特集記事

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社

特集
「透明性の高い経営」が社内の情報共有を促し、社員の行動を変容する

澤田脩一会長が、1984年に1台の機械から創業したサワダ精密株式会社。現在は、切削や旋削などの金属加工技術を駆使して精密機械部品を受注生産しているほか、ものづくりの源流から携わりたいという創業時からの志を引き継ぎ、生産設備や治具、試作などの設計から製造、組立までを手がけている。同社では毎期、詳細な経営計画書を策定し、それを期首に社員や株主、取引銀行などに広く発表するなど透明性の高い経営を実践している。その狙いと意義について、澤田洋明社長に伺った。

会社の運営を自分事として考える自立した人材育成は経営の透明化から

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社
サワダ精密株式会社
代表取締役社長
澤田 洋明 氏
1977年生まれ。兵庫県出身。2004年にサワダ精密株式会社に入社。2009年取締役、2012年常務取締役を経て、2013年代表取締役社長に就任。

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社
本社
会社概要
所在地  兵庫県姫路市広畑区吾妻町1-39
      TEL079-239-2225
設立   1988年11月
従業員数 85名
資本金  4,250万円
年商   10億円(’ 21/10期)
事業内容 金属加工業(切削、旋削、研削、放電)、各種自動機、試験装置、検査装置の設計製作
U R L   http://www.swdpre.co.jp




社員の自立と成長のため見積り作成から納品までを担当

 「サワダ精密の強みは?」という問いに澤田社長は、同社が誇る高度な金属加工技術という強みとは別に、「カイゼン委員会」や「人財育成委員会」「5S委員会」といった社員たちの委員会活動を挙げた。

 「“これが目的”というものだけを共有し、何をどうするのかは委員会のメンバーが自分たちで考えます。それぞれの委員会に担当役員がついていますが、ミーティングに参加することはなく報告を受けるだけで、会社の課題を解決するための策を自分たちで考えて実行してもらっています。当社の強みはそこですね」。

 かつて同社は「代表取締役養成会社」を謳っていたという。社員一人ひとりがお客様と応対し、受けた案件の見積書を作成して、製造はもちろん納品までを一人の担当者が通して担う。

 澤田社長は社員の成長のためには、効率性ばかりを追い求めていない。「中小企業では、価格の決定権は経営者が握っていることが多いと思います。社員それぞれに値決めをさせると、価格の安定感や一貫性を失い、時には失敗もあります。ですが、失敗することで社員は確実に成長しますし、仕事に面白みを持ってくれます。私はそこに、会社の存在価値があると考えているんです」。こうした取り組みの中で育てられた人材が現在、同社の中核を成しているという。

 新型コロナウイルス感染症の影響を受けるまでは、「社員たちは会社の業績が好調なのを当たり前に思っているのでは?」と澤田社長が語ったように、売上も順調に伸ばしている。社員全員の経営者感覚が会社を成長させてきた。そして、そのためには経営の透明性を高めることが不可欠だった。

期首に経営計画発表会を開催し社員や株主に経営情報を公表

 同社では1997年から毎年期首に、社員をはじめ、取引銀行や株主も出席するなか、経営計画発表会を開催。全社的な方針や数値目標はもちろん、部門別の計画に至るまで詳細に策定された経営計画を発表している。今では経営計画を策定している中小企業は少なくないが、同社では早くから経営計画を社員に公開してきた歴史があった。

 「創業者である先代の考えが、私たち子どもの育て方もそうでしたが、『一人でできるようにならないと意味がない』というものです。社員に自立を求めるため、経営方針や経営目標、数値目標、経費予算をオープンにしてきたのです」。

 しかし一般的には、幹部クラスの社員でない限り、経営陣から示された経営計画の数字は、社員にとって“他人事”になりやすい。実際、そういう企業も少なくないだろう。同社では、日常的に自分たちで価格を決定しているほか、道具なども各自の裁量で購入しているため、自ずと経営上の数字が“自分事”になっているようだ。

 「消耗品や備品の購入などは、通常は経費削減のため、購買担当を決めて集中管理されることが多いと思いますが、当社では採算の感覚を養ってもらおうと、各自で考えて購入してもらっています。その方が仕事も面白いでしょう」。同社のこうしたユニークな取り組みは高く評価され、2003年の「ひょうご経営革新賞」をはじめ、2019年には「第37回優秀経営者顕彰」で日刊工業新聞社賞を受賞している。

経営計画の進捗は毎月振り返り状況を社員と共有

  期首に発表された計画は、毎年『経営指針書』として1冊の手帳にまとめられ全社員に配付されている。チームごとに毎月のやるべきことが明記されており、期首に立てた計画を忘れず日々の活動に生かせるようPDCA※を回しているのだ。そして、月末に締めた数字を役員たちが見直して、全社員に伝えられ共有される。毎月の報告を待たずとも、社員の誰もが手元のパソコンでリアルタイムに数値の動きを確認できるようにもなっている。そこに、「会社のお金を、自分の財布のように捉えてほしい」という狙いがあった。

 一方、澤田社長が現在、新たに取り組んでいるのが人事評価の透明性の向上だ。

 「外部から招いたコンサルタントとともに、人事評価システムを作っているところですが、難しいですね。コンサルタントの方からは点数制を提案されていますが、例えば、どれだけ技術が優れていても、挨拶がまともにできなければダメですし、点数に置き換えられないこともあると思っています。

 現在は、社員一人ひとりの目標管理シートがあり、それを基に上長が個人面談をしており、評価している点、また頑張ってほしいと思っている点を明確に伝えることを大事にしています。そうしたことを点数などで表せるものか、評価の見える化がこれからの課題です」。

自分で考え行動する社員の成長が企業の成長へとつながる

 現在、同社は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、材料費や燃料費の高騰という厳しい環境にある。このままでは今期の経営目標を達成できないのではという懸念を持ちながらも、澤田社長の社員への信頼は失われていないようだ。

 「経営計画を達成するためには課題が何なのか、それを解決するために自分たちがどう動くべきなのかを“みんなで”ではなく、“みんなが”考えようと取り組んでいます。私はそのプロセスがとても重要だと考えており、やるべきことをやったのかというところを評価したいと思います。その上で達成できなかった時は、最終的に経営計画書を認定した経営者である私の責任です。

 経営者にとって、業績が伸び悩んでいる時に、いかに士気を下げないかが課題です。当社ではこの厳しい状況をも共有し“自分事”として共に頑張ってもらうためにも、日頃から数字をオープンにしています」。

 実際、同社では、昼食を取っている間や朝礼の間に機械を遊ばせている社員は一人もいない。帰宅前にも加工の段取り・セッティングを済ませて、機械を動かしてから帰途に着く。社員たちが会社の運営を自分事として捉えているからに他ならない。透明性の高い経営が社員を成長させ、ひいては企業を成長させている好例がここにあった。

※PDCA:Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→Action(改善)の4段階を繰り返して業務を継続的に改善する方法。

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社 
精密な機械部品の金属加工を得意としている。

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社 
澤田社長が「工場を明るくしたい」と、通常は汚れが目立つために避けられる白の床を採用した工場内。ここでは、分業制ではなく、一人が段取りを考えるところから加工まで担う「サワダ流セル生産体制」を導入している

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社
2020年には、100%出資現地子会社をベトナムに設立。完成度の高い製品の生産を行うため検査までの工程を整えている。

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社 
年間休日を96日から120日に増加させるなど、「人を大切にする会社」へのさまざまな取り組みが評価され、2020年には「ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰」を授与されている。

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社
第34期経営計画発表会のようす。社長から経営計画が発表されたほか、チームごとに今期の目標などが発表された。

今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社  
夏場は制服が暑いと導入されたポロシャツ。社員たちの主体性を重視する経営からさまざまなアイデアが起用されている。





 今を見据え、次代に活かす| サワダ精密株式会社 



同じカテゴリー(ピックアップテーマ)の記事