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今を見据え、次代に活かす| Fbeiホールディングス株式会社
特集
「透明性の高い経営」が社内の情報共有を促し、社員の行動を変容する
1998年に、IBM 製サーバーのテクニカルサポートやソフトウエアの設計・開発を主な事業として有限会社福岡情報ビジネスセンターを創業した武藤元美社長。その以前には、20代で日本IBM株式会社との共同出資による合弁会社を立ち上げたこともあり、企業経営者として豊富な経験を誇る。その武藤社長が「透明性の高い経営」の重要性に気づいたのは、“経営の神様”と呼ばれた稲盛和夫氏の経営哲学(フィロソフィ)と出会ったことがきっかけだという。自社の経営に反映させた結果、同社は大きな成長を遂げた。武藤社長が説く「全従業員の物心両面の幸福を追求する“健全経営”」について話を伺った。
「公明正大・公平無私」なフィロソフィ経営で強さを発揮
Fbeiホールディングス株式会社
代表取締役社長
武藤 元美 氏
1961年生まれ。福岡県出身。エンジニアとしてシステム開発などに携わった後、1990年に日本IBMとの合弁会社の創立に関わる。1998年に福岡情報ビジネスセンターを創業。2019年にグループ企業3社を率いるFbeiホールディングス株式会社を設立。
所在地 福岡県福岡市博多区博多駅前3-26-29九勧博多ビル8階
TEL092-402-1311
設立 1998年7月
従業員数 グループ120名
資本金 5,000万円
年商 12 億円(’ 21/ 6 期)
事業内容 企業の基幹システム開発、AI・IoTシステム開発、クラウドサービスセンター事業、ITコンサルティング
U R L https://fbicenter.co.jp
さまざまなITを活用したソリューションを提供
ソフトウエアの設計や開発などからスタートしたFbeiホールディングスの事業会社である福岡情報ビジネスセンター。その後、クラウドサービスなど先進のテクノロジーをいち早く導入し、さまざまな経営課題の解決を支援するコンサルティングやシステム開発、AI・IoT事業などITソリューションを提供する企業へと進化してきた。
「これほどすごいテクノロジーを次々と発表できるのは、一体どういう教育をしているのか?」と、いろいろな企業が見学に訪れたということだが、武藤社長は「特別な教育はしていません。フィロソフィと企業会計を社員たちと共有しているだけです」と答える。
武藤社長が講演活動などで国内外を忙しく飛び回るなか、社員たちが会社を回しているという同社の経営が最初からこうだったわけではない。
「かつての私は、経営者に必要な胆力はあったけど、徳はなかった(笑)。ビジネスの世界は『勝てば官軍』だと思っていました」。その武藤社長が敗北感を味わうとともに、人の優しさにふれる出来事を経て変容したと語る。
「1998年に創業したのは、20代で立ち上げた合弁会社を辞めたあともずっと信頼してついてきてくれるフリーランスのエンジニアたちがいて、彼らの働ける場所をつくりたいというのがきっかけでした。しばらくは片手間だったのを、本格的に経営に乗り出したのが2006年。しかし、一件も仕事の取れない日々が続き、藁にもすがる思いで、かつての外注先に連絡しました。失礼な態度を取っていたこともあったのに、一生懸命に仕事を探して紹介してくれました。感涙ものでしたね。自分の鎧や煩悩がはがれ落ちた思いがしました。そんな自分の心が引き寄せるのか、それからは不思議といろいろなご縁を得るようになったんです」。
稲盛氏のフィロソフィに心酔し「公明正大」を武器とする企業へ
そうした縁の一つだったのだろうか、同じ頃に出会ったのが稲盛和夫氏のフィロソフィだった。
「佐賀で行われた講演会に行った後に、氏が塾長を務める盛和塾に入りました。稲盛氏のフィロソフィに心酔しましたね。そこで、当社でも社員と一緒にフィロソフィを作りました。心を高めれば、見えてくる景色が変わる。稲盛氏の言う通りです」。5年後、武藤社長のフィロソフィ経営が高く評価され、2011年に盛和塾で「稲盛経営者賞」を受賞したほか、盛和塾福岡の筆頭代表世話人に就任。2020年からはフィロソフィ経営実践塾の代表世話人を務めている。
同社がフィロソフィとして掲げる社是は「百術は一誠に如かず 至誠の感ずるところ 天地もこれが為に動く」であり、武藤社長は「自分たちの戦う武器は『公明正大』しかない。今、それを最大限に生かしている」という。
現在、同社では部門長が毎週月曜日に部門の週次決算を会議に報告し、翌日には武藤社長が各部門と全社の週次決算を全社員に発表し共有している。
「毎週のことなので各部門長は大変ですが、部門ごとの収益や今後の見通しなどをすべて、新入社員も含めた全員に公開しています。隠し事は一切なし。そもそも会計をオープンにしようと思ったのは、社員全員で経営してもらおうと考えたのがきっかけです。それには数字もすべてオープンにしないと。会社の業績は社員全員の業績、会社は社員とその家族、そして取引先のものという考えです。創業者というのは、たまたま会社を作るという役割を与えられただけだと思っています」。最近、研修に採り入れ始めたマネジメントゲームで入社2年目の女性社員が思いの外活躍しているのを見て、将来、新入社員から経営への積極的な意見が出てくることを期待しているそうだ。

今年4月に近畿大学で行われた特別講義。盛和塾で稲盛経営者賞を受賞した経歴を持つ武藤社長には、国内外から多くの講演依頼が寄せられる。
経営の透明化の前提としてまず社員との信頼関係が重要
経営の透明性を高めることの意義について、武藤社長はきっぱりと「会社が強くなります、引け目がないから」と言う。 「不透明だと、社員から疑いを抱かれる。信頼できない経営者のもとでは、100%のパフォーマンスが発揮できないでしょう。当社もさまざまなうねりを経ましたが、それを乗り越えて非常に透明な会社になったら、社員も透明な社員しか残らなくなりました」。
最近同社に実施された税務調査の際には、公正無私な会計に驚かれたとか。「100人足らずの中小企業で労使が対立するような関係はつらいと思いますね。当社では、社員が“共同経営者”として助けてくれます。それが当社の強みです」。
経営の透明化を図るには?という問いに「いきなりオープンにしても何か裏があるんじゃないかと不審がられるだけです。大切なのは、まず社員と信頼関係を築くことです。少人数の社員と、ご飯でも食べながら、会社について思うところを聞くことですね。最初は不平不満も出てきて不快だと思いますが、これによって社員も気持ちが整理できたと考えて反論などはしない。そこから社員の信頼が得られ始めると思います」。

FBI Power クラウドセンター

「サプライズが大好き」という武藤社長が自らDIYで内装を仕上げた本社内の休憩室。
コーチングによる行動目標制度と人事評価制度を新たに導入
同社では、新しい時代の新しい評価のあり方を考えようと、昨秋に人事評価制度と行動目標制度を大きく見直し、試行期間を経て、今年7月から運用している。
「きっかけは、コロナ禍で時間に余裕のできた時に4ヶ月間のコーチング研修を受講したことです。それまではブロードキャスト方式でティーチングし、同ランクの社員をひとまとめに評価していたわけですが、これからは一人ひとりが自ら立てた目標をどれだけ達成できたか、個別に評価しようということです。そのために年に6〜8回、1対1のミーティングも行っています。コーチングという手法こそ、経営に透明性がないと成功しませんね。この人に心の中を見せたくないと思われたら成立しませんから」。

自社の人事評価制度の見直しにあたって同社がサポートを受けたコンサルタント企業を新たなパートナーとして「人事評価制度構築支援サービス」も同社の事業メニューに加えた。 「中小企業の弱みであり、強みは“人”」と武藤社長。「どのように成長したいかは、自分でしか決められません。最大のモチベーションを引き出せたら、会社は間違いなく大きく変わりますよ」と語る。


今年4月に開設されたばかりの鳥栖オフィスのインテリアも、武藤社長が手がけた。