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地域と生きる、地域に活かす|九州教具株式会社

戦後間もない1946年に、「本田文具店」として開業した九州教具株式会社。その後、コンピュータやコピー機などの事務機器販売から、ITソリューション全般に事業領域を拡大し、今日では、ホテル開発・運営から飲料水の製造・宅配など生活インフラまでを手がけるグループ企業に成長している。

長崎県の波佐見町から誘致され、町内初のホテル「ホテルブリスヴィラ波佐見」を開業したのは2015年。「これからはCSV(共通価値の創造)の時代」という船橋修一社長の考えのもと、まちづくりをビジネスにすることで持続的な地域への貢献を目指している。

社会的責任ではなく持続的な企業活動としてまちづくりに貢献

地域と生きる、地域に活かす|九州教具株式会社
九州教具株式会社
代表取締役社長
船橋 修一 氏
1959年生まれ。長崎県出身。1987年九州教具株式会社に入社。1996年専務取締役を経て、2005年代表取締役社長に就任。2021年分社化し九州教具グループの代表に就任。

所在地  長崎県大村市桜馬場1-214-2
      TEL 0957-53-1069
設立   1950年5月
従業員数 140名( グループ合計)
資本金  3,000万円
年商   30億円(’ 21/7期 グループ合計)
事業内容 オフィス関連ICT・家具・消耗品の卸売、飲料水の製造宅配、ビジネスホテル運営
U R L   https://q-bic.net

地域と生きる、地域に活かす|九州教具株式会社
本社

ITソリューションの実験場としてホテル事業へ進出

 船橋社長が入社した1986年頃は、事務用品やコピー用紙のほか、事務機器の販売が主な事業だったが、やがて「右から左へ商材を流して薄い利ざやを稼ぐビジネスは10 年も続かない。より付加価値の高いサービス業への転換を」と考え、九州教具では1996 年からビジネスホテルの経営に乗り出している。

地域と生きる、地域に活かす|九州教具株式会社


 「その頃、出張先でビジネスホテルに泊まっても室内に電源コンセントが少なく、携帯電話やノートパソコンの充電用に自前で三又コンセントプラグなどを用意したものです。当社のビジネスホテルはいわばITソリューションの実験場として作ったもので、どのようなITインフラがお客様の問題を解決するかを検証し、そこで得たノウハウを活かし、事務機販売も御用聞きから提案型営業へと転換しました」。

 全国に先駆けて、全館に光ファイバーを張り巡らし、宿泊客にインターネット回線を無償で提供するなどのサービスが好評で、同社のホテルはビジネス利用客の間で人気を集めた。

 ホテル運営が異業種ゆえに当初は苦労した集客も、高い手数料を支払う大手旅行代理店を通さずに自分たちで予約を取ろうと、インターネットが普及し始めた1999 年にホームページを開設した。そこで得たノウハウも顧客に提供するためソリューション事業のサービスメニューとした。

 そうして長崎市内で3軒の大型ビジネスホテルを運営していたところ、波佐見町から町内初のホテルを建ててほしいと誘致された。

CSRからCSVの時代へ町の宝となるホテルを

 もともと波佐見町にはソリューション事業の顧客も多く、町の実情もよく知っていたという船橋社長。佐賀県有田町に隣接し、かつては窯業が盛んだったが、約20年前に産地表示が厳格化されたことからブランドの峻別が進み、倒産する窯業メーカーも出て活気を失っていった。JRの駅もなく、人口15,000人ほどの町でホテルを開業することには、社内からも反対の声が挙がった。

 「“波佐見焼のブランド化”と“年間誘客数100万人”を目指す波佐見町の想いを受けて、かねてから共感していたマイケル・ポーターが提唱するCSV経営(共通価値の創造)を実践するチャンスと思いました。ボランティア的な要素の強いCSRは不景気になれば真っ先に削減されますが、危機的な状況もそれがニーズだと考えれば、まちづくりをビジネスと捉えるCSVはサスティナブルな企業活動です。ホテルが起爆剤となって町を活性化し、窯業が再び盛んになれば、ホテルもビジネスとして成立します」。

地域と生きる、地域に活かす|九州教具株式会社
ゆったりと広めに設計された「ホテルブリスヴィラ波佐見」の室内。

 最初は鉄筋コンクリート5階建の格安ホテルを想定していたが、町長から「町の宝となるものを作ってほしい」と言われ、波佐見町の国登録有形文化財「旧波佐見町立中央小学校講堂」を模してデザインした「ホテルブリスヴィラ波佐見」をオープンした。「ブリスヴィラ」とは深い心の喜びを感じさせる別荘を意味する。「ビジネス利用のお客様にも仕事の後にほっと過ごせる時間が必要」と、「しごとと湯とリゾート」をテーマに掲げて部屋は広めに設計し、ベッドにもこだわり全米ホテルNo.1の製品を導入した。また、すぐそばにある温泉施設とタイアップし、宿泊客は入浴し放題としている。

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無料で抹茶をふるまう「茶室ギャラリーKANZA」。ここでの宿泊客とのやりとりもまた貴重な情報だ。

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ビジネスホテルにリゾート感も備えた「ホテルブリスヴィラ波佐見」。最近は佐世保市などに商用のあるビジネス利用客も増えている。

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コロナ禍で注目される「ワーケーション」(ワークとバケーションを合わせた造語)にも対応したICTコーナー。

地方の時代に向けて先進のまちづくりモデルに

 「誘致に応じた最大の理由は、この町がイノベーションを起こすのに重要といわれる『よそ者』『バカ者』『若者』を受け入れる開かれた町であり、よそ者の声にも耳を貸してくれることでした。私が町のどこでもWi-Fiがつながるようにすべきだと提案したことも実現しています。地方の時代を迎えた時に、波佐見町を先進のまちづくりのロールモデルにしたいと考えています」。

 今では、窯元の若い後継者や海外からの移住者などが、新しいデザインの波佐見焼を作り、若い人にも買い求めやすい価格で雑貨店などの新しいチャネルで販売している。全国的に人気の高い焼き物となり、町に国内外から多くの人が訪れるようになった。ホテル開業前の2014年は85万人ほどだった年間観光客数が2018年には100万人を突破した。同社の「ホテルブリスヴィラ波佐見もそのきっかけの一つ」と町から評価されている。

 そして、船橋社長は今、新たな波佐見町の魅力作りに取り組み始めた。ジビエ料理だ。
 「町内で年間800頭から900頭のイノシシが捕獲されているのに全て廃棄されています。これを何とか活かせないかと、波佐見町のベンチャー企業・株式会社モッコと組んでメニューを開発しました。町内の人たちも家族連れで食べに来てくれています」。

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通年で安定したクオリティを提供できるよう、イノシシのひき肉を使った「波佐見プレート(ハンバーグ)」。

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冬季限定で提供された「波佐見野菜たっぷりの天麩羅とシシ汁膳」。

イノシシ肉のジビエ料理を波佐見町の新たな観光資源へ

 波佐見町への移住者ながら町議会議員を務めるモッコの城後光社長は、自ら狩猟免許も取得してイノシシによる獣害問題に取り組んできたが、処理施設が空いたのをきっかけに、2020年2月に食肉加工販売業を起業した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、当初計画していた飲食業への販売は滞ったが、通信販売で一般家庭向けにスライス肉などを販売している。

 「ホテルとメニュー開発をするうえでネックとなったのは、飼育されている牛や豚と異なり、野生のイノシシは季節によって脂の乗り具合が全く違うことです。秋に脂肪分の多い木の実をたさん食べたイノシシはおいしいですが、夏のイノシシはステーキなどには使えません。そこで、通年で安定した美味しさを提供するため、ひき肉を使うことを提案しました」と城後社長。

 そして、2021年7月からホテルレストランの夕食メニューにイノシシ肉のハンバーグやキーマカレー、ちゃんぽんが加わった。

 「皆が儲かるところに集中していた“経済の時代”は終わり、今は人々の意識が多様化している“文化の時代”です。そうしたなかでまちづくりビジネスはブルーオーシャンだと思いますよ。当社はスピード感を持って新しいビジネスを展開できるのが強み。ゼロから革命的なことを起こせなくても、ジビエと波佐見焼といった組み合わせから新しい発想も生まれます。この先ジビエ料理を出す店が増えていけば、町の新しい観光資源になると確信しています」と船橋社長は力強く語っている。

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