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今を見据え、次代に活かす|タマノイ酢株式会社

特集
地元の人たちの夢を応援する「地域スポーツ支援」で新たな活力を生み出す

今から1600 年前の応仁天皇の時代に、堺で作られ始めた「和泉酢」をルーツとするタマノイ酢株式会社。豊臣秀吉の時代に酢の商標として用いていた「玉廼井」が、今日の社名の由来である。約130 年前の1893 年に開催されたシカゴ万国博覧会で名誉金牌賞を受賞した高品質のものづくりは、現在の幅広い製品づくりにも脈々と継承されている。また、同社では「社員、地域社会、消費者への安全と貢献」という経営理念のもと、さまざまな地域スポーツの支援にも取り組んできた。播野勤社長にそれらの活動への思いや意義などを伺った。


地域スポーツの支援という貢献活動にはトップが責任を持って直接の関わりを

今を見据え、次代に活かす|タマノイ酢株式会社
タマノイ酢株式会社
代表取締役社長
播野 勤氏
1953年生まれ。大阪府出身。1979年タマノイ酢株式会社に入社。1981年管理部長、1984年常務取締役、1987年専務取締役を経て、1991年代表取締役社長に就任。2019年あすか製薬株式会社社外取締役就任。


今を見据え、次代に活かす|タマノイ酢株式会社
所在地   大阪府堺市堺区車之町西1-1-32
       TEL 072-238-1021
設立    1907年6月
従業員数 250名
資本金   2億円
事業内容 醸造酢、粉末酢、各種調味料、レトルト食品および菓子・健康飲料などの製造・販売
U R L   https://www.tamanoi.co.jp


馴染みのなかった先進的商品の認知度向上が最初のきっかけ

 前身の大阪造酢合名会社の創立が1907年と古い歴史を誇るタマノイ酢株式会社。播野社長いわく「自由な社風の、自由な社員の発想から誕生した」という先進的な製品づくりにも取り組んできた企業である。例えば、世界で初めて酢の粉末化に成功した「すしのこ」を発売したのは1963年。昨今の健康ブームで今では一般的になったビネガードリンクも1996年に業界で初めて発売している。
 
 同社がスポーツ支援に取り組み始めたきっかけは、時代に先駆けすぎてまだまだ馴染みのなかった黒酢ドリンクの認知を高めるために、企業名を冠したプロゴルフのトーナメントを開催したことだった。
 
 「当時、黒酢は比較的年齢の高い方に愛用されていたので、年配の方に親しみあるスポーツということでゴルフトーナメントを3年連続で主催しました。やがて、酢の疲労回復効果から若い人たちにも黒酢ドリンクが飲まれていることがわかり、ラグビーやサッカーといったスポーツへの支援も始めたのです」。

 具体的には、2003年から始まった神戸製鋼コベルコスティーラーズ(現在のコベルコ神戸スティーラーズ)とのパートナーシップ契約をはじめ、最近のセレッソ大阪スポーツクラブとのパートナーシップ契約、セレッソ大阪堺レディースとオフィシャルスポンサー契約などが挙げられる。

 「セレッソ大阪堺レディースへの支援は、地元・堺のチームということが理由の一つです。さらに、『はちみつ黒酢ダイエット』が以前にスーパーで人気売れ筋の黒酢ドリンクランキングで1位になった時の調査で、期待する効果として『肌がツルツルする』『よく眠れる』『便通が良くなる』と、女性たちからの支持が大変高いことがわかったからです」。

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「飲むお酢」の火付け役となったビネガードリンク類や粉末中華調味料など、時代の先をいち早く読む商品開発を行ってきた。


食育パートナー契約で次世代の健全な発育を支援

 さらに同社では、マラソン大会のほか、全日本ドッジボール選手権大会にも協賛していた。校庭での遊びとして馴染み深いドッジボールが子どもたちだけでなく幅広い世代で楽しまれる競技として広がっているからだ。ドッジボール協会公式大会会場やドッジボールグッズの販売サイトで、「はちみつ黒酢ダイエット」のドッジボール限定パックを販売するなど、ドッジボール競技普及の一翼を担っていた。
 
 こうした協賛活動の一方で、最近注力しているのが、「食」という視点からのスポーツ支援だ。2014年にセレッソ大阪スポーツクラブと食育パートナー契約を結んだ同社では、管理栄養士の資格を持つ社員をセレッソ大阪スポーツクラブに派遣し、セレッソ大阪サッカースクールに参加している子どもたちやその指導者、保護者たちを対象に、栄養講習会を開催している。

 「結局、子どもの健康は親が担っている部分が多いので、保護者の方へのアプローチも大切にしています。栄養講習会では、酢が持つ効用だけに限らず、日々の食事の中での栄養管理などについてサポートしています」。 また、地元への貢献として、セレッソ大阪スポーツクラブとともに堺市内の小学校を社員の管理栄養士が巡回し、キャリア教育の一環として管理栄養士という職種についての紹介も行っている。

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セレッソ大阪スポーツクラブと堺市内の小学校を巡回するプログラムでは、子どもたちにキャリア教育として「管理栄養士」という職業について学んでもらっている。

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社員の個性や自由な発想を尊重しているほか、「フューチャー制度」の導入で、社員の中から医師や管理栄養士などの専門職を育てている。


支援先との間で目的を明確にし、トップ同士の信頼関係も大切に

 「まず、商品の販促を目的とした活動なのか、社会貢献として行っている活動なのかを支援先と一緒に明確にしておくことが重要です。お互いに思惑が違うとギクシャクしてしまいます。

 基本的に地域スポーツ支援というのは社会貢献の一環ですから、利益を追求するものではありません。だから、企業の余力の中で行うのは当然として、活動の責任はトップが担うべきだと考えています。資金を必要とすることであり、それなりのリスクも覚悟しなければならない。その決断を社員に求めるのは酷ですから。当社では、意志決定のプロセスを社長直轄にしています。

 また、かつて神戸製鋼さんから協賛のオファーがあった時にお受けした理由の一つが、お互いに関西本社の企業であり、トップ同士が直接話のできる関係にあったことです。私は支援を行う前提として、長いおつきあいを望んでいます。先方の環境や事情が変わることもあり、それが叶わないこともありますが、長く支援させていただこうと思うと、トップ同士の信頼関係が重要だと考えています」。

 実際、担当社員からも「トップ同士で確固たる関係ができていると、先方の担当者が変わっても、帰着点が揺るがないので大変ありがたい」という声が聞こえてくる。


社会への貢献活動が社内の活性化と社員の成長にも

 さまざまな社会貢献の中でも地域スポーツを支援する意義については「地域や消費者と直結しており、何より健康づくり、身体づくりが切り離せないスポーツは、私ども食品メーカーと親和性が高く、支援させていただきやすい世界です。

 経営者としては、地域スポーツの支援という社会貢献を良い組織づくりに活用できる点でも意味があると考えています。イベントなどで支援先の選手たちと交流する機会も作っており、モチベーションの向上にもつながっているようです。

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 また、当社は新卒者の人材育成に大変力を入れており、基本的には中途採用をしていません。そのために、外の文化に触れる機会が少ない。地域スポーツの支援を通じて外と交流することは、社内の活性化や社員の成長にもつながっていると考えています」。
採用においては、学生の「マラソン大会に出場した時に応援してくれた社員が素敵だったから」という応募動機もあった。

 「中小企業の経営者は、社員を養うために利益を出すことに神経を使う日々だと思いますが、余力ができたなら損益を考えずに地域スポーツを支援されるのも良いかもしれません。ぜひトップ自ら現場に足を運んでいただき、感動を感じてほしいですね」。

 大学時代から水球に打ち込み、今も運動を欠かさないという播野社長は「スポーツには心を動かされるものがあり、その場にいる人たちと感動を共感するだけでもすばらしい体験で、経営へのモチベーションにもつながっています」と語っている。

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本社社屋内にスポーツジムを備える同社では、業務時間内に30分の運動を義務付けており、遂行の有無を管理している。運動しなかった分は翌日に加算される仕組みとなっている。


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