるといった営業にデータを活用したことで、繁盛
店のさらに3倍の売上を上げていました。オーナーの『うちは酒や醤油を買ってもらっているのではなく、システムを買ってもらっている』という言葉に、これだと先代社長は思ったようです」(夏目社長)。バネという製品ではなく、“いつ発注されても即座に対応し、納期も厳守する。しかも高品質で信頼でき、何年経ってもアフターサービスも万全”という仕組みで、高くても購入される価値を訴求していく。バネで困ったら東海バネ工業に言えばいいという体験、今でいう“コトづくり”の提供を目指した。

必要なシステムを自社開発
長年の経験値もデータベース化


 同社の「デジタル化」は当初から他人任せにはしていない。「自分たちが必要な機能は自分たちが一番よく知っています。システムを作る時は、生産現場や営業など全部署からメンバーを参加させたプロジェクトチームで作ってきました。自分たちが関与して作り上げた仕組みだから、積極的に活用します。現場に根付かせてこそ仕組みに魂が入るんです」(夏目社長)。

 そうした同社の「デジタル化」を一層進めたのは、1995年に発売されたウインドウズだ。誰もがコンピュータを扱えるようになると、さまざまな可能性を自分たちで考えるようになった。まず、管理職に1台ずつパソコンが支給され電子メールを使ってみると、情報伝達速度が格段に速くなったことに驚いた。

 ウインドウズで動くCADも普及し始め、かねてから技術者の高齢化が課題になっていたなかで、彼らが長年に亘って蓄積してきた経験値をデジタル化しようと、1996年には設計支援システム「アンクル」を開発した。過去のあらゆる設計図面をデータベース化し、自動で作図できるところはCADに任せて、人は考えたり新しい体験を得ることに注力するよう業務改善を図った。

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東海バネ工業の職人たちの技を次代に継承するための道場といえる「啓匠館」。

最高機密だった情報も全公開、新規顧客数が約8倍にも

 特殊な製品を扱うことの多い東海バネ工業では、材料も発注してから入荷するまで3ヶ月から1年かかるという。そこで、顧客からいつ何を発注されても対応できるよう、常時2,500種類ほどの材料を在庫管理している。「どのような材料の、どの寸法のものをどれだけ持っているかということは、長く当社の最高機密でした。それを含めてウエブサイトで全てを公開することを検討した時は社内でも大きな議論になりました」(夏目社長)。

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 それまで、どれだけ「デジタル化」を進めても、先述の酒屋のように売上が3倍になることはなかった。そもそも「究極のカウンターセールスを目指す」として、価格から商談に入るような新規開拓のための飛び込み営業を全くしていなかったため、顧客が増えるわけもなかった。しかし、平均受注ロットが5個という「オーダーメイド型多品種微量生産」を貫く同社の成長の鍵は、いかに顧客数を増やすかということにあった。

 2000年に大きな転機が訪れた。大手IT企業の元会長を講師とするIT塾に参加した時のこと。「全ての情報を公開しなさい。情報は発信するところに集まる。必ず新しい顧客が増えるはず」と助言された。そこでバネのことなら全てがわかるという辞書型のウエブサイトを制作した。同社が持つノウハウも全て公開したところ、まもなく新規顧客からの受注がうなぎのぼりに増え、今では登録顧客数が当時の約8倍になっている。昨年でいえば、新規顧客数は前年比約1割増で、この5年間で最高の新規顧客獲得数を記録した。

 2005年には、個々の顧客ごとに専用ページを用意し、顧客が仕様や設計条件など過去の発注情報をいつでも確認し、再発注できる簡単リピートオーダーシステム「リ・オ・ダ」を開発した。それによって、高い利便性から顧客の囲い込みにもつながっている。

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バネに対するどのような質問にも回答するウエブサイト。その舞台裏では技術者への確認作業など人海戦術を展開しているが、その誠実な姿勢への信頼から質問数の約25%が実際の受注につながっている。

AIなどの活用で世界から相談されるメーカーに

 今では社員全員に1台ずつパソコンが支給され、全社を挙げてデジタル化を推進中の同社だが、何もかもが円滑に進んだわけではない。同社の「デジタル化」を主導してきた渡辺秀治取締役は「バネ作りで高い技能を誇る職人たちは、デジタルへの関心が低かったのですが、彼らの関心を高められたのは職人全員から尊敬を集めていた技師長が、会社主催のパソコン教室に率先して参加してくれたことでした」と語る。社長をはじめ、トップ自らが先頭を切って取り組む姿を見せてこそ現場に浸透していくのだ。

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取締役 渡辺秀治氏

 さらに「デジタル化」で留意すべき点は、「システムを導入することを目的化してはいけないことです。システム化はあくまでもビジョンを達成するためのツールでしかないのですから」(渡辺取締役)。

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 特筆すべきは、こうした同社のシステムが全て、超アナログな「職人たちによる手作りバネ」というものづくりを支えるためにあることだ。現在では、職人たちの高度な技によって生み出されたバネは、スカイツリーの最頂部や、日本最大のHⅡ-Bロケットなどで活躍している。
 また、同社は2019年に海外向けウエブサイトを日本語版と同じ辞書型に作り変えた。「これで世界から覗いてもらえる『窓』ができました」(夏目社長)。今後は「世界から相談されるバネメーカーに」というビジョンを実現すべく、世界への「扉」を開く計画だ。そのために「距離」「言葉」「時間」という障壁のなかでまだ解決しない「時間(時差)」については、AIなどを活用して24時間365日、どこからの相談にも自動回答できるシステムを作りたいと抱負を語る。





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